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第1章 第7話 実は凄い人らしいです…


「な、なんですって!? 情報が……情報が何一つないのですか?」


「はい。申し訳ございません。ユミリナ様は今日からDランクという事になります」


 ユミリナと出会ってから一週間が過ぎた。皆でクエストを受けようと思い、ギルドに来たらこの様だ。まぁ流石に300年も前の冒険者のデータはないよな。ユミリナがこの世の終わりのように「そんな……」と落ち込んでいる。だが、ランクが低いだけで強さはSランクだろうし、俺も強くなる必要がある。2人の足は引っ張れない。


「なぁ、ユミリナとエルンはどうやって強くなったんだ?」


「私は騎士をしてたから、勝手に強くなったわ」


「私はレトローネに修行をつけてもらいました。かなり厳しい修行のおかげか、Sランクまでいくのは簡単でしたよ。今じゃDランクですけど……」


 まだ引きずるか。強さは変わらんだろうに。俺なんてこの中じゃ最弱だぞ。


「はぁ……やっぱ、修行とかした方がいいのかなぁ……」


 向こうの世界じゃ修行なんて一部の人しかしないし、どうすればいいのかさっぱりだな。師匠とか作った方がいいのだろうか。


「私、この街で一番強い人知ってるわよ」


「本当か!? どんな人なんだ?」


「確か冒険者をしてたはずだよ。もう引退してるって聞いてるけど……現役の時は豪腕のドランなんて呼ばれてて」


 ド、ドラン? やばい、聞き覚えがあるぞ。ドランってあの人だよな、あの酒場のマスター。あの人冒険者してたのかよ。


「確か今はこの街で酒場のマスターをやってるって噂は聞いてるけど」


「エルン……多分俺その人の酒場がどこにあるか知ってる……」


「なら話が早いじゃない! すぐ行こうよ!ハルト!」


「まぁ強くなる方法も知りたいしな。よし行くか」


「すいません。私は少々体調が優れないので、部屋で休んでてもよろしいでしょうか……?」


 ユミリナが少しきつそうに俺を上目遣いで見つめる。まぁ今回は俺の用事だしな。無理についてくる必要もない。


「あぁ、いいぞ。じゃあ、エルンも残るか? ユミリナ一人も心細いだろうし」


「お気遣いありがたいけど、一人でゆっくりしたいから大丈夫ですよ」


「そうか? じゃあ、俺らは二人で行こうか」


「そうだね。一人になりたいって言ってるし、早く行こうハルト」


 てわけで、俺らは酒場へと向かうことにした。ドランが師匠になってくれれば俺は強くなれるはずだ。最低限エルンとユミリナくらいは守れるように……。とか俺が考えているのに、後ろで女の子2人はキャッキャウフフ言ってますよ。羨ましい。


「よし、行くか! エルンそろそろ行くぞ」


「はぁい。じゃあユミリナ! 私頑張ってくるね」


「うん。応援してるよ」

 

 ん? ドランと交渉するのは俺なのに、エルンは何を頑張るのだろうか。あ、交渉の手伝いかな? 確かに俺にはこっちの世界の常識は無いしな。エルンの手を借りるかもしれないな。1人で交渉もできないとかカッコ悪いなぁ。


「おいおい、何してくれてんの? 俺様はAランクの冒険者様だぞ? その俺様がこんな寂れた酒場をつかってやってんだ。もっとサービスしろよ!オイ!」


 酒場に着いてみたら見るからにガラの悪そうな男が店員に絡んでいた。うわぁ……この世界にもいるんだな……悪酔いして店員に絡む痛いやつ。てかお前が絡んでいる人ドランだぞ。Sランク冒険者だぞ。豪腕のドランだぞ。酔っぱらってもあんな命知らずな行動はとりきらないな。命がいくつあっても足りねぇや。


「うちの店じゃランクがどうであれサービスはしない。それがルールだ。これ以上騒ぐなら店から出て行ってもらう」


「はぁ? あんた俺のこと舐めてんのか? ただの酒場のマスターが俺と喧嘩して勝てると思ってんのか?」


「よ、よせって!」


 お、止めてくれる仲間がいるじゃん。あの怯えようは多分ドランのこと知ってるな。まぁSランクだし知らないほうがおかしいか。


「ほう……俺に喧嘩を売ってくる奴はもういないと思っていたが、とんだ命知らずがいたもんだ」


「あ? てめぇやんのかよ……!」


 男が構える。ドランは仁王立ちの態勢だ。あ~……なんかこの時点で男の負けが分かるなぁ。周りの客は面白がってるし、一緒にいた仲間さんだけが青い顔をしてる。


「死ね!ウラァ!」


 男の渾身のパンチをドランは片手で受け止めた。表情一つ変えずに……。対して男の方は驚愕の表情を浮かべていた。まぁそりゃあんなに舐めてた人から全力パンチ止められたらビビるよな。お気の毒にだ。


「パンチを打つ時に腰がぶれている。それでは力が逃げてしまう。パンチとはこうするのだ」


 ドランが構える。グヮン! と空を切りながらパンチが飛ぶ。男はゴミが風に吹かれたかのように軽やかに飛んでいった。あ、あれが豪腕のドランか……! さすがの強さだ。あの人なら必ず俺を強くしてくれる。そう確信させるには、十分なほどのパンチだった。


「さすがだね。ドランさん。豪腕のドランの名は伊達じゃなかったね」


「あぁ。ドランなら師匠にぴったりだ」


「あ、そのドランって呼び捨てやめたほうがいいよ。彼は礼儀にはうるさいって噂だから」


「ま、マジか。あぶね……。ドランさんって呼ぼ。ありがとうエルン」


「どういたしまして。じゃ、お願いしに行こうか」


 俺は短く返事をしてドランさんの元へ向かう。うわぁ。前は気づかなかったけど、腕ふっと!! 筋肉の塊だな。丸太くらいありそうな太さだ。俺はドランさんの前に座る。


「いらっしゃい。今日は何を飲むんだい?」


「果実汁を二つでお願いします」


「まいど。銅貨四枚だ」


 俺は銅貨四枚を払って果実汁をもらう。


「あ、あのマスターって昔冒険者だったって本当ですか?」


「ん? もう昔の話だ。今じゃただの酒場のマスターだ」


「俺を弟子にしてくれませんか? どうしても強くなりたいんです」


「お前は何故強さを求める?」


「え? それは……どうしても倒さなくちゃいけない奴がいるんだ。でも今の俺じゃ倒せない。だから強くなりたい」


「ならダメだ。今の答えでは強くならない」


「な、なんでだよ! あんたが修行をつけてくれれば強くなれるだろ!? なんでダメなんだよ!」


「お前は弱い。その弱さは技術ではない。心の奥にある覚悟だ。お前は一人で強くなるのか? 俺が教えられるのはここまでだ。後は自分で見つけろ。答えが分かればまた俺を尋ねるといい」




 俺は見つからない答えにイライラしながら宿に帰った。時折エルンが話しかけようとしてたのには気づいていたが無視した。今話したら八つ当たりしてしまいそうだ。傷つけてしまう行為はなるべく避けたい。


「ただいま」


「あ、おかえり。どうだった?」


「ダメだった。俺には覚悟がないらしい」


「あ……えっと……」


「とりあえず一人にしてくれ。今は誰とも話したくない」


 俺はそう言って部屋に籠った。俺には何が足りないんだ。全く分からない。俺は強くなって邪心を倒さなきゃならないのに……。何よりも強く……!それで死ぬ覚悟だって……。


「あ、あの入ってもいいでしょうか」


 ノックと共にユミリナの不安そうな声が聞こえる。


「どうぞ」


「あ、ありがとうございます。エルンさん凄い落ち込んでました。ハルト君がドランさんに色々言われていたのに何も言い返せなかったって」


「気にするなって言っといてくれ。ドランさんには、俺らには見えない世界が見えてるんだと思う。言い返せなくてもしょうがないよ」


「そうでしょうか……ドランさんに言われたことを思い出してみてください。ドランさんがくれたヒントの中に答えがあるかもしれません」


「言われた事って……覚悟と、お前は一人でって、」


 あ。答えが分かった気がする。何を一人で悩んでんだよ俺は……俺が戦う理由は、強くなる理由はこの世界を守るためでもあるし、邪心を倒すことでもあるが、それ以上に大事な事があるじゃないか。


「答えが分かったような顔をしてますね。それでこそハルト君です」


「あぁ。悪いな心配かけた。ありがとう」


「礼は私じゃなくてエルンさんにお願いします。彼女が一番心配してましたよ」


「あぁ。そうさせてもらうよ」


 俺はエルンに礼を言った。エルンは驚いた顔をして「私は何も……」とか言ってたけど、答えに気づけたのは間違いなくエルンとユミリナのおかげだ。よし、次はドランさんの所だ。次こそ認めてもらうぞ!!


 俺はドランさんの元へ覚悟を決めて走り出した。

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