無意識に他人を困らせましょう
「やりやがったぁあぁああ! 選択ミスったあぁぁああ!!」
主に迷惑プレイヤーの管理を任されている運営の一人の大声にその場にいた全員が反応した。
「おいおいどうした!?」
「よっぽど態度悪いやつでも出てきたか?」
「フフフッ……まぁ見てみろ」
足元に転がるドーナツを無視し、端末へ齧り付く同僚。
少し壊れ気味の彼に全員が薄気味悪いものを感じてると、部屋の中心に始まりの街周辺の立体マップが映し出された。
マップには青い点と赤い点、そして黄色い点が様々な場所に表示されていた。
割合は青が一未満。黄色が五強。赤が四と言ったところ。
それが何を示すマップかを遅れ馳せながら気付いた面々は、知りたくも無かった現状を叩き込まれた。
「マジでどうなってんだぁあぁあ!?」
「活性率四十二%とか狂ってんだろぉぉお!? 何万体になると思ってる!」
「えー、十五万とんで五〇五ですね。ありがどうごさいました! 死ねるわこんちくしょう!」
「バグか? バグなのか? バグだよな!? バグだと言ってくれ!!」
このマップは青い点がプレイヤー。黄、赤がモンスターを表す。そして黄色と赤の違いはプレイヤーと戦闘状態に入っているか否かだ。
つまり始まりの街周辺に存在するモンスターの内、約半数が何者かと戦闘状態に入っている事を示していた。
平均三%。サービス開始からの最高値が五%であることを考えれば四十二%という値は余りにも受け入れられるものじゃない。
グラフを見れば徐々に上昇した訳でもなく、一分前後でこの有様である。真っ先に疑われるのはやはりバグだろう。
しかし、現実を直視しない同僚達に向けて一つの映像が中央モニターに送られる。
「何だってこんな時に……あー『夢見の丘』だな」
とある高難易度クエストの舞台。
見慣れたその場所には初期装備に身を包む可愛らしい少女がいた。
「その子と今回のことに何の関係があんだよ!」
「まあ、違うと思うが……【誘引】とか?」
「……おいおい、冗談も大概にしろよ。あの純粋そうな瞳を見ろ……好み――違う違う! 人に迷惑掛けるようには見えんだろ」
「あー……それもそうか。悪い、忘れてくれ」
「「……」」
弾かれたように部屋内全ての視線が一点に集中する。
万が一にもその可能性を排除する為に。
しかし、無情にも上げられた親指に皆表情を失くした。
「嘘だぁぁぁあ!! 何であんな子に処罰称号付けてんだよ!!??」
「十件以上報告入ってんだから仕方ねぇだろ!? こちとら情に流されちゃあいかん商売でっせ!!」
「報告ってなんだよ!? バリッバリの初心者じゃんか! どんなことしたらそんなに迷惑掛けられるってんだ!ああっ!?」
「……MPK」
「被害は!」
「無かった(てへっ)」
「「「てんめぇこのやろぉぉぉお!!!!」」」
少しの間、部屋内の共通言語が拳になったのは仕方がない。
だが悪は成敗された。
「どうにかあの子を殺らんと不味い。反応してるボス個体で囲え! 急ぐぞ。他部署には事後報告でいい、室長の俺が許可する!」
「待て待て、今あの子の情報を……名前はナギサ! AGIとDEX特化だ! これなら…えっ…………嘘だぁぁああぁ!!」
崩れ落ちた者のデスクに部屋内の全員が集まった。
「【逃走】と【遁走】に【正念場】!?」
「何で称号スキル持ってんだよ初心者なんだろ!?」
「てか称号三つとか最多じゃねぇか! ログ見せろログ!」
「ナギサちゃんのAGIは!?」
「……八〇」
「……この付近にAGI五〇〇越えっていたっけ?」
「せいぜいが一〇〇以内、最速も三〇〇無いぞ」
「うわぁぁぁあぁあ!!」
「いや、待て! 初心者ならその内転んで死ぬだろ!?」
「[最速者]が邪魔してんだよ!」
正に阿鼻叫喚。流石の運営もサービス開始三週間でここまで大規模なイベントが一人のプレイヤーによって引き起こされるとは思っていなかった。
「「「「「「……」」」」」」
そして画面内のナギサが始まりの町に入ったのを見てその場にいた全員が声を忘れ、これから地獄絵図が展開されることを確信した。