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女子高生とコボルトさん  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第一章

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7/55

第7話 新生活だよコボルトさん(第一章 完)

前回までのあらすじ!



勇者には勝ててもノミには勝てないコボルトさん。

 翌朝、思った通りのことが起こった。

 コボルトさんは起きるなり不思議そうな顔で、部屋の隅で眠っていたわたしを揺り動かしてきた。



「おい! 昨夜、発作が起こらなかったぞっ!!」

「ああ、やっぱり……」

「やっぱりってなんだ? カリン、おまえは俺に何をしたんだ?」

「あは~。お薬だったんだよ、その首輪(チョーカー)



 コボルトさんが伸びるピンク色の首輪を引っ張って、視線を落とす。



「これ!? これか!? こいつはただの、今シーズンの漢度を上げるオサレアイテムじゃなかったのか!?」

「うん。ごめんね。変に期待持たせて失敗したらいけないから、嘘ついちゃった。でも、ちゃんと効いたみたいでよかったよ」



 わたしはパンと手を合わせて、にっこり微笑む。


 ただのノミ取り首輪なんだけどね。

 症状から察するに、どう考えてもノミの仕業としか思えなかったから。ちなみにまとめ買いのお得パックだから、まだまだポケットの中の袋にはある。

 一応わたしにノミが来ないように、一つだけ封を切って手首に巻いておいたんだけど。



「なんてこった……。夜もろくに眠れんほどに悩まされてた不治の病が、一晩でこんなにすっきり治るとは……」

「それね、病気じゃないよ。虫だよ。皮膚に張り付いて血を吸うの」

「そうなのか!? くっ、なんて凶暴な虫だ!」



 ノミもコボルトさんには言われたくない言葉だと思う。



 つぶらな目を見開いて、コボルトさんがぐりんとこっちを向いた。



「わたしのいた世界の犬にはよくあることだよ。その首わ――ん、んんう! えっと、そのチョーカーは虫除けのお薬が染みこんでるの」

「ほう! オサレ上級な上に効能アリか!」



 ええ、まだオシャレアイテムだと思ってるんだ……。



「まだ残ってるかもだから、しばらくは外さないでね?」

「わかった」



 コボルトさんのわたしを見上げるつぶらな瞳が、心なしか輝いて見える。てか、ズボンのお尻からはみ出てる尻尾が、すごい勢いで左右に揺れている。

 よっぽど嬉しかったみたい。



「……カリン、貴女が女神か……っ」

「……よ、よせやい……っ」



 あ、口癖がうつっちゃった。

 それにしても、こっちの世界で目覚めたからは魔王って言われたり、女神って言われたり。ただの女子高生なんだけどな。



「それでなんだけど、もしよかったら――」

「――ああ。わかっている。そのつもりだ」



 まだ何も言ってないけど。



「カリンが元の世界に帰れるまで、俺がおまえを守ろう。そういう話だろ?」

「うん。そうなんだけど、そこまでは望まないよ。ここに置いてくれるだけでいいの。でも、ほんとにいいの? 危ないよ? 巻き込むよ?」



 コボルトさんがふと目を伏せた。



「個人的な事情もあってな。もしも病がなければ、それは俺の方から申し出ていたことだ」



 個人的な事情……? なんだろう? そもそもどうして助けてくれたの?



 そういえば彼、やけにシャルマンとかいう人のことに詳しかったな。ジャンティーユ王国が行っている勇者による魔王退治の裏側も知っていたし、大賢者エトワールとも顔見知りっぽいことも言っていた。



 大賢者エトワール。

 たぶん、わたしがこの世界で目を覚ましたときに最初に見た、耳の長いあの綺麗なエルフさんだ。ストレートの長い金髪と、空のような碧眼。

 わたしを「魔王」と呼んで放り出しながら、わたしを殺すためにガトーさんという「勇者」を解き放った張本人。



 悪い人だったんだ。とっても綺麗な人なのに。

 や、わたしが魔王ならわたしの方が悪い人なのかな?



「カリンには、その機会をくれたことに感謝している」

「あ、うん。お互い様だよ。コボルトさんには守ってもらったから」



 そして、コボルトさんは自らを指さして、心なしか笑顔にも見えるような表情でこう言った。



「パルフェだ」

「ぱるふぇ?」

「コボルトってのは種族名だ。犬から進化した犬顔の下位魔族をコボルトと呼ぶんだ。パルフェは――……俺の名だ」



 なんて甘そうでカワイイ名前なの!? なんかもう、すべてがたまらない!

 ノミもいなくなったことだし、今晩からはパルフェと一緒に寝たいな!



「どうした? 何をくねくねしている?」

「なんでもないよ~。えへへ」



 でもその前に、大掃除をしなきゃいけない。

 パルフェは屋内を比較的綺麗にしているけれど、たぶん絨毯かベッドのどこかにはまだノミがいる。それに、ガトーさんに壁をぶち抜かれたままじゃあ、掃除をしてもまたお外から虫が入ってきちゃう。



「パルフェ、今日は掃除しよっか。絨毯焦げてて臭いし、洗って干してる間に掃き掃除もして虫を追い出さなきゃ。また病気になっちゃう」

「そっちは頼めるか? 俺は壁を修繕しておきたい。あの野郎、他人(ひと)ん家を風通し良くしやがって」

「うん。いいよ」

「洗うなら小川が集落の北に流れている。あ、いや」



 パルフェが顎に手を当てて首を傾げた。

 頭が柴犬なだけで、いちいちカワイイな~、もう。夜が楽しみだよ。



「絨毯は外に放り出しておいてくれるだけでいい。あとで俺も一緒に洗いにいく」



 わたしは少し考えて、パルフェと同じ角度まで首を傾げて尋ねる。



「へへ~っ、でーと?」

「ん? ああ、そうだな」



 あら、あっさり認めちゃった。

 けれどパルフェは火のない煙草を咥えながら肩をすくめる。



「それも悪かねえが、俺はカリンの護衛だ。可能な限り、ともにあるべきだろう」



 意識なんてしていなかったのに、自分の目が泳ぐのがわかった。



「……………………パ、パルフェったら、またそんなカッコイイこと言って……」

「へっ、よせやい。そういうことを口に出すのは、無粋ってもんだ」



 何でだろう。不思議と血が逆流するような、そんな気分。顔が熱い。こんなこと言われたのは初めてだし、自分がこんなふうになるのも初めて。



「じゃ、じゃあわたし、今から絨毯を剥がすね」

「ああ。俺は集落の廃墟からブロックをくすねてくる。どうせ誰も住んじゃいねえしな。少し離れるが、何かあったら大声で俺の名を呼べ。聞こえる距離にいる」



 パルフェがトコトコとドアの方へ歩いていく。



「それと、キッチンの手桶に水がある。顔を洗っておけ。美人が台無しだ」

「そ、そんなこと言われたことないよぉ、もう!」

「ゲッハッハ! 飯は居間のテーブルに用意した。俺はもう済んだから、適当に食え」

「う……。ごめん、寝てる間にぃ~……」

「気にするな。昨日はガトーに追われて走りっぱなしで疲れてたんだろ。あばよ」



 パルフェが居間から出て、外への扉が閉ざされる音が響いた。



 あばよって、死語だよ……。



 なんだかこの世界に来てからは怖いことばかりが起こって、早くお家に帰りたいなって、そんなことばかり考えていたんだけれど。

 でも、パルフェのおかげで少しだけ楽しくなってきた。



「へへ~」



 立ち上がって、セーラー服の袖をまくる。

 昨日はもう疲れちゃって、着の身着のままで眠っちゃったから。着替えもなかったし。

 そう、そうだ。着替えを用意しなきゃだ。近くに洋服屋さんってあるのかな。



「よっし! がんばろっ!」



 やることいっぱいだ!



ようやく同棲開始。

次章、下着を求めて三千里。

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