人形と遊びましょう 1
今日は2話投稿
戦闘描写が拙いのはあしからず
見上げるような巨木が何本も重なり合い、日の届かない薄暗い森。
モンスターとの遭遇がここに来てパッタリと途絶え、鳥や木々が風に揺れる音すらない。
しかし時々聞こえる咆哮や遠吠えが確かにモンスターがいる事を主張していた。
そんな西の森、深層をナギサは歩いていた。
ナギサにとってオバケやオカルトはそこまで怖いものでは無いので、足取りは軽い。時折マップを確認しながら目的地へと向かって行く。
[怪物と友愛]の効果なのか、単に運がいいのか高レベルモンスターに気付かれず、ナギサは掲示板に書き込まれていた場所へ到着した。
「ふぅ……意外と遠かった………速くゲットしないと」
先を急ぐナギサの前にはお城のような洋館があった。
誰かが手入れをしていたかのように窓はピカピカに磨かれ、庭には雑草一本生えていない。館の周囲だけ不自然に空いた木々によって太陽が顔を覗かせていた。
それが却って異様さを際立たせ、言い知れぬ恐怖心を入る者に与える。
しかしナギサが感じたのは「大っきな家だなー」程度。
こだわりを持ってデザインを考えた運営泣かせの感想を抱きながら、館の門を潜ったナギサはドアノブに手を掛けた。
ギィと自分のニ倍近い高さを持つ両開きの扉を開くと、エントランスホールと言うには無理がありそうな体育館ほどの大広間が広がっていた。対面にあるステンドグラスは天使を形作っており、十メートルはあるであろう天井。その中心を舞台にキラキラと光るシャンデリアには十歳位の可愛い人形が吊り下げられている。
「……うん。見た目は人形だし…あの子だよね?」
ボス戦が始まりますよー。と全面から漂うメッセージに気づくことなくナギサは中に入る。
当然、扉はバタン! 閉じ込められた。
「えっ!? うそ…何で……」
慌ててガチャガチャするナギサを置いてけぼりに演出は進む。
吊り糸が切れ、人形が落ちた。
同時に窓から肌を撫でるような風が吹き、肌寒さを覚えるほど空気が冷える。
クスクス、クスクスと何処からともなく声が聞こえ、ナギサが一瞬目を離した隙に人形がステンドグラスを背に立ち上がった。
その頭上には三本の重なったHPバーが出現している。
「びー…オー……ボス……んえっ!?」
名前の横にあるBOSSの文字に今更相手がちょっとでは言い切れないほど格上なことに気付いたナギサ。
ガラスの瞳に狂気を宿して握り締めた包丁を手に、フィールドボスモンスターNo,19【ゴシックドール】は再度、クスクスと笑った。
「えーと、えーと! とりゃあ!」
まずナギサはゆっくりと歩み寄ってくる人形に【忌み物】を投げつけた。
攻撃が通用するのかさえ怪しい相手なのだ。できる事は全て試すしかない。
しかし人形に影響はない。
「生き物じゃ無いからね……」
ナギサの言う通り無機物系のモンスターはいくつかの状態異常無効スキルを持っている。特に今戦っているのはボスモンスター。全ての状態異常に耐性を持っていると考えた方が自然だ。
ナギサには他に遠距離の攻撃手段を持っていないため、【忌み物】を回収し、仕方無く接近して斬りつける。
HPが一割の半分の半分ほど削れた。
「あれ? 意外といける?」
ナギサでこれなら攻撃力の高いプレイヤーは一撃で倒せそうであるが、それは違う。
このボスが物理攻撃によるHP減少値固定。相手のSTRに依らず受けるダメージが一定だからだ。
攻撃力の低いナギサだからこそ弱いのかなと感じたが、ある程度のプレイヤーなら厄介と取る仕様である。
因みに桁外れな魔法攻撃力があるならワンパンできる可能性はある。……最初のHPバーだけ。
これならイケると回避、切るの流れで着実にダメージを与えていったナギサだったが、最初のHPバーが半分を切ると、今まで単調な攻撃を繰り返すだけだった人形の動きが変わった。
「う……速い……」
攻撃を受ける度にAGIが強化されているのか、行動速度が段々と上がっていく。
カクカクとした動きも徐々に滑らかに、そして包丁が理に適った動きを見せ始めた。
そして人形のHPが三割を切った瞬間。その動きがナギサに追い付いた。
距離を離す事ができない。
これ以上人形にダメージを与えるのは更に自分を追い詰める事になる。
「んあ!?」
リーチ差を活かして防戦するナギサは些細なミスで、人形の包丁を右手の甲に受けてしまった。
掠っただけなのにナギサのHPがゴリッと半分以下まで減る。
防御力の無さを考慮しても恐ろしい攻撃力を持っているのは確かだ。
次はゲームオーバーなので遠慮なく太腿に自分の包丁を突き立て、ナギサは【正念場】を発動させた。
一本目のHPバーが弾け飛び、人形が地に伏せる。
最終的にAGI170を誇るナギサに喰い下がってきた。
普通なら動きを止めるタンク、攻撃するアタッカーに、動きを遅くしたり援護するマジシャンがセットでようやくダメージを与えられる値だ。
パーティー推奨の理由が序盤でもよくわかる。
「ふぅ、ふぅ…はぁ〜……帰らせてくれないかな?」
期待していなかった返答は斬撃の形で現れた。
一昨日までのナギサならば当たっていただろうが、このくらいアオハに比べたら、と三日月型の斬撃を躱す。
二本目のHPバーを露わにし、立ち上がった人形には変化が訪れていた。
「……大っきくなってる」
女の子から高身長の女性へと成長していた。
服も花柄ワンピースから名前の通りゴシックドレスへと変化している。
直刀と呼ばれる刀身、柄含め真っ直ぐな刀を杖のように地面に突き刺し、人形は腕を組む。
「フフフ、小さなお嬢さん。遊びましょ?」
急に話しかけられた事に面食らいながら返事をしようと口を開いたナギサの動きが、突然止まった。
視線が人形の組まれた腕に載る物に固定され、目から光が失われている。
一拍置いて出かけたセリフを破棄。
包丁を人形に向けた。
「貴女には絶対に負けない」
ナギサにとって負けられない戦い。その第2ラウンドが始まった。
コンプレックスは人それぞれです




