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走ってみましょう

書いてませんでしたが、暫くは貯金があるので、投稿が安定します。

……と言っても直ぐに尽きそうですが。

CSO内始まりの町。中央広場。

その名の通り始まりの町の中心に近く、ヨーロッパ風の建築様式が見られるこの広場には石畳が敷き詰められ、周辺には大小様々な露店が建ち並ぶ。


行き交うプレイヤーの格好も相まって大変異国情緒に溢れたこれが渚がナギサとして見る始めての景色だった。


「さて……青葉と会うのは明後日だし……どうしよう」

暫くその町並みを眺めていたものの、ナギサにはこれといって目標はない。

そしてキョロキョロと辺りを見渡した。


「地図は……いっか」

本来ならここで『メニュー』若しくは『マップ』と言えば各種機能を呼び出せるのだが、そんな事は知らないナギサは広場に地図らしきものが無いことを確認すると、気の向くままに進む方向を決める。


ナギサは前方に人がいないか確認し、手を地面に付け腰を上げた。

形だけは堂に入ったそれはクラウチングスタートと呼ばれるもので、事実。口の中で「ヨーイドン!」と呟き、それはそれは綺麗なスタートを切った。


数字をポチポチしただけで足が速くなった実感が全く持てなかったナギサは居ても立っても居られず、走る事にしたのだ。


「おお……速い速い! ってあっ!? まっ…んにゃぁぁ!!」

そして陸上選手もびっくりのスピードで動き出した自分の体を制御できずに足をとられ派手に転んだ。


AGIを急に上げるとリアルの感覚が重石になり、自分の体に振り回されることになる。


ちゃんとステータスを割り振る際に警告文が出ていた筈なのだが、足が速くなる一点だけに注目していたナギサにその情報は届いていなかったようだ。


「嬢ちゃん、頑張ってな! 誰しもが通る道だ」


「先ずはゆっくり、ジョギングみたいな感じで慣らしていくんだよ」

その事を身を持って理解している周りのプレイヤーは、急に走って盛大に転んだ初心者装備のプレイヤーの奇行を笑うことなく、アドバイスをくれる。

一種の通過儀礼のようなものであり、ナギサの見た目が小中学生なので、視線が生暖かい。


「あ…ありがとうございましたぁぁぁ!」

居たたまれなくなったナギサが走り出すのは当然で、そしてまた派手に転ぶ。

周囲の目が更に暖かくなり、再び立ち上がると顔を真っ赤にしてその場を離れた。

今度は転ばないように小走りで。



始まりの町、十字に走る大通りを数回曲がった所にあるそこそこの広さを持つ公園。

備え付けのテーブルベンチで体育座りをし、膝に顔を埋めているプレイヤーがいた。


「うぅぅ……恥ずかしい……」

ゲーム開始五分待たずに穴を掘りたくなったナギサである。

小走りでさえ何度か転びそうになりながらようやく人のいない場所を見つけたのだ。


「どうしよ……明後日青葉に会うのに……」

あの気のいい友人はそれはそれは笑うだろう。


「……決めた。私、ゲームの中くらいは足を速くする!」

思い出せば出てくる出てくる青葉の笑い声に決意が固まり、宣言とばかりに拳を突き上げる。

しかし通りがかりの女性プレイヤーにクスりと微笑みを向けられ、赤面し、早速ナギサの決意は揺らぎかけるのだった。



そうと決まれば行動とナギサは町の外に出ていた。

町の中では走ると他のプレイヤーに迷惑が掛かるのと、やっぱり誰にも見られたくなかったからだ。


「よしっ!」

ナギサはトントンと爪先を地面に跳ねさせ、土の感触を確かめると視線を目の前に広がる草原に向けた。

そしてそっと走り出した。



十分後。余り代わり映えのしない景色を他所にナギサは全力で走っていた。しかし十分やそこらで頭と体が慣れる筈もなく、躓いたり足が縺れたり。ステータス分の敏捷性はまだ発揮出来ていないようだ。

実際、何度か転んでいるがその度に四足歩行になったり、変則的なスキップになったりして止まるのだけは何があっても回避している。

その様は決して乙女がしていい動きではない。


「何で着いてくるのぉぉぉ!?」

そんなナギサの後ろには合計三十羽を越える角の生えた白兎と後ろ足に鉤爪の生えた黒兎の集団。そして数頭の狼、空からは三羽の鳩がピッタリと着いてくる。

これらは全てモンスターで、プレイヤーを襲ってくる敵だ。


小走りで駆けていたナギサは白兎を見つけ、その可愛らしい見た目からモンスターと思わず、触ろうと近付いた。

その結果が今の状況と、ナギサの視界端に浮かぶレッドゾーンを示すHPバーだ。

更に走り回ることで他のモンスターに見つかるという悪循環で、その数は徐々に増えている。


「どうしよ……! あれは!」

いつの間にか増えているモフモフ達に驚愕しつつ、一筋の希望を見出した。

進行方向に五人組のプレイヤーが現れたのだ。

そのまま真っ直ぐ進む。


「助けて下さぁぁぁい!」

出来る限りの声を張り上げるナギサ。その声は五人組を振り返らせる。

しかしプレイヤー達から見れば、小学生くらいの少女が大量のモンスターを引き連れ自分達に突進するように見えた。

俗に言うMPK。モンスタープレイヤーキラーに勘違いされても仕方がない。

しかも始まりの町周辺のフィールドモンスターは最弱とは言え、そのフィールドにいるのは大体が初心者。

そもそも『CrystalSkill Online』がサービス開始から三週間しか経っていないのだ。

四十を越え、五十に届きつつあるモンスター相手に立ち向かえるプレイヤーやパーティーなど数えるほどしかいない。

そして彼らがその中に入っているかというと否だった。


「「「「「こっちくんなぁぁ!?」」」」」


「何で逃げるのぉ!?」

当然の反応に困惑するナギサ。

しかし、自分のやっている事に今更ながら気付き、慌てて進路を変えた。


その後、ナギサが何度助けを求めようと逃げられてしまう事が繰り返され、もう間もなく走り始めて一時間半となった。

ゲーム内で頭はともかく体の疲労は感じないので、持久力の概念は殆ど関係しない。

その事だけが現状ナギサの味方だった。

もうその頃にはナギサが転ぶことは少なくなり、ある程度の距離を保ってモンスターを引き連れることができていた。

一気に引き離さないのは増えに増え、三〇〇は軽く越えるであろうこの群れがこの後どうなるか心配だったからだ。


「本当にどうしよう……町に戻ったら迷惑かな……?」

セーフエリアの存在を知らないナギサはモンスター達が町の中に入れると思っていたため、決断を遅らせていた。


「でも……強そうな人いたし……それにプレイヤーだって沢山居たから……大丈夫…だよね?」

ただ、マップも無くがむしゃらに走り回っていたナギサが町の場所を覚えてる訳がなく、道に迷ったら高いところに登れの原理で近くにあった丘に足を向ける。


そしてその途中にいたパーティーを迂回したとき。


『称号[心優しき逃走者]を獲得しました』


『称号よりスキル【逃走】【遁走】を取得しました』


「へ?」


固有(ユニーク)称号[死地]を獲得しました』


『称号よりスキル【正念場】を取得しました』


処罰(パニッシュ)称号[平穏を揺るがす者]を獲得しました』


『称号よりスキル【誘引】を取得しました』


『強制発動【誘引】制限時間は一時間です』


「きゃぁあぁ!?」

体が更なる加速を要求する。

既にいっぱいいっぱいだったナギサがそれに対応できる筈もなく、後続のモンスターをとんでもないスピードで引き離し、水面を跳ねる石のように何度も地面をバウンドした。


着実に残り少ないHPを削りつつ止まった時にはモンスターの索敵範囲のかなり外で、追い掛けていたモンスター達は唖然と言った様子。


『称号[最速者]を獲得しました』


「えっ……なに、だれ!?」


どうやらAGI増加効果のあるスキルを手にいれたようなのだが、メニュー画面もスキルの存在も知らないナギサには確認のしようがない。

更に先のシステムログをプレイヤーの声だと思い込み、キョロキョロと辺りを見回す。

その行動は、現状を悪化させるに一番効果的な一手で……



「……うそ〜ん」

ナギサの知らない場所でナギサを監視していた人物は、みるみる内に赤色に染まっていくモニターを見て、食べかけのドーナツを落とした。

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