イベントを楽しみましょう 2日目 3
一方その頃。広場はというと第三勢力の出現で更に混沌度が増していた。
「ナギさんあれ!レーザー!レーザー!早く出して!」
「さっきのでガス欠なのっ!!」
「じゃあガソリン入れて!」
「……10時間」
「ムリぃ!ピッ!?」
鼻先を剣風が撫でる。
やや不安定な姿勢で回避したアオハは、やや不安定から不安定になる代わりに襲撃者の腕を蹴り壊した。
人間ならゲームだとしても片腕が取れたら何らかの反応を見せるだろうが、襲撃者は止まらず再度剣を振り下ろす。間にナギサが入ってパリィ。
動きが止まった。
立て直したアオハの右ストレートが襲撃者の胸元、鈍色のクリスタルを穿つ。
襲撃者もとい騎士の像は活動を止め、石像本来の姿に戻った。
「これで何体!?」
「えーと、16?」
「減ってる!?」
「気持ち増えてるような……」
「ウッソでしょ!無限湧きっ!?伏せ!」
「ニッ!?」
ナギサの髪を数本持っていき、新たな騎士像は大きく空振る。
伏せたナギサを跳び箱の要領で越え、アオハは火球を押し付けた。爆発。下半身だけの像が残る。
「じゅぅななっ!あーもう、アイギス!早く倒して!」
その言葉とほぼ同時にアオハとナギサに近付いていた騎士像の胸に矢が生え、停止する。
「ありがとうございます!アイギスさん!」
手を振ってピョンピョンするナギサを見て、倒壊を免れた建物の上で弓使いはポツリ。
「……何で俺、顎で使われてるんだ?」
あの変態仮面が【ギルド創設券】取得してから騎士像がワラワラ出てきた。そこまでは良い。……いや良くは無いが数が多くても所詮雑魚。あそこでコイツら出してる親玉を倒して終わり、の筈だ。
「ナギさんの友達なら手伝って」と嬢ちゃんの友達? が超理論を展開し、当然のように嬢ちゃんがキラキラした目を俺に向けなければ。
さて、ここで断りを入れ嬢ちゃんを攻撃出来るだろうか?
CSOのアバターは声をイジれないから見た目通り中学生だろう。まぁこの声を出すオッサンって線もあるが、少なくとも散歩してパンダとエンカウントするのと同じ位ありえない。てかそんな希少動物いるなら逆に交友を深めたいわ。
分かる。うん、所詮ゲーム。ところがそう割り切れなくて俺はこんなトコで露払いを任されてる訳で……いやもうあのボス倒していいかな?今なら過去最速で連射できる気がする。ううん出来る絶対。でも嬢ちゃん達やる気満々だし……
以上、ボスをキルゾーンに入れて思い悩むアイギスの胸中であった。
アイギスが葛藤の中作ったセーフゾーンで一息ついた二人は作戦を考える。目標は広場の中心で騎士像を生み出し続ける全身鎧の騎士だ。
他のプレイヤーは騎士像の処理に手一杯なので考えなくていいだろう。
「ナギさん遠距離攻撃持ってる?」
この質問の遠距離攻撃とは『多数の騎士像を貫通し、ボスに有効打を与える事が出来る』攻撃のこと。代表例は【ソレイユ】だが、残念ながら打ち止めである。
「うーん……1個だけ?」
「マジで!?」
ダメ元で聞いたアオハにとってその返しは僥倖だ。
「で、でもまだ使った事無くて………」
「だいじょぶだいじょぶ!あるだけマシ!」
しかしナギサからそのスキルの説明を聞いてアオハは口角を引つらせた。
「……え、飛ぶの?」
かつて霊亀と呼ばれる巨大な亀がいた。
余りに巨大で余りに強大。数千年の時を生き、信仰を得るに至った魔物が。彼の亀は数十年の休眠と数年の活動を繰り返し――――
と、この国が建てられた場所がその亀の甲羅の上だったとか、実は楔巨人は休眠を長引かせる為の術式の一部だった等。
建国から、何故か書かれている廃都になった原因までを綴った歴史書。今は設置されたボス部屋と一緒に城ごと吹き飛び、瓦礫の一部を担うその本にはこう記されている。
南北国境より隣国の侵略を許す。第10騎士団を王都の防衛に残し、王率いる第2から第9騎士団で南部戦線を制圧。逆侵攻を開始する。
対し北部国境、敵軍10万に正対するは第1騎士団。団を背負う騎士は1人。2日目にして北部の王、5日で南部の王を獲った彼の名を【騎士団長ウェーハ】または『孤軍』という。
王国歴311年 甲淵戦線
流石に今回用意された【騎士団長ウェーハ】にそんな非常識な強さは無いが、受け継がれている能力がある。
分身を生み出す能力である。それも敵の数の五倍の。
つまりウェーハが出て来た時点のプレイヤー数―――一〇五×五体の騎士像が生み出された訳だ。
……運営の頭からネジが全て抜け落ちたのか心配になるが彼らに非は無い。運営だってこんなにプレイヤーが残った段階で二つのシークレットクエストがクリアされるとは思って無かったのだ。
ウェーハは「日の目を見ないならどんなに強くても良いよね?」と悪ノリした制作陣とGOサインを出した運営の産物である。
そしてプレイヤーが一〇〇を下回っていたら【巨兵隊】というジェントルが倒した巨人達に武器を持たせて、少し賢くなった程度の三下も三下。常識的なボスが出る予定だった。
因みに一〇九を上回っていたら【夜王ヴィルマ】という空飛ぶジェントル(レイドボス)が出現したのでこんなボスでも良心的だったりする。
「じゃあナギさん頼んだよ!私は皆に伝えるから!」
計画を建てアオハは戦線から離脱し、他プレイヤーの元へ向かう。
「はーい、行ってらっしゃい!」
残されたナギサがとった最初の行動は今の今まで忘れていたステータスポイントを振り分ける事である。それもAGIにでは無い。
「えーと、全部VITに……」
200ポイントがVITに消え、物理防御力が263。HPに至っては2千を超えた。もう物防特化のタンクを名乗っても差し支えない値である。寧ろ一般的なタンクでも250を超えるのは中々いない事を考えると本職が不憫だ。
それを踏まえた上で範囲内にプレイヤーがいない事を確認し、ナギサはインベントリから【忌み物】を取り出し口にした。
上昇するステータス。
更に……
「【蠱毒・INT】!」
魔法防御力が210……
全ての強化手段を終えたナギサの現ステータスを表示すればこうなる。
ナギサ LV41
HP2950/2950
MP810/810
【STR 0〈+50+80〉】
【VIT 200〈+60+90〉】
【DEX 30〈+13+70〉】
【AGI 70〈+245+90〉】
【INT 0〈+50+160〉】
【MND 0〈+200+90〉】
なんだこれ。
これを見てしまった運営はもう笑うしか無かった。理由は単純、ナギサの全てのステータスを合計すると約1500になる。そしてその値はウェーハより少し上なのだ。今のプレイヤーの平均値では勝てないように創られたウェーハよりも。である。
ナギサは今日からエリアボスと同格の扱いを受ける事になる。
「よし、集中!」
爪先をトントン、ほっぺたを叩いて気合いを入れるとナギサは【浮遊】を発動させた。
地面から三十センチ程浮く何も消費しないエコなスキルで、このままでは動く事もできない。しかしあるスキルと組み合わせると不可能を可能とする。
「【タマカツラ】!」
首飾りが輝き背後に赤、青、茶。三色のシンボルを含んだ一メートル程の魔法陣が出現した。
【ゴシックドール】を彷彿とさせる姿に、掲示板、観客が共に沸く。
「じゃあ!行ってきますねアイギスさん!【炎】!」
「お、おう……行ってこい……」
赤のシンボルが魔法陣全体を染め、噴出されるのは無数の炎弾。
そして空中に浮いているナギサは反動で加速。
ゴシック少女は空を飛ぶ。
「ま、待て嬢ちゃん!?いや行かなくていい!行かなくていいんだっ!お、おれ!俺がやるからあぁぁぁぁ」
作用反作用の原理に従い後ろへ放たれた炎弾がアイギスの建物を破壊し、炎上させるのに気付かないまま。
[収集家]
インベントリの容量が三倍。貴族NPCに対する好感度に補正が入る。
獲得条件
取得したアイテムの種類が最多を記録する。
記録を更新されるとこの称号は剥奪。
取得者
ガン・スミス
朝の七時と夜の十九時間違えました。
ごめんなさい




