イベントを楽しみましょう 2日目 2
お久し振りです(1ヶ月)
今日から3連投!!明日は槍が降りそうです……予約投稿出来てなかった。
「【マギ・マスター】【多重展開4・Ⅰ】【ファイアボール】」
【ファイアボール】。【初級火属性魔法】に含まれる魔法の内、威力に秀でていて、ほとんどの魔法使いが習得している魔法である。
着弾と同時に小規模の爆発を起こすため、物陰に隠れた敵を追いやるのによく使われるのだが、放たれた四つの炎弾は魔法陣が上向きだったのが原因で壁を越え、廃墟を越えて何処かへ行ってしまった。
既に術者からは見えなくなってるし、意味の無い無駄撃ちに思える。
しかし術者は小さく呟いた。
「―――ヒット」
その言葉通り、放物線を描いた炎弾は鞭を装備した女性プレイヤーに全て着弾。本望を果たしていたのだ。
「そしてロスト……さすがワタクシ」
それを確認して片眼鏡に隠れた右目を金色に光らせる怪しさ満点の術者―――ジェントルはウムウムと頷いた。
「さてさて、ナギサ様に引き寄せられた方は……92、3人ですか」
実はこのジェントルというプレイヤー。たった今トッププレイヤーを瞬殺したようにかなり強い。
称号保有数はナギサに次いで五つ。
魔法保有数に至っては二位に大差をつけて一位である。
最強プレイヤーの名を挙げればアイギスと並び、必ず出てくる人物なのだ。
因みに知名度に関して言えばブッちぎりで一位。
なにせセクハラ紛いの言動でプレイヤー初の処罰称号を取得し、始まりの街を大混乱に陥れた張本人である。有名にならない訳が無い。
例によって二つ名を持っており、『紳士』と呼ばれている。
そして厨二心くすぐる右目の正体は称号スキル【天眼】。
効果は自身を中心とする俯瞰の視点を得るというもの。
範囲内なら建物の中に居なければ常に捕捉されてしまうのだ。四方を建物に囲まれた空き地でジェントルが戦況を把握できる理由である。
やはり数ある称号スキルに漏れず、性能がおかしい。
しかも通常半径五十メートルが限界で、使用中は情報量が多過ぎて頭痛しか感じないこのスキルを、他の称号スキルで更に強化。
運営に「うっわきんも」と言われる程の処理能力を駆使して、何とイベントマップ全てを網羅するにまで至っているのだ。
色んな意味で紛れもない『紳士』である。
「ここが腕の見せ所ですねぇ」
その言葉を皮切りに弾幕が展開された。
「【マギ・マスター】【多重展開3・Ⅰ】【アースボール】【ファイアアロー】【アースボール】【スモーク】【パラライズ】【多重展開5・Ⅱ】【範囲拡大5・Ⅰ】【ファイアボール】……」
足元では魔法陣が絶えず明滅し、その度に何らかの魔法が飛ぶ。
程なくして広場では謎の砂埃や煙幕でナギサへの射線が遮られる。魔法詠唱中に流れ弾が当たる。一時的に手を組んだ仲間から突然攻撃される等、不幸な偶然が連続した。
勿論全てジェントルの仕業である。
倒すのは二の次。
優先すべきはナギサを生かし、その他を大きく消耗させること。
各戦闘を観察。
力量差のある組み合わせを魔法で強引に引き離す。
そして拮抗するであろう相手へと誘導。
新規のお客様には複数人から狙われるようにヘイトを集めさせ調整。
ボロボロになったプレイヤーは広場中央にいるナギサへ接客を頼み、退店を促してもらう。
「アオハ様が来店されましたねぇ」
それでもジェントルのやることは変わらない。片手じゃ足りない量の同時進行作業にアオハの護衛を追加するだけである。
時々超高濃度MPポーションを口にしながらも、魔法が途切れる事はない。
その姿は一種の完成されたものであり、美しささえ感じさせた。
こうして広場の戦闘は激しさを増してゆく。
「合流……これで暫くは大丈夫でしょう」
ナギサとアオハのコンビが上手く立ち回っているのを見てジェントルはフッと息を吐いた。
関係破壊工作によって誰もが誰もを信用しない理想の環境が出来た。ナギサ達が多数に囲まれることはないだろう。と。
「では、ワタクシも活躍しましょうかねぇ。手頃な相手もいることですし」
もうお前は充分活躍してると止める者はここにいない。というか不審な魔法の発生源を辿った者には魔法の雨に見舞われるので止めようがない。
そして手頃な相手というのは【天眼】に写るモンスターの事だ。
一戸建てに迫る巨体。痛々しい傷痕に覆われた体躯は正に筋骨隆々と称えるに相応しい。かつて手足を拘束していた巨大な鎖は半ばで千切れ、振り回すだけで凶器となるだろう。
そんな巨人が東西南北各地から一体ずつ、合計四体。城を目指しゆっくりと進んでいた。
「城に到達する前に倒せ……でしょうか? 若しくは護衛? ……誘導という線もありますねぇ」
イベントクエスト〚楔巨人〛関係のモンスターで有ることは分かっているのだが、如何せん判断材料が少ない。
暫し悩み、ジェントルは東門近くにいる巨人に炎弾を放った。
「ふむ……ダメージは通る、と」
当然そんな事されて黙っている者はいない。
「ああ、そうやって攻撃するのですか――【シールド】」
直後。ジェントルの前方で半透明の盾と電柱かと見間違う大きさの槍が衝突。とんでもない音圧を撒き散らす。しかし結果に構うことなくジェントルは三歩前進した。一拍の後、元いた場所に初撃と同様の巨大な槍が三本突き刺さる。
ダメージを受けた一体ではなく、四体がほぼ同時にジェントルへ攻撃したのだ。
「連動しますか……やはり討伐対象でしょうねぇ」
護衛ならば反撃される筈が無い。少し暴論の混じった考えでそう判断し、早速どの魔法が最適かを考え始める。
ジェントルは今回のイベントに二つの目的を持って臨んでいた。
一つはある程度達成しているのだが、二つ目、お店の宣伝はハードルが少し高くなっているのだ。
脳裏に浮かぶのは数分前、城を吹き飛ばしたあの閃光。
「……あれ以上でなければ効果は薄いでしょうねぇ」
自分が魔法職最強と呼ばれているのは自覚している。ここでナギサの一撃を超えられなければ魔法職全体の価値を落とす事も。
まあまず城の破壊と比べられるのも不憫と言うべきだが、幸いにもジェントルは難しいその要件をクリア出来る魔法を覚えていた。
「【マギ・マスター】【多重展開4・Ⅴ】【範囲拡大5・Ⅳ】――」
上空に半径十メートルを越す超大型魔法陣が四つ出現。
周囲を白く染め上げる。
これだけで今から行われる魔法が想像の埒外にある事が予測された。
「――【詠唱長文化5・Ⅲ】【飛距離増大5・Ⅱ】【分裂5・Ⅰ】【詠唱破棄】」
射程をマップ全体まで延長。
五倍になり十五分に伸びた詠唱時間は膨大なMPによって無理矢理実用レベルへ落とし込まれる。
普通では考えられないスピードで完結した魔法は待機状態へ移行した。
「殲滅型最強魔法。まあ、『今は』ですが。お代はドロップアイテムで結構です」
場の空気に酔いしれ紳士は笑った。
高々と挙がった右手に呼応し景色は赤へ。
唱えるは基本の基本。【ファイアボール】と並ぶ知名度を持つだけの火属性魔法。
「【ファイアアロー】」
燃える幾何学模様から赤柱が飛翔する。
全体像でやっと火の矢だと認識できるそれ等は四方へ散り、分裂を始めた。倍へ倍へ倍へ。
空中であれば重量からは逃れられない。上昇を止めれば後は落ちるのみ。
それは雨、全てを燃やす赤い雨。
後に【クラスター】と名付けられた合成魔法は巨人の高HPなど意に介さず削り取り、飽き足らずマップ外周の建造物尽くを炎上させた。
上空の視点から街を囲んだ火の手が街を徐々に包み込むのを見て、紳士は呟いた。
「被害は抑えられた方でしょうし………流石ワタクシ。縮めてサスワタ………御用になりそうですねぇ、やめましょう」
自分へ向けた称賛を聴きながらジェントルは広場へ向かう事にした。
[探索者]
使用装備、アイテムの耐久値。回復アイテムの回復量が1割増。
獲得条件
マップ解明率がプレイヤー間で最大を記録する。記録が更新されればこの称号を失う
獲得者
ルームルルート




