『灼熱の世界』
前期定期試験も無事に終わり気がつけばもう夏休みになっていた。なんとなくテレビをつける。今年の夏は猛暑だと何度も背広を着て言うお天気キャスター。それを自室の中でエアコンと扇風機の風を浴びながら他人事のように観ている。蒸し暑い中を俺の両親はいつものように出勤している。朝も夜も30℃を超える地獄のような道を自宅という天国から出て行かなければいけないという苦痛。室内に居ても容易に察することが出来る。
それでも、リビングの冷蔵庫にはコンビニで買ったであろう冷やし中華が入っていた。蓋の部分に付箋が貼っている。ただ一言「ちゃんと食べてね!」と書かれていた。この前俺が御飯を食べなかったことを気にしているのだろうか。あの時は美咲との祭りのことで頭がいっぱいだっただけだ。今は……ちゃんと食べる。
後片付けが終わると、再び涼しい自室にこもる。が、暇だ。今日はコンビニバイトも入っていない。嫌味な先輩の近藤という男にも会わなくて澄むが、特に趣味のない俺がすることといえば同じような動画を観ることやノスタルジックな音楽を聴くことだ。
そんな時、美咲専用のメール受信音がした。彼女のことだ。きっと小説メールに違いない。夏休みになってからはじめて送られてきた小説はどんな内容なのだろうか……
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件名:『灼熱の世界』
灼熱砂漠と化した世界。大地はひび割れ、ダムの水は干からび、農作物は歪な形となり売り物にならない。ああ。この世はもうおしまいだ。誰もがそう思っていた絶望の午後。そんなことなど知りもしない私は地球温暖化に拍車をかけるスイッチを押した。が。何度押しても装置は動かない。くるくる回るやつのスイッチも作動しない。
「あぁ。どこかに涼しい所はないものか……」
そうだ! 惑星フードコートへ行こう!
――完――
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くるくる回るやつ……もしかして、美咲の家のエアコンと扇風機、故障したのか。だとしたら熱中症が心配だ。ニュースでもよく報道されているしな。それに、あの背中まで伸びた長い黒髪では括っていても辛いだろうに。俺は彼女に電話をかけた。
「美咲さん、一緒にフードコート行きませんか?」
「そのつもりで仁司にメールを送ったのだけれど」
「え?」
まさかのお誘い小説メールだったのか。てっきり現状報告をしているだけだと思った。結構積極的なところがあるんだな。しかしそんなところも良い。暇だった時間を美咲が埋めてくれるのなら、これほど幸せなことは無い。俺はエアコンと扇風機を止めた。支度をすると、ムッとする玄関のほうへと歩き、熱くなった扉を開ける。これでもかというほどの眩い光。それはまるで俺と美咲が出会うのを阻止するかのように立ちはだかった。
現地集合。灼熱の世界では、惑星フードコートまでの道のりが長く感じた。