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女子高生とコボルトさん  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第一章

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第5話 口は達者なコボルトさん

前回までのあらすじ!



勇者が本気になった。

 何今の!? 何今の!? 何なの!? 剣から火が出て、それが斬撃になって飛んでった!



「どこを見ている!」

「おわぁっ!」



 驚くコボルトさんへと、ガトーさんが炎を宿したままの剣で斬りかかる。

 わたしみたいな素人目から見ても、さっきまでとはまるで別人。これが勇者の本気。


 刃は先ほどまでより速い連撃となって小さなコボルトさんに襲いかかる。



「はああぁぁぁぁぁッ!!」

「~~っ!」



 しかも、振られた剣閃は炎の軌跡を空間に描いて数秒間その場にとどまり、高熱を残すの。

 コボルトさんは確実に刃の斬撃を避けているのに、残った軌跡の残滓に振れるだけで、毛皮やお洋服が焦げ付いてる。



「熱っ、あっちぃ! おいっ! やめれっ!」

「コ、コボルトさん!」

「おわっ!? やめ――うひッ!!」



 数秒も経たないうちに赤い軌跡はコボルトさんの動きを制限するかのように増え続け、彼の避ける場所を狭めていく。



「どうした、コボルト! もう逃げ場がないぞ!」

「いい加減に――ッ」



 こんなの、ほんとにゲームや物語の中だけの出来事。現実感は皆無。

 なのに、わたしの足は震えて。



「とどめだッ!!」



 回避する場所がなくなれば、あとは斬撃を受けるだけ。

 刃の斬撃がついに逃げ場所を失ったコボルトさんの頸に届く寸前。



「いい加減にしやがれッ! やめれっつってんだろーがッ!」



 わたしが息を呑んだ直後、大きな金属音が響いた。

 コボルトさんがポッケから取り出したナイフの刃で、ガトーさんの剣閃を受け止めていたの。



「な――ッ!? バカな、そんな小さなナイフで【火炎斬り】を受け止めるだと!? 並の剣など溶解させるほどの高熱高速の連撃なのだぞ!」

「いや、正直驚いた。【火炎斬り】か。ずいぶんとまた懐かしい(スキル)だ。シャルマン以外にも使い手がいたとはなぁ。さすがは勇者の称号持ちだ」



 事も無げにそう言ってガトーさんの剣を弾いて逸らし、これ幸いとばかりに空間に残った炎の軌跡へと咥えた煙草の先をあてた。

 すぅっと煙草を吸って、おいしそうに紫煙をくゆらせる。



「だが、今のでわかったろ。ご自慢の必殺技も、俺にゃまったく通用しねえ」



 いや、めっちゃ必死な顔で「やめれ」って叫んでたけど……。

 もしかして、おうちが壊れちゃうからかな?



「それに残念ながら、このナイフもその剣と同じ、炎耐性を備えた特注品でな。その程度じゃあ、溶かすこたあできねえ」



 そう。あんなにも怖い技を見せられたというのにコボルトさんは平然としていて、引き換えに、そのすごい技さえ弾かれてしまった勇者ガトーさんは、顔色を失っていたの。



「な……んで……こんな……コボルトごときに……っ、……ただの下位魔族だぞッ!!」

「おまえはシャルマンの動きを見聞し、さぞや鍛錬を積んで今の強さにまで至ったんだろうな。ちっと見直した。敬服するぜ」

「く!」



 く、とか言いながら、若干嬉しそうな顔をしてるよ。あの勇者さん。

 自己顕示欲の賜物だね。



「だが、まだまだ尻の青さは隠せてねえな」



 ぷかり、吐き出された煙が天使の輪のように、コボルトさんの頭上に浮かんだ。



「どういう意味だ……ッ」

「意味? そうさな。おめえは未熟で稚拙。真似っこ剣技は粗末で粗雑ってなとこだ」

「貴様ぁぁぁ……ッ」



 ガトーさんが再び剣を構える。

 刀身に宿る炎が勢いを増した。



「殺すッ!」

「いいか、坊主? 【火炎斬り】ってのはな――」



 コボルトさんが、小さなお手々でナイフをぎゅっと握りしめた。

 果物包丁くらい細くて、頼りなく見えちゃう刃物。とてもじゃないけれど、剣を受け止められるような大きさの武器じゃないのに。



「くたばれッ、魔族め!! ――【火炎斬り】!」

「こうやるんだ。――【火炎斬り】」



 はえっ!?



 そう思った瞬間には、コボルトさんの手の中のナイフは炎に包まれていた。それも、ガトーさんのそれを凌ぐほどの、大きな大きな轟炎。


 ガトーさんの剣と、コボルトさんのナイフが二人の狭間でぶつかり合う。

 火花とは到底呼べない大きさの炎の塊が散って、耳をつんざくような金属音が鳴り響いて、襲い来る熱波にわたしは両腕で顔を覆った。


 その腕を恐る恐る下げたとき、わたしが見た光景は。



「……」



 一面すべて焦げ付いた家屋の壁に背中から叩きつけられ、膝を折った体勢で呆然としているガトーさんと、先ほどとまるで変わらず同じ場所に立ち、ナイフをポッケに戻したコボルトさんの姿だった。



「バ、バカな……。か、【火炎斬り】だと? それも、僕よりも威力が――」

「強いって? ゲハハ、笑わせやがる。今ので二割ってとこだ。ああ、別に手加減しておまえの男の格を下げたわけじゃあねえ。まじめにやっちゃあ家ごとぶっ飛んじまうんでな」



 ……なんて?



「なんだと……」

「言ったろ? 真似っこ剣技だってな。ま、そう落ち込むことはないぜ。ただ単に俺の方が剣士としても、漢としても格が上だったってだけのこった」

「ふざけ――ッ」

「王国じゃ一流でも、この界隈じゃ三流だぜ、おめえ。なぜならこのカラクサ村には、俺という超一流の漢がいるからだ」



 えー……慰めてるように見せて、ひっどい言い草……。

 こんな子犬にそんなこと言われて、ガトーさんもう半泣きじゃん……。


 実際問題、すっごいけど……。



「勇者である僕が、コボルトごとき格下の種族に負けるなんて……!」

「ゲッハッハ! 俺にとっちゃ、世の中の生物のほとんどが格上だ。どうやってこれまで生き延びてきたと思ってやがる。おまえはコボルトという種族に負けたわけじゃねえ。純粋に俺の剣技と、そして漢度で負けたんだ」



 キメ顔。柴犬顔なのに、なぜかわかりやすいドヤ。

 容赦ない追い打ちだわ。それにしても漢にこだわるなあ。

 こっちも自己顕示欲高そうだけど、カワイイからなんか許しちゃう。



 ガトーさんがうなだれた。



 コボルトさんが、無防備にも見える仕草でテクテクとガトーさんへと歩み寄っていく。ガトーさんが壁を背中で擦るようにして立ち上がった。



「やめとけ。武器を下ろしな、坊主。もうあきらめろ」

「認められるかッ、そんなものッ! 僕は勇者だ! 敗北するくらいなら死を選ぶ!」

「フ、恥よりは死を選ぶか。……へ、嫌いじゃないぜ、そういうの」



 またどこかで聞いたようなカッコイイ台詞言っちゃってるよ。



 ガトーさんは炎の宿った剣を振り回して彼を追い払おうとするけれど、コボルトさんはその剣閃すべてを見切って、ゆらり、ゆらりと躱しながら前進していく。散歩でもするかのように。

 もう勝敗は歴然だ。

 けれどガトーさんはあきらめない。まるで物語の主人公の勇者のように。



「ならばせめてジャンティーユ王国のため、魔王ヴァニールだけでも――ッ!」



 突然、ガトーさんの視線がわたしへと向けられた。

 そのときにはもう、炎に包まれた刀身は振り上げられていて。



「あ……」



 さっきの【火炎斬り】が来る。

 わたしには、それを避ける術も防ぐ術もない。

 全身が粟立った。



 わたし、死んじゃう……?



剣技よりも口喧嘩が得意分野。

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