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人形と遊びましょう 4

やっと……

【ゴシックドール】に搭載された人工知能は、ボスであるだけに他のモンスターと違って特別製である。

演算速度だけ取っても歴代ゲーム機のそれとは格が違う。


中でも特筆すべき点は異常に高い学習能力にあった。

ナギサを相手に繰り出した攻撃の数々。そのどれもが【ゴシックドール】によって一から生み出されたもの。

流石にHP削減による特殊能力は最初からあったが、それを差し引いても余りある性能だ。


戦いを重ねれば重ねるほど強くなるボスを目指して設定されたのだから当然と言える。


しかし、強過ぎた。


相手の全てを分析し、次の動きから使用するスキルを予測し防ぎ、反応速度を計算して何が起こっても避けれない攻撃を放つ。

誰が勝てるんだこんなもの。


開発時、全てのボスがそんな状態だったのだ。

運営は悩みに悩んだ結果、弱体化せざるを得なくなった。


そして導入されたのが『感情』。

と言っても人間のような感情を持たせた訳では無い。


予測と異なった事態に陥ると、最適解を含む上位十個の行動パターンからランダムに決定する『動揺』。

五感にダメージが入った時や、情報過多により生まれ、僅かだが演算が停止する『空白』。

痛覚情報によって引き起こされ、最初に導き出した行動を選択する『焦燥』。


因みにナギサが前蹴りを受けたのは『焦燥』によるもの。


その他複数の『感情』達が生物臭さを演出し、勝てそうで勝てないボスモンスターを実現させたのだ。




【ゴシックドール】は『動揺』と『空白』の中にいた。


現状どのプレイヤーだろうと一秒と保たない圧倒的魔法攻撃に晒された前方。そんな地獄からナギサが飛び出て来たのだ。


ポリゴンを纏い、その装備は包丁と飾り羽を残し全損している。

しかしHPは一欠片も減ってはいない。


ナギサが生き残ってるのは土壇場で手に入れたスキルの効果だった。



【空蝉】

武器、アクセサリーを除く装備を破壊する。

破壊した装備✕0,5秒全ての攻撃を透過。

透過中は攻撃出来ない。

取得条件

特定ボスモンスターの攻撃をダメージ無し攻撃無し、スキル未使用で5分間避け続ける。



「ジェントルさんごめんなさい!!」

【白陶面】とゴブリン製装備二つを犠牲に、無敵時間を手に入れたナギサは効果終了と同時に人形の胸へ包丁を突き立てた。


根本まで刺さった包丁にシステムが叩き出した判定はクリティカル。

HPがごっそり無くなり、人形の残りHPは一割を切る。


追撃が来る前に、人形が『空白』より帰還。即座に『動揺』によりランダムな選択肢が決定され、ナギサへ傘の薙ぎ払いが迫る。

大きく飛びのく事で回避したナギサだが、背中に壁が当たった。


四分の一まで減ったバトルフィールドでは攻撃は出来ても離脱は容易ではない。

最長でもニ〇メートルしか離れられず、両者のAGIでは距離は有って無いようなもの。


逃さないとばかりにすぐさま数度目の突きを放つ人形。

焼き直しのようにしゃがんで回避するナギサ。


ナギサは真上にある人形の顔に左手でアイテムを投げた。

視界を塞がれることを嫌った人形は頭を後ろに引くことで回避する。


一拍の後。


ナギサの包丁が人形の首を狙う。

人形の蹴りがナギサを襲う。


先に届いたのは……



「あ……」

衝撃。視界のブレ。あと数センチという距離で手応えを失い空を切る包丁。

HPバーが色を無くし、敗北をナギサに突き付ける。


衝撃。視界のブレ。反動を伝える脚と凄絶な衝撃音。

壁に縫い付けた少女から力が抜け、対象の死亡と自信の勝利を人形は認識する。


覆せないリーチの差が人形に軍配を上げたのだ。







「楽しかったよ」







優しさを感じるその音を聞きながら、ナギサは昨日の会話を思い出していた。




「ねぇ。それってさ、自分で使えないの? ぶっちゃけ初見殺しだよ? 使えたらめっちゃ強いじゃん」

ナギサが持つ使いどころを迷うスキルの活用方法について二人仲良く頭を捻っている時、アオハがそう質問した。

ナギサは少し考える。


「……出来ない…と思う。動けないし……」


「でもほらこうやって」

アオハはインベントリからポーションを取り出すと、自らの真上に投げ、頭で受ける。


どう? と尋ねる顔はちょっと滑稽だった。


「これなら使えるでしょ?」


「んふふ……戦闘中にそんな事する人いるの?」


「あーー、それもそっか。ま、機会があったら試してみてよ」


「はいはい」






パリンッ


「アオハ……ありがと」


[ギロチン]が起動した。

人形の無表情だった目が僅かに見開かれる。

その隙に間合いの内側へ飛び込んだナギサ。


再び包丁が人形を狙う。


再度蹴りがナギサを襲う。


三度同じ状況。

しかし決定的な差が一つ。


ナギサが投げたのは最下級HPポーション。その回復量は50と少し。

【正念場】の発動圏内にあり、ナギサのAGIは340に倍加したのだ。


今度こそ人形は驚愕した。


「んああああぁぁぁぁ!!」

気迫と共にナギサは弾丸と化す。

射出された体はリーチ差を消し飛ばし、ガードなど知ることかとただ前に。


金色のエフェクトを靡かせ、ただ前に前に前に前に。



最後の交差。

そしてダメージエフェクトが舞った。



色は……赤。



三本目のHPバーが済んだ音と共に消え去る。

人形の体から力が抜け、まるで誰かが操っていた吊り糸を切ったかのように崩れ落ちた。


「私も……楽しかったよ」

ナギサが呟いたその瞬間、人形の体が光に包まれ消えた。

同時に大広間は今までの戦闘を幻だったとでも言うように傷を癒し、静謐な空気を湛え始めた。



呆然と人形の残した光を追っていたナギサは、やっと実感が追い付いてきたのかペタリとへたり込んだ。そして体をプルプルと震わせ始める。

何度も可能性の低い賭けに勝ち、己の全てを出し切って小さな手に勝利を呼び込んだのだ。


息を大きく吸い込んで両腕を高々と突き上げた。


「やったあああああ!!」

勝利者に許された勝鬨は、とても可愛らしいものだった。




CSO内、GMルーム。

普段は各々が自分の作業をしている職場で仕事をほっぽり出した生粋のゲーマー共は、一つのモニター前の人口密度を上げていた。


モニターに映るのは二人の少女。

その二人を全員が全員顔を強張らせ、固唾を呑んで見守っている。


少女が止めを刺された。


「「「「「ああぁぁぁ……」」」」」

分かってたかのようにため息を吐く面々。


しかし少女復活。


「「「「「おおおぉぉぉおお!?」」」」」


そして美女が倒れたその瞬間。


「「「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」」

野太い声が部屋を揺らす。


「マジで勝ちやがったぁぁ!!」


「言ったろ! あの娘なら可能性あるって!!」


「お前が一番心配してたじゃねぇか!?」


「そ、それは19番が勝ってしまうのを心配してたんだよ!」


「てめぇら散れ散れ!! 仕事に戻れ! ナギサ様は『幼女神』だ!!」


「対応が溜まってんぞ! ナギさんは『天使』はよ行け!!」


「「あ゛?」」


「ちょっ、先輩! イベントにあの装備持って行かすッスか!?」


「行かせろ行かせろ!! てめぇあの戦い見てそんな小さな事言えんのか! ケツの穴小さ過ぎて出るもん出ねぇんじゃねぇかぁ!?」


「でも、パワーバランスとか」


「このゲームにそんなのねぇよ!! それに【あれ】は正当な賞品だ!」


「そうッスけど……」


「どうせ今から調整なんてムリムリ。それより祝おう!! ソロ討伐なんてエンドコンテンツだと思ってたぜ、あいつは!」


「おうよ。これでもっと強いキャラ作っても怒られないな!」


「それだぁ!! AGI制限解除しようぜ解除!! マッハでクラスターするUFOとか、移動時に斬撃発生させる奴とか! もーヤバい!!」


「「二つ名『戦乙女(ヴァルキュリア)』に決定!!」」


「今掲示板に書き込んでも誰も反応しないッスよ。誰にでも分かる実績無いとムリッス」


「じゃあナギサちゃーん! イベントお願いしまーす!!」


「圧倒的蹂躙劇を所望す」


「いやいや蹂躙されたら不味いッスよ……主に苦情が」


この日、CSO随所で花火やら爆竹やらが目撃されたが、運営の答えは一貫して『イベントの前準備』だった。

ゴシックドール戦、2000文字で収めようとしてたんだぜ。

狂ってんだろ?

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