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さあ、逃げましょう

ちょっと大改装

システムの声をプレイヤーの声と勘違いしたナギサがキョロキョロと見渡すと、湾曲した槍のようなものを背負った男性を見つけた。

装備もナギサのような駆け出しではなく、格好いいものを着けている。


「あの…私に何か言いましたか?」


「うぇっ?んー、俺?……しかいないよな…え、バレた? いやでも…ん?」

何故か挙動不審になり始めた男性にナギサは確信めいたものを感じているが、勿論偶々ここに居合わせたプレイヤーである。


「えーと、称号とか…スキルとかとにかく何か言いました?」


「……もしかしてシステムの事か?」


「シス……てむ?」


「マジか…」

こてんと首を傾げたナギサに絶句する男性。


「嬢ちゃん…取り敢えず『ステータス』って言ってみ?」


「『ステータス』へえっ!?」

ナギサの目の前にキャラクター作成の時に操作した青いパネルが現れた。


「マジか……やっぱ間違いじゃねぇか」


「間違い……?」


「ん…あんま気にするな。嬢ちゃんゲーム初心者だろ? ……大丈夫大丈夫、そんな顔すんな。普通に分かるから」


「えぇと……これは…」


「あー取り敢えず…頭の中に響くような声はシステムって言って、プレイヤーに関するステータス、スキル、称号……それも説明しないといけないのか」


「流石にステータスは分かります! AGIが足が速くなって、DEXが料理上手になるんですよね?」


「マジか……」

ナギサのあんまりな答えに思わず男性は膝をついてしまった。


事前情報とかそういうものではなく、ゲームの基本的な知識が無いこの女の子がどのようにステータスを割り振ったのか考えるのも恐ろしい。せめて矯正可能な範囲であることを願って顔を上げた男性は、そんな願いなど吹き飛ばす衝撃的な光景に襲われた。


「なぁ嬢ちゃん…嬢ちゃん処罰(パニッシュ)称号って聞いたことあるか?」


「へ? あっ、さっき聞きました!」


「そうか…まぁ後ろ向いて」

言われた通り後ろを向くと遠くにモンスターの群れが見えた。

四桁に届こうかという大集団である。

ナギサでは逆立ちしたって倒しきる事が不可能なそれ等の視線は心無しか自分に向いてる気がする。


「またなの!? なんか増えてるし!」


「MPK用処罰(パニッシュ)称号の効果だな……よっしゃ嬢ちゃん逃げるぞ!」


「え……はいぃぃやああああ!?」

走り出した男性を追おうと咄嗟に踏み出した足が地面に着いた瞬間、ナギサは急加速し、前に飛んでいった。

唖然としている男性を置いて…


「えっ、ちょっと待って嬢ちゃん速くない? え……速くない? もしかして嬢ちゃん上級者?」

置いていかれた男性は地面を跳ねるように遠ざかっていくナギサの背中を見ながらひたすらに困惑していた。

因みに上級者とは特定の行動を縛ったり、プレイに支障が出る行動を率先してやる変態の別称である。ここにナギサが居ればどんな手段を用いても撤回させようとするだろう。




「んにゃぁぁあああ!!」

一方のナギサは言うことを聞かない自分の体に振り回されていた。

体が余りに速く動きすぎて制御が出来ない。

一歩目を踏み出そうと意識した瞬間、既にその一歩は終わり三歩目が出始めているのだ。比較対象が陸上選手を超えてスポーツカーが顔を出す速さである。


「うぅ…もう嫌……もう走らない」

そして結局地面を転がって止まる。

このままではいつか轢き逃げを起こしかねないため、体の動かし方を覚えるまでは全力で走ることを封印。

すぐ近くの町の門までシャカシャカ歩いていくナギサだった。



「もう疲れたよ……」

ナギサが門を潜ると…


『固有ユニーク称号[怪物と友愛][災厄]を獲得しました』


『称号よりスキル【集合】【厄災】を取得しました』


「う……またー?」

本日何度目かのシステムの通知音。

普通のプレイヤーなら跳び跳ねるほど喜んでいい内容が含まれているのだが、ナギサにとっては只のうるさい何かになっていた。


「『ステータス』……メニュー画面あったんだ。あっ…マップも……」

何故かやるせない気持ちになったナギサである。


「明日までに少し予習しとこうかな……」

プレイ開始から二時間。

圧倒的情報不足を痛感したナギサはゲームの為に勉強ってなんだかなーと思いつつログアウトした。



この後、始まりの町を囲むモンスターの群れが出現。

その数なんと十万以上。中には普段は空を飛んでいるドラゴンや丘巨人(ヒル・ジャイアント)等レイド級のボスモンスターが含まれ、事実上始まりの町は封鎖された。

一時間程で主要モンスターは包囲網を離れるも、トッププレイヤーと同等以上の能力を持ったエリアボスモンスターや、範囲型回復魔法を使うモブモンスターの活躍により泥沼化。

翌日金曜日午前九時、殲滅型トッププレイヤー四名を基軸とした、二点突破が実行。一五〇〇名以上が投入され『指揮者』『紳士(変態)』が死亡するも東門側の包囲を突破。

モンスタートレインを駆使し事態の沈静を図る。

同日午後二時…


「なぁイージス……お前、本当に知らねぇんだよな?」


「…何も知らねぇよ」

イージスと呼ばれた男性は見える範囲で最後のモンスターに止めを刺すと、大盾を持ったプレイヤーに答えた。

そのプレイヤーは何か含むことがあるようだったがそのまま町の方へ歩いて行く。

辺りにはモンスターからのドロップ品が足の踏み場も無いほど落ちており、どれだけ激戦だったのか伺える。


「結局生き残ったのは俺とあいつか……」

イージスと大盾を持ったプレイヤーを主軸とした八〇〇のプレイヤーは予想より強力なモンスター群に苦戦し、突破に半数。

モンスタートレイン同士がぶつかったり、味方が逃げ出したりで残りの八割。今止めを刺したエリアボスモンスターが範囲殲滅型であったのが災いし、二人以外が死に戻ったのだ。


「はぁ……嬢ちゃん…ちょっと冗談きついぜ」

町の反対側から生き残りのプレイヤーがトレインを成しているのが見える。

此方に向かってきているようだ。


戦闘は回避出来ないと判断したイージスは、背負っていた湾曲した槍のようなものに手を伸ばした。



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