ユニーク嫌いのフレンドがユニーク召喚獣にどハマリしてドヤ顔で生放送に出るなんて……
「やっぱユニークスキルってクソだわ」
とあるVRMMOの酒場でこのゲームで知り合ったフレの牧村が酒を飲みながら呟く。
「イベントでユニークスキル持ちが1位になるとかいつもの事だろ」
ユニークスキル。
ランダムで入手可能なそのゲームに1人しか持てない強力なスキル。
その力はプレイ時間やプレイヤースキルの差を簡単にひっくり返し、手に入れたプレイヤーはそのゲームの主役となる。
「いつもの事なのがおかしいんだよ! フルダイブゲームが世に出てから何十本もMMORPGが出たのに全部ユニークが実装されてるとかありえないだろ!」
「実際そうなんだから仕方ない『ユニークスキルを手に入れらるかも?』なんて広告出したゲームが大人気になる時代だ」
「マジで狂ってる。平等がMMOの大前提だろうが」
「今は種族やジョブをランダムで選ぶと変更不可能な代わりにユニークを引けるゲームの方が多いよね」
「ゲーム開始直後から圧倒的な差ついたらプレイヤーがやる気なくすと考えないのか運営共は」
「まぁ、すぐ辞めるプレイヤー少ないからな」
「それどころか掲示板やSNSで絶賛するからな、普通なら晒しと運営批判で荒れるべきだろ、アイツら洗脳されてんの?」
「知らん」
牧村が酒を呷る。
これは愚痴フルコースだな。
「MMOってのは、時間をかけた奴、効率を追求する奴、ゲームが上手い奴が強くなるモンだろ! 今のゲームはどうだ、ユニークスキルに種族に装備、それに古武術だ!? 運の良い奴や運動系が強いのはリアルで十分だろ、ゲームに入ってくんなよ!」
「気持ちは分からんでもない」
「ユニークの存在を百歩譲って許すにしてもだ、何でユニークを手にしたやつがユニークイベント起こして更に強くなるんだよ! そこは多くのプレイヤーに分散させるべきだろ!?」
「まぁなぁ」
「後極振りや不遇職、VRになる前はどんな人気なくても一定数のプレイヤーは居たぞ! 特殊な仕様はそいつらが全部見つけてたっていうのに、何で今はネトゲ初心者が気付く様な事も検証されてないんだよ」
「検証班もVRに移行する時に引退したのかもな」
相槌をしながら酒を飲む、見た目は立派なビールだがVRでは酔えないので実質ノンアルだ。
つまり牧村の顔が真っ赤で据わった目でこちらを見ているのは場酔いだ、ある意味凄い。
「しかし、酒飲んでるお前は完璧におっさんだよな」
「本物のおっさんですし」
「アバターもいつまでリアル容姿のスキャン使ってんだよって話だよな、たまに可愛い子が居たと思ったらユニーク様のフレだし、ユニーク様の側に居るにはリアル美少女じゃなければ駄目ってか」
「男でも廃人やリアフレっぽい人達は仲良いだろ」
「あいつらは廃人じゃねぇ、廃人ってのは嫉妬や負の感情で煮詰まった自分達の楽しみを最優先に考える人達の事だ、入手不可能なユニーク相手に優しく出来る存在じゃねぇ」
「廃人の知り合い居ないからその辺はよく分からん」
「そういうもんだ。他にも人外プレイヤーとか美少女型の召喚獣とかさ……」
牧村はVR以前のゲームを例に、MMOとはこうあるべきだと熱く語り続け、話は3度目のループに入るまで続いた後、牧村は立ち上がる。
「話してたら虚しくなってきた、俺今日でVRMMO全部引退する、じゃあな」
「おう、また明日」
ネトゲプレイヤーの引退とは今日はログアウトするくらいの意味で、俺は牧村が明日ログインすると思っていた。
だが、牧村はその日から一度もログインしなかった……。
「牧村が消えてもう1ヶ月か」
引退宣言翌日にログインする事もあれば、1日2日ログインしなくなるとそのまま辞めるのもネトゲプレイヤーだ。
今頃彼もVR以前のネトゲの呪縛から解き放たれ楽しく過ごしている事だろう。
俺も今日はログインせずに動画でも見るか。
「何か面白いプレイ動画は……お、HWOの生放送か」
まるで心を持つかの様に振る舞うAIが特徴の久々に抽選が発生した程の人気ゲームだ。
「攻略組と新進気鋭のサモナーが難攻不落のダンジョンに挑むか」
新進気鋭のサモナーってのは恐らくユニーク持ちか。
自分がプレイしないタイトルだとユニーク持ちの主人公ムーブの方が面白い事多いんだよな。
「お、始まった」
爽やかな剣士がダンジョンについての説明を始める。
最大3パーティーで挑む超高難易度ダンジョンで2ヶ月前に登場して依頼まだ誰もクリア出来ていないらしい。
ダンジョンのモンスターやギミックを聞きながら、親切な人がコメントに流したサモナーについての説明を読む。
他職のプレイヤーより弱い召喚獣がパーティー枠を取るため不遇職扱いされていたサモナー、その隠された仕様を発見し、更にレア召喚獣を引き当て、第2陣と呼ばれる発売1ヶ月後のプレイヤーながら圧倒的な勢いで最前線まで来たという。
しかし、この隠された仕様って1週間もあれば分か……プレイしてると気付かない事って案外多いか。
「で、これがレア召喚獣か、良い所揃えてるな」
笑顔で手を振る美少女達にモッフモフの動物、カッコいい小型のドラゴン、ベタだけど良いよな。
「しかしコメント欄凄いな」
召喚獣達が出てきた瞬間からヤバイ事になってる。
何故かスパチャまで利用して親切に説明してくれる人曰くゲーム内外を問わず彼女達のファンクラブも存在するらしい。
たまに聞く話だが、大人気ゲームだけあって勢いも半端じゃない。
「さて、サモナーは……」
キャラメイクがリアル容姿依存な今のVRMMOではゲームを変えても知り合いの姿は結構分かる。
剣士との会話で謙遜した様に振る舞う男は俺のよく知る男だった。
「牧村ァ!?」
1ヶ月前にユニークはクソだと愚痴っていた男がそこに居た。
しかも、自分の召喚獣達の良さを熱く語っている。
「……あはははははは!」
ヤバイ、マジで面白い。
アイツ自分がユニーク召喚獣入手した途端に生放送出てる!
「み、水……」
『召喚獣達は皆心を持ってるから、それを大事にして欲しい』
「ぶふぉっ!」
NPCや召喚獣はただのプログラムだと言い切っていた男の熱い手の平返しに飲んだ水を吹き出してしまう。
コメント欄には彼を称賛コメが溢れる。剣士がコメントの話をすると牧村は満更でもない顔をしていた。
「ドヤ顔やめろ」
笑いが止まらないだろ!
というかお前は1ヶ月前まで凄く馬鹿にしていたテンプレ主人公ムーブしてて何とも思わないのか。
「これ最後まで見れるかな」
途中で笑い死にしそう。
『では、攻略を始めます』
剣士の合図と共にダンジョン攻略が始まる。
道中山あり谷ありの見応えのある内容で、やはりユニークサモナーこと牧村の存在が目立っていたのだが。
「助け……」
1ヶ月前の熱いアンチユニーク発言が大量のブーメランとして彼に突き刺さっているのが面白過ぎて息が出来ない。
「はぁ……はぁ、お、ボス戦にトドメ刺すか」
ようやく一息つけそう。
これ以上笑ったらマジで死ぬ所だったぞ。
俺が安堵した直後、美少女召喚獣がボスの最後の一撃から牧村を庇う。
『バアル、しっかりしろバアル!』
ボスの消滅と牧村は光の粒子となって消えていく少女に駆け寄り、2人はまるで物語のワンシーンの様に涙を流し感動する言葉を紡いでいく。
「くっそ……」
最後まで笑わせるの辞めろ!
ダンジョン出たらすぐ復活するだろ!
『ご視聴ありがとうございました』
剣士の締めの挨拶で生放送が終了する。
「はー、笑った」
今年1番笑ったわ、腹の底から笑い声出るとか久々だ。
「……ま、楽しそうで何より」
引退前後で楽しみ方が180°変わってるけど、楽しそうだし良かった良かった。