第17話 女子高生は誘われる
前回までのあらすじ!
嫉妬の炎が燃え上がる!
ブルネッタさんが運んでくれた夕食をパルフェと済ませて、ブルネッタさんの案内で湯浴みをさせてもらってから、わたしたちは就寝することにした。
わたしはセミダブルのベッドに一人。
パルフェは一人用のソファに仰向けで横になって、毛布をかぶって。
仰向けでお行儀良く毛布を首までかけて眠る柴犬のカワイさたるや。
わたしは後頭部の後ろ結びを解きながら、ダメ元でもう一度誘ってみることにした。
「ねえ、ほんとにベッドで寝なくていいのー?」
「ああ」
ちなみにパジャマはさっき買ったうちの一枚。
白地に赤い水玉模様のスウェットっぽいやつ。アセロラソーダみたいなの。
「手足を伸ばさないと、疲れ取れないよ」
「あいにくと俺は小型犬種のコボルトでな。足を伸ばしてもこのソファでぐっすりだ」
素っ気ない。
「ふーんだ、短足ぅ」
「やかましいっ。さっさと寝ろ」
あんまりしつこく誘うと、また異世界女ははしたないとか言われるかな。なかなか距離が縮まらないや。
シバスケみたいに仲良しになりたいだけなのに。は~、シバスケ挟んで寝たいな。
枕元の魔導灯の灯りを絞る。
すぅっと、橙色の光が小さくなった。
「おやすみ、パルフェ」
「ああ」
「ありがとね」
「何がだ?」
「一緒の部屋で寝てくれて」
薄闇だから、パルフェがどんな表情をしているかはわからない。
けれどしばらくして、こうつぶやいた。
「…………おまえのことは守る……」
「うん」
いくらも経たないうちに、寝息が聞こえてきた。
「パルフェ、もう寝たの?」
「……」
返事はないし、ソファで盛り上がる毛布が動くこともない。昼寝までしたのに。
パルフェってば、番犬としてはほんとにダメな子なんだから。ほんとに守ってくれるのかな。わたしがしっかりしなきゃね。
窓から射し込む月明かりをぼーっと見ているうちに、軽いノックの音がした。
わたしはベッドから抜け出して、ドアを少しだけ開ける。
ちょうど視線の高さに、ネグリジェに包まれた大きな胸があった。
視線を上げると、切れ長の瞳と目が合う。
「パルフェは起きてるか?」
「ルアナさん?」
「ああ」
「パルフェでしたら寝ちゃいましたよ」
ルアナさんは表情を歪めて長い髪の後頭部を掻き、盛大なため息をついた。
そうして、呆れたようにつぶやく。
「相変わらずすぐに寝るやつだ。ちょっとやそっとじゃ起きんだろ、そいつ。耳や鼻のいいコボルト族とは到底思えんな」
む。なんでそんなことまで知ってんのよー。
どういう関係だったの? パルフェの飼い主だったり……って、それはあまりにもパルフェに対して失礼か。
わたしはドアをゆっくり開く。
「同感です。シバスケなんて近づく足音だけで起きたのに」
「シバスケ?」
「あ。わたしが田舎で飼ってた――」
と言いかけて口を閉ざした。
パルフェの話では、この世界の犬は五十年前にすべて進化してコボルト族になっていったらしいから。
「まあいい。寝ているなら仕方がない。カリンっていったか。少し話せるか?」
ルアナさんが片手に持った酒瓶を軽く振る。
「う……。わたし、お酒飲めない……」
「ああ、これはパルフェに持ってきたもんだ。なら、土産にでもしてやりな。もちろん、カリン嬢が飲むのも止めはしないがね」
ルアナさんがニヒヒと笑った。
「はあ……」
思ったよりも、表情がくるくる変わる人って印象。
女性らしい格好をしているからかな。
昼間や夕方は、お仕事モードだったのかもしれない。疲れて不機嫌そうな顔をしてたのに、今は気を抜いた感じで微笑んだりしていて。
だからかな。初対面のときから美人さんって思ってたけど、今はとんでもない美人さんに見えてしまう。
なんとなくわかる。
この人、パルフェと話すのを楽しみにしてたんだ。
なのにあいつったら、ぐーすか寝ちゃったりして。
「甘い甘い、干した果実を用意してる。私の部屋においで」
「あ……」
わたしはパルフェを振り返る。
護衛って言ったのに~……。
「大丈夫。起こす必要はない。うなされていないときはな」
「え……」
ルアナさん、パルフェが夢にうなされることも知ってるの?
それって一緒の部屋で寝てたこともあったってこと?
むー?
「苦しんでいないときは休ませてやってくれ」
「パルフェのこと、わたしに教えてくれる?」
ルアナさんが今度は少し意地悪な笑みを浮かべて、口元を歪めた。
「いいよ。カリンがパルフェの代わりに、今晩私に付き合ってくれるならな」
「じゃあ、ちょっとだけ。パルフェが起きたときにわたしがいなかったら、帰ってから叱られちゃう」
「ははっ、そうだな。いかにもそうだ」
干した果実とやらも楽しみだし。えへへ。
こっちの世界に来てから、甘いものは一度も食べてなかったからね。
辛いもので地獄は見たけど。
今も脳裏に鮮明に蘇るパルフェのあの表情ったらもう……。
わたしが部屋を出ると、ルアナさんが安心させるようにわたしの背中に手を添えてエスコートしてくれた。
その手がすっごく温かかったことが、なぜかわたしの記憶に強く刻まれた。
「今夜は少し冷える。熱い紅茶を用意しよう。女子会だ」
これがわたしとルアナさんの、この先ずっと長く続く付き合いに発展するだなんて、このときはまだ思いもしなかったのだけれど。
この番犬、マジ役立たず。




