人形と遊びましょう 2
短めです
今度はナギサから距離を詰める。
放たれた突きはゲーム開始から一番切れのあるものだった。
それを人形は寸前に身を翻し、カウンターに入ろうと足を踏み込んだ。
直後、軸足を取られうつ伏せに倒れ、その上にドレスの端を握ったナギサが乗っていた。
そう、ナギサの狙いは最初からフリフリのドレス。
距離を詰めてリーチの差を無くし、ドレスを握って転ばせたのだ。
ナギサが相手より速いからこそ出来る技であり、普通なら掴もうと手を伸ばした瞬間に切られるだろう。
『相手の欠点をエゲツない位に攻め、逆に自分の欠点を突かれないように立ち回る』
アオハの教えは着実に守られていた。
「えいっ! やっ!」
可愛らしい掛け声と共に、思いっ切り首やレバーにサクサクサクっと包丁が突き立てられた。
攻撃を受けそうになって人形の背から退く。
二本目のHPバーは通常らしく、急所の割にダメージが少ないもののそれはいつもの事。
「……削ってやる」
起き上がりを狙い、再びマウントを取ったナギサの一言。
二通りの意味に取れ、ナギサがどっちの事を言っているのかは分からない。
しかし一つ助言をするなら、CSOに部位欠損は存在するが、そこは範囲外ということか。
「少し、本気を見せてあげる」
起き攻めのように執拗な攻撃は人形のHPを七割まで削り、それを切っ掛けにまた行動パターンが変わった。
広間の真ん中で背後に小型の魔法陣を三つ背負い、炎弾と氷弾、そして散弾のような土塊を次々と発射しだしたのだ。
堪らず壁際まで後退したナギサに強烈な面制圧射撃が開始された。
「むー、卑怯だよ!」
さっきの自分を棚に上げ、ナギサは広間を縦横無尽に逃げ回る。
炎弾が直接、氷弾が偏差射撃、土塊がトドメのように使い分けて撃ってくるのだ。それに付け加え、時々放たれる斬撃が的確に逃げ道を塞ぐ。
質より量を表した戦闘方法であり、今のナギサにとって相性最悪。
言ってみれば残機無しで攻撃方法が零距離射撃しかない弾幕ゲームのようなものだ。
アオハの言葉を借りるならクソゲーである。
こうなると物理攻撃が出来るのは弓系プレイヤー等に限られ、大半は魔法職頼みとなる。しかし安定した火力を持ちつつ、弾幕を避け続ける魔法職などそういない。
実際、殆どのパーティーがここで潰え、辛酸を味わっていた。
『スキル【空蝉】を取得しました』
「ちょっと待ってて!!」
終わりが見えないかと十分間粘ってみたが、収穫はよく分からないスキルのみ。
流石に集中力が切れ始めたナギサ。先程から危うい場面が続いていた。
このままじゃ埒が明かないと決断する。
「もう……使う!!」
残り三つしかない【忌み物】を一つ食べた。
明日のイベントより今のプライド。ナギサの負けず嫌いな性格が頭を上げた。
効果時間は十五分。それがナギサに残された時間だ。
「イテッ……でも…耐えられる」
【正念場】がキャンセルされる。しかしAGIの値は強化中の方が僅かに高い。
それが裏目に出て目測を誤った氷弾がナギサの肩に直撃するも、HPは二桁しか減っていない。
とはいえ、接近すれば数に圧されてやられるのが目に見えている。
だからナギサは、魔法を唱えた。
今まで低MPのせいで一度も使ったことのない、されどここが使う場面であることを知ってる魔法を。
「【厄災】!!」
突如、人形の背後から爆発が三回。
二割ほどHPが飛んでいった。
【厄災】
半径20メートル内の自身の使用するものを含む魔法、スキルを90%の確率で暴発させる。
発動後、効果時間が終了するまで解除はできない。
消費MP300 効果時間5分 再詠唱時間15分
取得条件
[災厄]の所持。
つまり五分間、ナギサの周りは実質スキル不可。魔法不可。
ステータスだけがものを言う世界となるのだ。
アオハが化け物と称したスキルの一つである。
「いっくよー!」
魔法が使えなければ後は転ばして刺すだけ。
攻撃力が倍加どころじゃないナギサによってすぐに二本目のHPバーが折れ、【ゴシックドール】第二形態は特性を全て潰され負けたのだった。
「速く速く!」
良いペースで第ニ形態を攻略したナギサはじっとしていられず、小刻みに足踏みをしていた。
強化時間を横目に、【空蝉】の効果を確認したナギサは目を細める。
「こっちよ」
「あにゃ?」
スキルの説明文を読んでいたナギサの目に、何かの先端が映った。
嫌な予感がして頭を横に振ると同時に、白色の熱線が走る。
髪の毛数本と、支柱、壁を貫通し、赤黒い跡を残した。
「あのドレスのままで良かったのに……」
金のストレートから銀のツインテールへ変わり、より人間味の増した人形がそこには立っていた。
ただ、今までの嘲りの色が鳴りを潜め、人形らしい冷たい無表情がナギサを見下ろす。
散々掴まれてシワの寄っていたゴシックドレスは、肌を見せないニーハイと丈の短いスカートのものへ。
フリルも最低限で運動用のようだ。
実用性重視のそれは、小細工がもう通用しない事を伝えていた。
「遊びは終わり」
人形はそう言うと先端から煙を揺らす傘を突き出してきた。
「私はずっと全力だけどね!」
ナギサは短期決戦が全てなので、望むところとばかりにそれを迎え撃つ。
【ゴシックドール】第三形態。最終ラウンドの始まりだ。
今日2話目。
明日のこと? 筆者の拳は過去の自分を殴れないので、遠慮なく投稿します。




