第2章 第1話 久しぶりな初めましてらしいです…
少しだけ短めです。
暗い。
暗い。
何も見えない。
俺は、お前は、私は、貴方は、誰だ。
此処は、其処は、何処だ。何を目指す? 何が目的だ?
忘れるな。忘れてはいけない。思い出せ。思い出せ!
俺は、俺は! ハルト、神田川春翔!
忘れるな。約束は……。
「……うっ」
俺は地面の上に寝ていた。
重い頭を起こし、辺りを見渡すが、何処か皆目見当もつかない。
体には異常はないようだ。両手両足五臓六腑きちんとある。
「これは……手記?」
俺の右手には小さな手帳のようなものが握られていた。
それ以外には何もないようだ。俺の剣である天日も無くなっていた。何処か寂しさを覚えるが、この時代での本来の居場所に戻ったのだろう。
「とりあえず、手記を読まないと何も始まらないか」
俺は手記のページをめくる。そこにはびっしりとこの世界について書かれていた。
次のページも、その次のページも、どのページをめくっても、この世界について、事細かに書かれている。
それは国について、それは魔法について、それは宗教について、それはこの世界の常識について。
俺は夢中になって食い入るように手記と睨めっこを繰り返す。地面に座りっぱなしなことも忘れて、時間さえも忘れて。
未来の俺が、ジャックが過去で経験したことを、俺に伝えようとしたことを、彼の後悔も、絶望も全て取り込むかのように。
気が付けば、目が覚めた頃は空で眩しく輝いていた太陽も、その姿を消そうとしていた。
「ありがとうジャック。約束絶対守ってみせるから」
俺は手記を地面に埋め、小さく盛り上がった土に手を合わせる。
それはこの世界には無い、死者を供養する動作。俺に全てを託し、その生涯を終えた俺自身へのせめてもの餞だった。
「まずは町に行くか。仲間も欲しいな」
俺はこれからの事について思考を巡らす。
神田川春翔がこの世界に飛ばされるのは、俺が今居る時代から二十年後だ。それまでに、準備を整える必要がある。
まずは強さ。純粋にジャックより俺は弱い。弱すぎる。邪神に勝つには最低限ジャックより強くなる必要がある。
そして仲間だ。エルンはまだおそらく生まれてないか、赤子だろう。仲間にはできない。
ユミリナはあの遺跡で眠っているだろうが、助けにはいかない。
あの二人は、二十年後に来る俺が会うほうがいいだろう。ジャックがそうしてくれたように。
それに、仲間の見当はもうつけてあった。
「まずは、サンからだよな」
俺の仲間はアステリズムだ。彼らを集め、アステリズムを結成する。
そのためには、一人ひとり勧誘するしかない。
町に行くために立ち上がったと同時に、そこそこの質量のある物体が地面にぶつかった音がした。
「これは……神石? しかも光ってる?」
それはずっと反応しなかった神石だった。
『ハルト様……聞こえていますか?』
「あぁ聞こえているぞ。久しぶりだな」
『久しぶりと言っても、この時代の私は貴方とは初めましてですけど』
「ん? じゃあなんで俺の事を知っているんだ? 俺とお前が話したのは未来の話だろ?」
『本来神であっても時間への干渉はできませんが、なんせ私は新界最高神なので。その辺は適当にちょちょいのちょいですよ』
「おい……それでいいのか神界……」
向こうではレトローネが『えっへん』とか言いながら鼻息荒く話している。
そういえば忘れていたが、真面目な時以外のこいつは駄神だったわ。
「と、それはいいや。それより、未来の事が分かるなら答えられるよな? 何故ずっと連絡を寄こさなかった?」
『私、あの時代では殺されましたので』
「あ、なるほどそゆこと……って、はぁぁ?? 殺されてた? 誰に?」
『ゼルドスですよ。まさか、彼が裏切るとは思ってなかったので、油断してました』
「ほんとに何やってんだよ……」
『返す言葉もないです……」
二人揃って溜息が漏れる。レトローネによると、ゼルドスは邪神を滅ぼす事に賛成派の神だったらしい。
仲間だと思っていた神から急に裏切られ、困惑しながら死んでいったようだった。
「じゃあ、今のうちにゼルドスは殺したほうがよくないか? 簡単に言えば邪神派からのスパイな訳だろ?」
『証拠もなく殺せば、反感を買います。未来の記憶を持っている事は秘密なのですよ?」
「そういえばそうだったな。じゃ、お前が警戒しとく事だな。とりあえず、俺は今此処が何処なのかと、サン達アステリズムのメンバーの居場所が聞きたい」
そう聞くと、レトローネは数分黙った。おそらく皆を探しているのだろう。
『言語統一は済ませてあるようですね。えーと今ハルト様が居る場所は、世界の南端に位置する国ゴラバです。確か、工業が盛んな国ですよ。そしてアステリズムのメンバーの居場所ですが、フレデリクは魔法の国マーリンに、マルガレータは北端に位置するルーパラ、ロアナはガルガンチュアに、ドランはトレファスで冒険者をしています』
「……ん? サンは何処だ?」
『それが……サンはこの世界に存在していません。この世界の何処を探しても、見つかりませんでした』
「そんな馬鹿な……」
俺は確かにサンの修行を受けたはずだ。サンと話し、ご飯を共に食べ、魔装の研究をし……。
「あれ……? サンの記憶が……頭から消えていく!? そんな! ありえないだろ……そんな嘘だ……。……あ、あれ? なんで俺泣いてんだ?」
『ハルト様? 大丈夫ですか? どうして泣いているのですか?』
「分からない……。なんで俺は……」
『とりあえず、現在地から一番近いのは、フレデリクの居るマーリン国です。そこへ向かうのが良いでしょう』
「そうだな……。とりあえずそこに行くか!」
『はい。この時代の私はそこそこ暇なので、何か困った時は石に向かって話しかけて下さい。反応します、多分……』
「過去に戻ってもお前のその辺は変わらないのな。さんきゅレトローネ」
『くれぐれも他の神に気を付けて下さい。この世界の神の中にも、異変に気付いたものが居るかもしれません』
「了解。じゃ、また今度な」
『はい。御気を付けて』
そう告げ終わると、光っていた石が何も無かったかのように、その光を消す。
心の奥に何か喪失感があり、大事なものを失った気がしたが、それに気づかないまま俺は魔法の国マーリンに向かった。
お久しぶりです。星空天です。
いせかんの休載を終了したいと思います。
次回からの更新についてですが、不定期更新になります。最新話ができ次第投稿していく形になります。毎日投稿するときもあれば、週に1話、なんて時もあるかもしれませんが、ご了承ください。
今までは週に三本と言っていましたが、それが自分の重荷になり、精神的に追い詰められる結果になってました。その為、上記のようになりました事を報告させて頂きます。
今後もいせかんをよろしくお願いします。




