第2章 第2話 枷と仲間?らしいです…
俺はマーリン国へ歩を進めた。
辺り一面砂漠で囲まれた道をただひたすら歩く。たまに小さな町を通るが、小さな工場が幾つかと民家が少しだけ立ち並ぶくらいだ。工業が盛んな国というのは間違いないらしい。
ゲートはこの世界では使えなかった。俺の知っている風景は二十年で変わっていたらしい。イメージできない場所には飛ぶことはできない不便な魔法だ。
「そもそもマーリン国って行った事ないよなぁ。方角はこっちで合ってるとは思うけど……」
今俺は何も持ち合わせてない。手ぶらだ。アイアム手ぶら!
過去に飛んだ時に俺の持ち物はこの時代の本来あるべき場所に全て戻っているらしい。天日を回収しようにも、何処の遺跡で見つけられたのか分からない為、回収は諦めるしかなかった。
それに、まだ今回の枷について何も分かってないのだ。先に枷を判明させる必要もあった。
「ジャックの呪いも引き継がれてるんだよな……」
ジャックの枷は確か三つだ。
一つ、過去に戻っても歳を取り続ける。つまりこの呪いにタイムリミットができた原因はこの枷によるものだ。
二つ、魔素の回復が遅くなる。これに関してはどの程度遅くなるのか未知数なので、まだ何とも言えない。
三つ、地球の頃の記憶が無くなるか……。俺自身はまだ覚えているが、それも段々薄れてきているのは感じていた。そのうち完全に消えるのだろう。
これに加えさらにもう一つ追加されるのだ。邪神討伐の難易度が跳ね上がる。
「ん? 何だあれ、爆発してんのか?」
それは唐突に視界に紛れ込んだ。辺りには幾つかの民家と工場があるが、それを気にしないかのように爆炎が上がる。
急げば間に合う、何かできる事があるかもしれない。
「くっそ、間に合えよ……魔装!」
俺の体中の魔素が俺のイメージを感じ取り魔力に変わる。そして俺の体に纏われ、俺に莫大な力を与える鎧へと変わる。
足に力を籠め、地面を蹴っ飛ばす。俺の走る速度は音速に迫るほどだ。地面に足跡をはっきりと残しながら、立ち上る爆炎の元へと向かう。
「魔物だぁぁぁぁ!!」
「逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
「まだ、まだ息子が中に……」
「諦めろ婆さん! もう無理だ!」
町に入るや否や、すぐに様々な叫びが聞こえる。中には聞きたくもない叫びが聞こえてきた。
胸糞悪いな。
「おい! 魔物は何処だ!」
俺は近くに居た男に聞く。
「あの爆発の中だ。あれは、Aランク討伐対象!」
「そうか、分かった」
俺は爆発の中に居るらしい魔物を倒す為に走る。Aランクなら俺一人でも倒せるはずだ。
途中で何人もの町人に逃げるように言われるが、時間が惜しい。悪いとは思うが、無視して走る。
「あの中かよ……」
それはただの爆炎だったものが炎の渦になっていた。真ん中には何やら見覚えのある生物が居た。
「うわ、サラマンダーかよ……。地味に硬いんだよなぁこいつ」
俺は近くに転がっていた剣を拾って構えようとした。
「いて!!」
俺は剣を拾えなかった。剣を触れなかった。
「何で……。いや、今はそれよりもサラマンダーだ。よし、雷帝剣!」
……。
「あれ? 雷帝剣!」
……。俺の手元には何も現れなかった。魔素はまだ余裕があるはずだ。確かに魔装した分の回復はしきれてないが、そもそも俺の魔素量は常人より多い為この程度じゃ無くならない。
ならば何故剣は持てず、魔装は使えて攻撃魔法が使えないのか、答えは一つだろう。
「これが今回の枷か……。攻撃できない、厄介すぎだろ」
そんな俺にはお構いなしでサラマンダーは火を吐き続けていた。
このままでは町がもたない。どうにかして抑えなくては……。
「おい! 誰か居ないのか!? 誰でもいい! 走れる奴は居ないか!?」
俺の呼びかけに応える者は居ない。皆逃げてしまったのだろう。
「くっそ。攻撃じゃないなら使えるのか? 魔装! 魔法障壁!」
二つの魔法は問題なく発動した。制限されるのはやはり攻撃系統の行動だけらしい。
俺が展開した魔法障壁はサラマンダーが吐き続ける炎を抑える。だが、広がった炎までは消せない。
「頼む! こいつは俺が抑える! 助けを呼んでくれ!」
俺の叫びが虚しく響く。その声が誰かの元へ届くことは無かった。
「マジで誰も居ないのかよ!? くっ……障壁もギリギリか」
目の前には炎を体に纏う巨大な蜥蜴。俺を守るのはひび割れ今にも砕けそうな魔法障壁。このままじゃもたないだろう。それは火を見るよりも明らかだった。
「困ってるのかい? 少年」
「は?」
その声が聞こえたと同時に目の前のサラマンダーの首が宙を舞った。まぁ次の瞬間にゃ蜥蜴の首の微塵切りができてましたけど。
「……な! は!?」
「すまん、勢い余って殺してしまったが問題あったか?」
そう問うのは無精髭を生やし、巨大な剣を構えた一人のおっさんだった。
格好を見るに、おそらく冒険者だろう。サラマンダーを微塵切りにする実力を持った。
「いや、問題はない。助かったよ、ありがとう」
「おう! それより、お前が完璧にあの蜥蜴を抑えたお蔭で今までに無いくらい楽に狩れたぞ」
「そうか? 結構俺ギリギリだったぞ」
「俺の知る魔術師の中でサラマンダー相手に一人で魔法障壁のみで耐えきる奴は居ない。お前何者だ?」
「俺は……」
「ん? どうした?」
俺が名乗らずに黙ったのを見ておっさんが不思議そうに覗き込んでくる。美少女に覗き込まれるのはいいが、おっさんなんてたまったもんじゃない。
「いや、何でもない。俺はジャック、旅人だ」
「ジャックか、いい名前だな。俺はアドルフだ。一応冒険者やってんだ」
「アドルフ改めて礼を言う。俺一人じゃ倒せなかった。本当にありがとう」
「人間助け合いが大事だぜ。気にするな」
そう言ってアドルフはにかッと笑った。俺もつられて自然と笑顔になった。
過去に飛んでから、初めて心が休まった瞬間かもしれない、俺はそう思った。
「それより、アドルフは何で此処に居たんだ?」
「あー、そのあれだ、クエストの帰りに寄り道していたら、そのなんだ……」
「迷子か」
「迷子言うな! 俺だってなぁもう三十超えてまで迷子になるとは思ってなかったんだ」
「自分でも迷子言ってんじゃねぇか」
「俺はいいんですー。人に言われると腹が立つんですー」
「お、おう」
いい歳したおっさんが何言ってんだか……。俺の周りに集まる大人はどうしてこう、変な奴が多いのだろうか?
アドルフは自分で持っていたのであろう地図を上下左右反対に睨み、頭を抱えている。このおっさん根本的に阿呆なのかもしれない。
「はぁ……俺はマーリン国に向かうけど、アドルフはどうする?」
「これも何かの縁だ。ジャックに付いて行くぞ」
「それは心強いな。よろしく頼む」
「こっちこそよろしくジャック!」
そう言って俺達はガッチリと握手した。
そして俺達は笑い合い、お互いについて語り合った。
アドルフはSランク冒険者だった。二十年前はSランク冒険者は数えるほどしかいないはずだ。その内の一人ともなればかなりの実力だろう。
あ、あと好物は肉全般、嫌いなものは野菜と弓らしい。
「ところで、お前は何故サラマンダーに攻撃をしなかったんだ?」
「………………あぁぁぁぁ!!! 枷の事忘れてたぁぁぁぁ!!!」




