イベントを楽しみましょう 1日目
長めーですよー
「早く早く早く早く……」
イベント当日、ナギサは中央広場の隅っこで顔を覆っていた。
というのも、CSOは宿屋や他の街以外でログアウトすると次にログインするときこの中央広場に戻ってくるのだ。
ゴシックドレスでスポーンしてきた美少女が目立つのは必然で、無警戒のまま注目を集めたナギサがテンパるのも必然。
しかし、AGI310で街中を突っ走れば毎秒一件は衝突事故を起こすし、イベント参加者は中央広場付近に居なければならない。
結果、ギクシャクした動きで広場の隅っこに座り、イベント早く始まれと顔を覆っていたのだ。
「うー……私のバカぁ……イベント始まってから着替えればよかったじゃんんん……」
無遠慮な視線をその身に感じながら後悔する。
カウントダウンがゼロになり、広場の中央に大きなモニターが現れた。
『野郎共!! おっと淑女の皆様も!! イベントの時間だぁぁ!!』
野性味の溢れた時報がモニターに映った男から飛ぶ。
直後。うおおおぉぉぉと広場が揺れた。
『おっしゃあ、生きの良い奴らがたくさんいるな! さて、分かってると思うがルール説明だ! 今日は同種武器バトルロワイヤル!! 周りを見て同じ武器を持った奴がいたら注意しな。おっとそこ、イベントゾーンに入ったら全回復させっから毒撒いても意味ねぇぞ!』
ナギサが周囲を盗み見るも、包丁装備らしきプレイヤーは見当たらない。
同じ武器同士のプレイヤーは互いの健闘を願い合ったり、既に牽制したりしていた。
ちょっと羨ましく思ったのは内緒だ。
進行役の男はそこで指を鳴らす。
広場を囲むように一〇〇以上のモニターが現れた。
『観戦用だ! 明日は賭けもやるから情報は多い方がいいだろ。真ん中は俺らが見てるプレイヤーが出るぜ!! 人気投票とかも景品あっから狙ってみても良いんじゃないか?』
次に男は手元に紙を持ち、禁止事項を読み上げる。
戦闘に関係無い暴言や、脅迫など。ナギサには全く関係の無い世界であり、心配しなくていいものだ。
『あー、ようやく終わった。さぁ、制限時間は2時間!! 死ねばそこで終わり! イベント1日目スタート!!』
男が言い終わるとプレイヤーの体が光に包まれる。
ナギサが次に目を開けた時、そこは既にバトルフィールドの中だった。
「よしっ……先ずは偵察……え?」
ナギサが転移したのは起伏の余り無い荒野。
地平線が見えるとまでいかないが、視界はかなり開けてる。それこそ相手プレイヤーが簡単に見つかるくらい。
『武器【包丁】。出場プレイヤーは4人です。3秒後に開始します』
「あっちに2人……後ろの子で3人。私を入れて4人だから……」
包丁バトルロワイヤルは参加人数が少なすぎて、相手が全員見えるままゴングが鳴ったのだった。
いきなり戦闘が始まるのかとナギサは身構えるがそういったことはなく、二人の男性プレイヤーは固まって何やら話だし、後ろの外見年齢がナギサと同じくらいの女の子はインベントリを開いてゴソゴソしていた。
試合時間は二時間もあるのだ。四人でずっと戦える訳が無い。
おまけに相手が視界内にいる以上、不意打ちも出来ず、誰かが動くまで皆が待つという謎な状況になったのだ。
「……まぁ、いっか」
ナギサも積極的に戦う理由が無いので、手に入れたスキルの活用方法を考えながら待つことにした。
そして五分後。男二人組がナギサを遠回りして女の子の方へ向かった。
ナギサを指差しながらまた話し込む。
気になって近付こうとすると、三人になったグループにあからさまに距離を取られ、何故か仲間外れにされた気分になったナギサである。
ナギサがちょっといじけながら更に待つと、三人組が近づいてきた。
しかしその様子は友好的とは言い難く、その真逆だ。
「その……スマンな美少女。一番危ないお前からやることにしたんだわ」
男のその言葉に数秒ナギサの思考が停止した。
「……んん!? な、何で!!」
ナギサは何か機嫌を損ねたかと必死に考えるが全く思い出せない。それもそうだろう。この三人組とナギサは初対面なのだ。
では何故3対1という構図になったかと言うと、ちゃんと理由があった。ナギサが気を付けていれば回避できた理由が。
「美少女。自分の格好思い出せ」
「……あ」
ゆっくりナギサの脳裏に浮かぶアオハの忠告。
『見た目が特殊な人は警戒されて狙われやすくなるから近付かない方がいいよ。そういう人は理由があってそんな格好してるんだし、大抵強いから』
そして今の自分はゴシックドレス。特殊な見た目ではないだろうか。
「まっ、待って! ただのゴシックドレス着た女の子です。危険は無いです!」
「最速者装備付けてる女の子がか?」
「そう…………じゃないかもですね」
ナギサは〘最速者の髪飾り〙をそっとインベントリにしまう。
そして説得を諦めた。
初心者の色眼鏡を外し、ちょっと見れば知っているプレイヤーならナギサの羽が何なのか簡単に分かる。
そりゃあ全プレイヤーの中で一番速い奴が敵なのだ。一対一では勝てる可能性は薄いし、手を組みたくもなるだろう。
いつも着けてるから外すのを忘れていたナギサの大ポカである。
「えっと、何かごめんなさい」
「ん……いいよ。私のミスだし……」
女の子に心配されてもっと落ち込むナギサ。
「あー、うん。ホントスマン。【ファイアボール】」
沈黙に耐え兼ねたのか、男が火球を飛ばしてきた。
半ば不意打ち気味に放たれたそれをナギサはヒラリと躱す。
弾幕を避け続けたナギサにとって、単発。しかも真っ直ぐな魔法はまず当たらない。
「そこっ!!」
しかし、避けられるのを始めから予期していたかのように男の片割れが包丁を突き出して来た。
タイミングはジャスト。恐らく話し合いの内容には連携についても含まれていたのだろう。
並のプレイヤーならここからの連撃で沈む。
が、今彼らが相手をしているのは決して並とは言えない存在だった。
「んしょ」
ナギサは人形戦を参考に、包丁を蹴り上げる。
AGI差が現時点で三倍近くあるのだ。後出しで充分に間に合ってしまう。
包丁が空を飛び、無防備な相手に怒涛の八連撃。
何が起きたのか分からず仕舞いで片割れの男は消えてった。
一瞬の静寂。
「………は?」
予想外の状況に男が止まる。
男はナギサが極振り勢かそれに近いものだと考えていた。
低HP、低攻撃力故に回避と離脱を繰り返すのかと思って範囲魔法を準備していたら瞬く間に片割れが消された上、猛スピードでこっちに向かって来たのだ。
美少女の腕が霞み、数度煌めきが見えたら男のイベントはそこで終わっていた。
「あれ……弱い?」
苦戦すると考えスキルの幾つかを使うことも視野に入れてたナギサは、余りの呆気なさに何かの罠かと疑う。
具体的には自分の[ギロチン]のように復活からの奇襲を。
一回戦からナギサのような理不尽極まったプレイヤーに当たる筈なく、死んだ者は死んだまま。
彼らは今、互いに運が無かったと話しながら観戦側にまわっていた。
「えいっ!!」
そんなナギサにポーションが投げつけられた。
当たりはしなかったが、足元に黄色の粉が舞う。
「んにゃ? あっ…【麻痺無効】が……」
女の子が持ち込んだアイテムの中に状態異常用ポーションがあったのだろう。動きを止めれば足の速さは意味を成さないのでいい選択だ。
実際今のナギサからAGIを取ればステータス上は魔法防御が高い無力な女の子になってしまう。
そこでナギサに妙案が浮かぶ。
思いっ切り黄色の粉を吸い込んでドテッと倒れた。
そう、麻痺のフリ。【忌み物】製作時に何十回と経験しているナギサの演技は完璧だ。
それに気付かない女の子が恐る恐る近付いて来る。
状態異常無効系スキルの存在を知っているプレイヤーは少ないし、知っていてもナギサが持っているなんて考えもしないだろう。
そして包丁を振り上げた瞬間。
「よいしょ」
「え?」
何故か相手は立っていて、自分のHPがゼロになっていた。
「む…何だろ……」
女の子が消えて荒野に残ったのはナギサ一人。
包丁界のトップになった訳だが、全然嬉しそうじゃない。
それなりの戦闘になるのかと思っていたら、参加者が少ないし、戦闘自体は一分も無かったしで不完全燃焼を起こしていたのだ。
「まだ予選だし……明日に期待かな?」
使いたい新スキルがいっぱいあるので、ついつい物騒な事を呟くナギサだった。
一方観戦側。
ナギサが[最速者]持ちであることは広場で蹲っていたときにバレバレだった為、参加人数に対して観戦者はそれなりにいた。
彼らは漏れなく一方的な戦闘の目撃者となり、ダークホースの出現を嬉々として掲示板に書き込んでいく。
ナギサの知らない場所でナギサの株が上がっていた。
筆者の頭の中では女の子はモブ扱いではなく、称号持ちの結構強めなキャラになってたんですが、戦闘戦闘じゃ面白みが無いのでサクッとやられました。




