第1章 第8話 覚悟らしいです…
俺はドランさんと向き合っていた。あ、別にそんな展開じゃないよ? ベッドの上じゃなくて酒場のカウンターで向かい合ってるだけだからね! 勘違いしないでよね!
とかそんな冗談は置いといて、結構本気で緊張する。俺なりの結論には辿り着いたが、ドランさんのお気に召すだろうか。いや、悩んだって仕方ない! ここは勝負だ!
「ドランさん。俺は倒したい奴がいて、そいつを倒すために強くなりたいのは本当です。でも、それだけじゃない。俺は俺の戦いにエルンとユミリナを巻き込むかもしれない。一緒に戦ってくれるのは嬉しいけど、二人に何かが起こった時に俺がいつでも助けられるように、そのために今は強くなりたい。それでもダメですか?」
ドランさんは少し考える仕草をした後、少し微笑んで「合格だ」と言ってくれた。
「合格だが、俺とお前では戦い方に違いがある。俺が教えられるのは少しだろう。それでも構わないか?」
ドランさんは俺の剣を見て聞いてくれた。この辺の気遣いをしてくれるのはドランさんの人の良さの表れだろう。
「俺は一応この剣を使っていますが、あくまで仮の戦闘方法です。最初の武器選びの時にガントレットと悩んで結局これを選んだんです」
「武器というものは一期一会だ。お前が悩んで選んだのならそれがお前の武器なのだろう」
そんなものなのか。ガントレットをはめて戦ってはみたいんだけどな。まぁなんだかんだこいつにも愛着が湧いてきてたしちょうどいいか。
「お前が剣を極めたいと言うならば俺の知り合いを紹介してやろう。少し遠い国だがここトレファスから東に行くと剣の王国ガルガンチュアがある。そこにサンという男がいる。手紙は出しておくから尋ねるといい」
「あ、ありがとうございます!」
「だが、今のお前ではおそらくガルガンチュアにたどり着けない。一ヶ月だ。一ヶ月でBランク冒険者位の実力にはしてやる」
「ありがとうございます。ドランさんは……どうしてそこまでしてくれるのですか?」
「お前は似ているんだ。まだ駆け出しだった頃の俺に。俺と同じ思いはお前にしてほしくない」
ドランさんはそう言うと力強く笑った。
「明日、店の裏に来い。時間は特に指定はしない。お前の来たい時間に来るといい」
俺は酒場を後にした。一ヶ月後にガルガンチュアに行くことを二人に伝えなきゃだな。着いてきてくれるだろうか……。最悪一人旅か。辛いな。まぁ危険な旅に連れていくくらいなら、ここで生活してもらうのもありなのかもしれない。
最近宿に帰る度に考え事しているなぁ……。休む暇もないから、疲れだけが溜まっていく。
俺はとりあえず二人に相談するために、二人に部屋のドアをノックした。
「ただいま。二人に話したいことがあるんだけど、今時間大丈夫か?」
「おかえり! 話って大事な話? 私は大丈夫だけど……」
「私も大丈夫です。ハルト君の部屋で話しましょう」
「分かった」
俺達は俺の部屋に入る。俺の正面に二人が並んで座る。
「え~と……ドランさんの問いには答えられた。ちゃんと合格は貰えたよ。ただ、俺はドランさんの元じゃなくて、剣の王国ガルガンチュアで剣の先生を探そうと思うんだ。これはドランさんの提案なんだが、俺もそうした方が強くはなれると思う」
「確かに、ハルトは剣を武器として選んでるから、ドランさんから教われることは少ないか……」
「でしたら賛成ですわ。ハルト君には強くなってもらわないとですし」
「ならガルガンチュアに行くことは決定だ。それでな、二人に相談なんだが、二人はどうする? 着いてくるにしても、危険な旅にはなる。二人はここであぶぉ!!」
エルンのパンチが俺の頬に刺さる。え、なんで殴られた!? 待って、これ泣くほど痛い……。
「ハルトにとって私達は足手まといなの? 邪魔なの? 確かに修行を積んだハルトよりは弱くなるかもしれないけど、私達は仲間じゃないの?」
エルンは泣いていた。最近エルンを泣かしたり、落ち込ませたり、そんなことばっかりだ。俺は少し……いやだいぶ過保護なのかもしれない。
「俺は正直な話をするなら、二人には安全な所で平和に過ごしていてもらいたい」
エルンがさらに俯く。ユミリナも少しムッとしている。二人を守るための過保護が二人を傷つけるのなら、そんなものは――――もういらない。
「だけど、俺一人の旅は不安だ。知らない国で一人って怖いしな。そして何より…… 俺はエルンとユミリナが傍に居ないのは何よりも寂しい。だから、危険を承知で頼む。俺に付いてきてくれないか……?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりにエルンが大きく頷く。ユミリナは我慢の限界だったのか、大粒の涙を流しながら、俺の腰に手を回してくる。所謂ハグの形だ。これはやばい……。ユミリナのあれが、男の夢と希望を詰め込んだ、まだ発展途上のあれが俺に当てられる。俺はどうしていいか分からないので、とりあえず頭を撫でておく。
おい待て。エルンのその目はなんだ。そんなに睨まないでくれよ……。不可抗力だ。俺は悪くない。いや、こうさせたのは俺だから、俺が悪いのか?
とりあえずこのままはエルンも怖いし、アポロ二ウスにも睨まれてそうなので、ユミリナを引き剥がしておく。
「ハルト、私はハルトがどこに行こうとも付いて行くと決めてたの。だから、だからもう置いていくとかはやめて。もう一人では帰りたくない」
そうか。エルンは遺跡での一件でトラウマができてしまったか。なら尚更置いていくわけにはいかないな。なるべく一緒に帰るようにしよう。
「私は邪心をハルト君と共に倒すと誓いました。それまでは足手まといになるつもりはありません。それに……二人と過ごすのはとても楽しいです。だから、まだ一緒に居たいです」
「二人の気持ちは分かった。もう置いてこうと絶対しないから。約束する」
二人は俺の言葉を反芻していたが、もう吹っ切れた感じで、
「分かった。約束だよ」
「約束したからにはきちんと守ってくださいね」
とか言ってるから多分大丈夫だろ。多分ね……。
それから二人には部屋に帰ってもらって俺はこれからについて少し考えてみる。ガルガンチュアに行くのにもお金はかかる。今の手持ちは銀貨四枚と銅貨七枚だ。とりあえず足りない。確実に足りない。どうすればいいだろうか……。ドランさんとの修行もある。お金を稼ぐにはクエストが一番早いが時間がかかる。何かいい方法はないだろうか?
うん。何も思いつかないな……。今度ドランさんに相談してみるかな。何か知ってるかもしれないし!
そんなことを考えていたらいつの間にか寝てしまっていた。朝の眩しい光を顔に浴びながら起き上がる。
「ん~……。先にドランさんの所に向かうか」
俺は支度を済ましてドランさんの所へ向かう。店の裏に着くとドランさんは座って待っていた。
「おはようございますドランさん。もしかして待ってました?」
「いや、お前の気配を感じたからな。ちょうど出てきたところだ。早速だが、お前の実力を測らせてもらう。剣を使ってもいいから全力でかかってこい」
「わ、分かりました。いきます!」
俺はドランさんに斬りかかる。ドランさんはそれを軽々と避ける。何回か斬りかかってみるが全部避けられた。よし、あれを試してみるか。
「ん?その構えは……」
「ただの我流ですけど、密かに練習してたんです」
俺は剣の先端をドランさんに向ける。そして思いっきり地面を蹴った。
「トレファス剣術 一の構え!」
「ぬっっ!」
ドランさんは俺の渾身の一撃を受け止めていた。真剣白羽取りである。
「もう十分だ。お前の力量は分かった」
「はぁ…… はぁ……。最後の一撃までも止められてしまいましたか」
「あの一撃は良かった。トレファス剣術 一の構えは威力こそあるが、弱点として相手に動いてもらわねば使えなかった。だが今のお前の技は、威力は下がるが驚異的な応用技だ。俺の反応がもう少し遅ければ、斬られていたかもしれん」
「マジですか……」
「あぁ。だが、それ以外はダメな所だらけだ。一から鍛えなおしてやる」
「は、はい……」
ドランさんに気合が入ってしまったらしい。何かオーラを感じる。これは大変なことになりそうだ……。
それ以降の特訓で地獄を見た事は言うまでもない…………。