第1章 第3話 遺跡を見つけたらしいです…
エルンが苦戦しているのは流石の俺でも分かった。最初は優勢に見えたが、やはりナイフでは火力に欠けるらしい。いまいち傷が浅い。決め手に欠けるって感じだ。
「っつ……。やはり強いわね」
大頭はエルンが斬りつけるのを気にしないかのように棍棒を振るう。
「んー。使いたくはなかったけど、使うしかないかぁ」
そう言うとエルンは腰の剣を抜いた。確かに剣があったのに使わなかったから疑問に思っていたが、何か理由があるのだろうか。
「トレファス剣術 一の構え 」
エルンが剣を上段に構える。一見隙だらけのように見える。大頭もそう考えたのだろう。棍棒をおもいっきりエルンに叩きつけた。土煙が舞い上がる。
「……っく! エルン!」
「ガッッ! グガッ……」
大頭が倒れる。両腕は吹き飛び胸から腹にかけてバックリと斜めに斬れていた。
「ふぅ……。正直危なかったよ。久しぶりに使う技だったから不安だったけどなんとか成功したわ」
「エルン凄いじゃないか! 正直負けるかもって心配したよ」
「え!? ご、ごめん。ありがと」
エルンが汗を拭いながら答える。
「ん? 少し顔が赤いぞ? 休んだ方がいいんじゃないか?」
「え? あ、そうね。少し休みたいわ」
そう言ってエルンはその場で座る。近くに寄りかかれそうな木を見つけたのでそこまで一応連れていく。
「にしても災難だったわね。いきなりBランクと出くわすなんて」
「俺もびっくりしたぞ。でもよかったよ倒せて。それより、エルンのあの技は何だ? 凄い威力じゃないか」
「あれはトレファスの騎士団の剣術よ。昔私は騎士団の一員だったから」
そこでエルンは地面を見つめた。何か言いたくないことでもあるのかな……。
「あ、いや別に隠したいわけじゃないのよ? ただいい思い出あまりないから…」
「無理に話さなくていいよ。今は休む事だけに集中しよう。俺も少し疲れた」
「うん。そうね。ありがと」
それから俺たちは1時間何も話さずに休んだ。
「さぁ! 充分休んだし、ベビーリザードマンを探しに行きましょう」
「そうだな。このまんまじゃ夜ご飯を食べる時間がなくなっちまう」
「そうね。早く終わらせて帰りましょう」
だがやはり大樹林というだけあってなかなかの広さだな。これ本当に見つかるのか? 結構難しい気がするんだけど。
「あ! ハルト! ここ見て!ベビーリザードマンの足跡よ」
そこにヤモリの足跡を大きくしたような足跡がはっきりと残っていた。
「足跡を辿って進むとすると……うん。こっちね」
足跡を辿って進むと、遺跡のような所に出た。こんな所に本当にいるのか?でも足跡はここの目の前で消えているな…。
「こんな所に遺跡があるなんて私初めて知ったわ。まさかベビーリザードマンの討伐クエストでこんなお宝の宝庫を見つけるなんて、ラッキーとしか言えないわね」
「とりあえず中に入らないか? ベビーリザードマンの討伐を最優先に。何か見つけたら持って帰ることにしよう」
「それもそうね。それじゃ早速入りましょう」
「凄いわ。まるで城がそのまま埋まってるみたいよ」
「これ結構広いぞ。迷子になったら困るんじゃないか?」
「その辺は大丈夫よ私の魔道具があれば、遺跡の入り口まで案内してくれるわ」
そう言ったエルンの手のひらには拳位の大きさの球体が乗っていた。これが魔道具か。魔法がある世界らしいし、普通にみんな持ってるのかもしれないな。俺も手に入れられるだろうか……。
「ハルト、ストップ。いるわよ近くに」
「え?」
「ベビーリザードマンよ。おそらくこれは群れね。鳴き声が沢山聞こえるわ」
耳をすますとギャアギャアと沢山の鳴き声が聞こえてきた。
「このまま突っ込んで倒すか?ゴブリンと戦った感じいい感じに倒せる気がするぞ?」
「あまり油断すると痛い目を見るかもだけど、まぁ大丈夫よね。よし、行くよハルト!」
「了解!」
ショートソードを構えてベビーリザードマンに斬りかかる。
ガキィン!!
「っつ……! 剣が弾かれた!?」
「ハルト! リザードマン種は全員硬い鱗で覆われてるわ! 生半可な攻撃じゃダメよ!」
そんな事を言いながらもエルンはベビーリザードマンを斬りつけている。あれ? ちゃんと斬れてる?
エルンは流れるようにベビーリザードマンを狩っていく。ナイフで……だ。
「くそ……。ゴブリンはあんなに簡単に狩れたのに……!!」
「ハルト! 貴方剣なんて使ったことないでしょ? 型が滅茶苦茶よ。この剣を使って!」
エルンが腰の剣を投げる。片手でそれを受け取り、剣を抜く。きちんと手入れをしているのだろう。素人目に見てもこの剣はとても綺麗だ。先程大頭を狩ったとは思えない。
「ハルト。今からトレファス剣術 一の構え を教えるわ。一番簡単な技だから1発で覚えて」
「わ、分かった」
「剣を両手で持って、肩の力は抜くの。上段で剣を構えて、左足は前に出して」
俺は言われた通りに構える。ベビーリザードマンはこちらの様子を伺いながら距離を詰めてくる。
「そうその調子よ。剣を右斜めに構えて。そして重心を前に乗せた状態で剣を相手に叩きつけるのよ!」
俺言われた通りに構えた。
「ギャアァァ!!」
「重心を前に乗せて……叩きつける!!」
突っ込んできたベビーリザードマンに剣を叩きつける。今まで全く刃が通らなかったベビーリザードマンの体が首から腰にかけてバッサリと斬れていた。
「す、凄い……! こんな簡単に倒せるもんなのか……」
それからの俺は無我夢中にベビーリザードマンを狩った。辺りに敵が居なくなるのにそう時間はかからなかった。
「ここらのベビーリザードマンは片付いたわね。おそらく目的の討伐数にも達しているわ。素材を剥いで帰りましょう」
「にしてもすげぇなこの剣術。あんなに苦戦したのに一瞬で倒せるなんて…」
「当たり前よ。貴方の剣の振り方は素人のそれよ。まぁ初めてだったのでしょうし仕方ないわ。それに冒険者なんて強ければそれでいいのよ。決まった型なんて邪魔なだけよ」
「そんなもんなのか……」
「そんなもんよ。それに、SSランクの冒険者の人達なんてもっと滅茶苦茶よ? 軽く剣を振るだけで地面が割れるなんて言われてるんだから」
地面が割れるってもうそれは人間の域を超えている気がするんですがそれは……。
『ハルト様。今すぐそこから離れてください。そこは危険です』
「え?」
ピシッと音がする。音がした方を見ると壁にヒビが入っていた。それに気づいた時にはもう遅かった。
ドゴォォォォォオオン!!!
壁が大きな音を立てて崩れ落ちる。それに伴いヒビは広がり天井や床に大きなヒビを作りあげる。ヒビが驚いて動けないでいるエルンの元にまで広がる。
「エルン! 手を!」
エルンの足元が崩壊する。
「キャァァァァ!!!」
「と、届けぇぇぇぇ!!!!」
パシッと乾いた音と共に俺はエルンの手を掴む。俺はエルンを思いっきり投げた。
「ま、待って! ハルト!手を!」
エルンが伸ばした手は俺には届かない。
「エルン! 俺は必ず帰る! だから! 無事に帰って宿で待っててくれ!」
そう言い残し俺は遺跡にできた大穴に落ちていく。エルンは無事に帰れるだろうか……? 俺は死ぬのだろうか……? そんな不安がひたすら頭の中でぐるぐるしている。
「おいおい。待てよ。この穴どこまで続いてるんだ?」
春翔は延々と落ち続ける。どこまでもどこまでも。
「待ってくれ。頼む。早く! 早く地面に着いてくれ。怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い! ウワァァァァァァァァァァ!!」
春翔の意識は穴の奥底に吸われるように段々と薄れ、テレビの電源が落ちるように消える。
春翔は深い深い穴の奥底まで落ちていった。




