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彼女の小説はどこかずれている 2  作者: 白夜いくと
■1年生■ 夏休み
3/6

『アンパン王国の悲劇』

 今年の夏はエアコンと扇風機がある室内に居てもムッとしている。湿気なのか汗なのかよくわからないべトッとした何かが身体にまとわりつく感じは不快でしかない。37℃を超えた昼間は美咲(みさき)とフードコートへ涼みに行った。それにしても彼女の家は大変だな。こんな真夏日の中エアコンなどが届くまで、冷却シートと氷枕で過ごさなければいけないなんて。美咲(みさき)の母親も主婦だから家に居る。おそらく夕御飯を食べるまでは、ベッドに横になっているに違いない。


 ……ん。美咲(みさき)専用の受信音が鳴った。


 きっと彼女の部屋は湿気がこもって外気より体感温度が高いだろう。そんな中で美咲(みさき)はどんな小説メールを送ってきたのか。それとも普通のメールなのか、とりあえず開いてみることにした。


*********************






件名:『アンパン王国の悲劇』


 アンパン王国はこしあんという民から絶対的な支持がありました。日照時間の少ない王国でしたが、ある日から気候が変わって高温多湿の住みにくい土地になってしまいました。


 「あついよう、くるしいよう」


 アンパン王国の民は苦しんでいます。そんな王国の臭いを嗅ぎつけて一人の小さな小さな大悪党がこしあんの民の家を次々と襲ったのです。


 「ぎゃー! 痴漢!」


 奴はいたるところを這いずり回ってアンパン王国を穢れさせ、滅びの道へと誘ったのでした。


 ――完――


 ps.小型のハエにおやつが盗まれました。






*********************


 あーあ。それはご愁傷様。確かにハエのたかった食べ物は口にしたくないもんな。俺ならオーブンで焼いて食うが。そんなこと言ったら引かれるだろうか……それより今彼女はおやつを食べ損ねて不機嫌なのではないだろうか。俺は少しでも気が紛れると思い美咲(みさき)に電話した。


 「最悪だわ、仁司(ひとし)……」


 まるで俺がサイテーな奴のように聴こえる。不機嫌というよりかはどこか落ち込んでいて元気が無い。食欲があるか尋ねてみても、ハエの這いずる姿を思い出して気持ちが悪くなるそうだ。それが原因でキウイフルーツが駄目になったらしい。あぁ、あの黒い粒粒が虫に見えてしまうようになったのか。繊細なんだなぁ美咲(みさき)は。


 「家に防虫スプレーはないんですか?」


 「蚊取り線香を仕掛けたわ」


 「さすが美咲(みさき)さん」


 「燻されている私は燻製人間」


 「え?」


 いつものシトラスの香りは消えて、蚊取り線香のにおいが付いてしまうかもしれないが、それでも俺が彼女を好きなことには変わりない。むしろ夏らしくて良いじゃないか。スマホ越しに美咲(みさき)の母親が何かを言っているのが聴こえる。


 「ごめんなさい。これから夜ご飯の仕込みなの――もう! お母さん。電話中に話しかけないで……」


 美咲(みさき)。まだ通話切れてないぞ……一応俺から切っておいたが。母親に対する言葉遣いと俺に対する言葉遣いが違う。当然か。俺も違うしな。気にすることではないか。そうしているうちに日は暮れていく。カーテンを開けてみた。容赦なく眩い。本当にこの天気はいつまで続くのか。

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