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第1章 最終話 呪い

更新が遅れて申し訳ないです。

第1章最終話になります。



 全ての時が止まった気がした。

 

 いや、止まっていた。


 俺の目の前で倒れる二人の体は動かない。

 そして、二人を殺したであろう、神も動きを止めたままだった。


 ジャックは……動いていた。

 全てが止まったこの世界で、唯一自分以外で動ける者だった。

 俺と目が合ったジャックは、驚いた顔をしていた。


「お前……動けるのか? そうか……もう限界か……」


「何の話だ? これは一体……」


「そうだな、全てを話そう。俺は神田川春翔。お前自身だ」


「ジャックが俺?」


 ジャックが指を鳴らすと、見慣れた顔が、日本人の顔がそこにあった。

 この世界ではなかなか見かけない黒髪に、黒目、相変わらず可もなく不可もなくな顔だ。

 だが、明らかに俺と違った部分がある。


「俺はもう82だ。そろそろ体が限界なようだ」


「待って。何が起こっているんだ? 82って82歳って事だろ? なんで?」


「まぁそう焦るな。今から話すのは俺が体験した未来の話だ」




 ――――目の前に邪神が封印されていた。

 この復活の日に備えて、できるだけの事はしてきたつもりだ。

 サンやドランさんの元を尋ね、弟子入りした。修行もしてきた。

 クエストも数え切れないくらいこなしてきたし、高ランク討伐対象なんてもう余裕だ。

 ランクだってSSにもなった。


「ハルト君、遂にですね」


「あぁ。この世界に来て、もう五年か。俺も随分様変わりしたものだな……」


「最初に出会った時とは似ても似つかないからね。宿で出会ったのが懐かしいなぁ……」


 エルンとユミリナが緊張感なく、過去を振り返っていた。

 今の俺なら負ける気はしない。邪神だって倒せる気がしていた。


「ハルト君! 邪神が復活します!」

 

 目の前で眠る、禍々しい気を放つそれが、大きく波打った。

 と、同時に爆発し、辺りに黒い渦を巻き起こす。

 渦の衝撃が、大地を、空を、海を、全てを揺らしながら俺達を襲う。

 

「これはまた厄介そうだな。魔装!」


 俺は魔装を体に纏い、次の衝撃に備える。

 もう一度大きく波打ち、渦がその規模を増す。それは世界を全て飲み込むかのように巨大になっていく。


「ユミリナ! 多重魔法障壁で一度抑えるぞ! エルンは周囲を警戒! 魔物を近づけるな!」


「分かった!」「分かりました!」


 エルンはその場から姿を消し、周囲を走り回る。

 俺とユミリナは渦を挟むように立つ。


「「多重魔法障壁!」」


 俺とユミリナの前に、ガラスのように透き通った分厚い壁が、何枚も発現する。

 渦は俺達の魔法障壁にぶつかると一瞬動きを止めた。

 が、すぐにまた動き始め、俺達の魔法障壁を一枚ずつ割っていく。


「このままじゃ抑えられません!」


「もっと魔力を注げぇぇぇええ!!」


 俺の目の前に分厚く、巨大な魔法障壁が出来上がる。ユミリナのはそれより一回り小さいサイズだ。

 

 だが、もって後数十秒だろう。


「ユミリナ、俺が合図を出したらすぐに退け。俺はゲートでエルンを回収してから退く」


「分かりました!」


 俺は渦をギリギリまで抑える。

 渦の力が一瞬だけ弱くなったところで合図を出す。


「今だ! 退け!」 


 そう言うと、ユミリナは魔法障壁を消し、後ろに大きく飛ぶ。

 着地をした後、渦に背を向け、走り出した。


「よし、ゲート」


 俺の前に、ドアが現れる。いつ見ても、某国民的アニメのあのドアだ。

 俺はそのドアを開け、エルンの目の前に現れる。


「うわっ! びっくりした。どうしたの?」


「一度退くぞ。あの渦は止められない」


「分かった」


 エルンは俺と共にゲートをくぐり、ユミリナの目の前に出る。


「あ、ハルト君。もうあそこ一帯はダメです。あの渦に飲み込まれました」


「あの渦を消すしかないか。ちょっと待ってろ」


 そう言って俺はフライで空を飛び、渦の近くで止まる。

 隕石(メテオ)で吹き飛ばせるだろうか? 魔素を最大まで込めた魔力ならいけると思う。

 そう思いたい。


隕石(メテオ)


 俺は空に向けて、巨大な魔素の塊を打ち上げる。

 五年間の修行でこの魔法はだいぶ使いこなせるようになった。

 今じゃほぼノータイムで打てる。


「おりゃぁああああ!!」


 俺が操る隕石(メテオ)は、その指示通り一寸違わず、拡大を続ける黒い渦に落ちる。

 渦の中心で爆発し、見事渦をかき消す事に成功した。


「よし! やった!」


 渦が完全に消滅した事を確認して、俺はゲートでユミリナ達を迎えに行こうとする。

 

「どこに行く気だ?」


 突然目の前に現れたそれは、俺に向かって拳を振るう。俺は防御態勢も取れずに顔面にヒットした。

 空中で受けたために、地面に思いっ切り叩きつけられた。

 意識が飛びそうになる。


「我が世界を滅ぼすために生成した終焉の渦(エンド)を消したからな、何者かと思ったが、話にもならないか」


「お前は……何者だ……」


 俺は、ギリギリ保っていた意識を振り絞り、疑問をぶつける。


「うすうす分かっているだろう? 我は邪神、邪神オベリスクだ」


「邪神……オベリスク……」


 オベリスクは、俺の横に降り立つと、立ち上がれないでいる俺の腹を蹴り上げた。

 俺は痛む腹を抑えながら、地面を転がる。

 マジでやばい。くそ……。


「おいおい、意識を失うとかはやめろよ? まだ肩慣らしにもなってない」


「ふざけんなよ……」


 俺は髪を掴まれ、そのまま持ち上げられる。  

 俺はその時初めて邪神の姿を見た。その姿は――――。


「ハルト君から手を放してください!」


 その声と共に、巨大な水の竜巻が俺達の元に向かってくる。

 邪神がその竜巻を睨むと、まるで最初から何もなかったかのように消える。


「……っな!」


「はぁぁぁあ!」


 エルンが剣を持って、邪神に斬りかかる。

 邪神は俺を持ち上げたまま、簡単に剣を避ける。しかも、反撃に蹴りまで返す始末だ。

 

「やめろ、二人とも。俺達じゃ勝てない、逃げ、ぐわぁ!」


「せっかく楽しくなってきたんだ。興冷めすることは言うなよ」


 邪神は俺の腹に拳を打ち込み黙らせる。

 エルンとユミリナは逃げるべきか、助けるべきか悩んでいる様子だ。

 

「はぁ。お前らはこの程度か。アポロ二ウスの言っていた事は、ただの戯言だったわけか」


 俺は邪神が気を抜いた一瞬を見逃さなかった。

 俺を掴むその手を振り払い、反撃と言わんばかりに、炎の怒り(プロミネンス)を邪神に打ち込む。

 この魔法は、炎系統の魔法で最強に近い魔法だ。その威力は、他の魔法の追随を許さない。


「かっかっかっ、やるではないか! だが効かん」


「くそっ……打つ手なしか」


「ハルト君、三人で一斉に最大威力の攻撃をしましょう。奴を倒すには、その存在まで消し去るしかありません」


「分かった。エルン、ユミリナ。こいつ倒したら、また三人で旅でもしよう」


「はい!」「もちろん!」


 俺達は頷きあって、邪神を囲うように散る。

 邪神は何か面白い事が起こるのを期待するような目で俺達を眺め、薄ら笑いを浮かべていた。

 俺は全力で魔素を手に集める。今までで最高火力の炎の怒り(プロミネンス)を、ぶつける為に。


「凄い魔素量と気迫だ! 我も全力で応えよう!」


「はぁぁぁ! トレファス剣術 最終奥義 風林火山!」

「超極大魔法! 竜の逆鱗(ディザスタインパクト)!」

「これで終わりだ! 炎の怒り(プロミネンス)!」


 エルンの剣から四つの光が放たれる。

 ユミリナの両手から、轟音を鳴り響かせながら、巨大な稲妻が。

 俺の両手から辺りの酸素を全て燃やし尽くす勢いの、巨大な爆炎が。

 それぞれが邪神を目掛けて、力の限り飛んでいく。


「これは素晴らしいな。我でなければ、世界まで巻き込んで存在を消せるほどだ。

 相手が我でなかったならな」


 そう言って、邪神は両手を空に掲げて、叫ぶ。


終焉の渦(エンド)


 邪神の周りに、あの黒い渦が現れる。

 先程見たものと比較にならないほどのエネルギーに溢れていた。

 


 俺達の攻撃はいとも簡単に吸われた。


 渦は全てを飲み込みながら、俺達の方へと向かってくる。


「多重魔法障壁!」


 俺の周りに何百枚もの魔法障壁が生成される。

 俺は出してない。

 俺の視界に、ゆっくりと音を立てながら倒れる、ユミリナの姿が映る。


 そして、渦に飲み込まれるユミリナの姿も映る。


「ユミリナぁぁぁぁ!!」


 俺は叫ぶ。

 俺はユミリナの元へ走ろうとするが、目の前に広がる魔法障壁が行く手を阻む。


 絶望に負けて跪く俺を眺めるエルン。

 エルンは悲しみに顔を歪めながらも前を向いた。


「ハルト、進行を少しでも遅らせるから、この渦を止めて。君なら、君ならできると信じてる」


 そう言ってエルンは渦に飛び込む。

 剣から光を放ち、その光を渦に向けて放つ。

 それをひたすら繰り返すも、渦は止まらない。

 無情にも、エルンの剣は全くの無意味だった。


「やめろ、エルン。エルンまで失ったら俺は……!」


 エルンの耳にハルトの声が届く。

 エルンは剣を振るのを止め、俺の方を振り返る。涙を流しながら。


「ハルト、ありが」


 体の奥底にまで響くくらいの轟音を上げながら、エルンの体を渦が飲み込む。

 そして、ユミリナの魔法障壁にぶつかる。

 が、それが割れることは無い。俺を守る、その意思を守るかのように。


「俺は強くなった、エルンもユミリナも。俺達は誰よりも!

 何が足りない! 何処で間違えた? 何処でどこでドコデどこだぁぁぁぁ!!」


 俺は、叫んだ。

 全てを呪いながら。この世界を呪いながら。自分を呪いながら。



 俺の体の奥から力が溢れる。

 今までに何回か感じた程度の力だ。だが、この力には覚えがある。


「そうだ、力を貸せよ。全てを憎んで、全てをやり直す力を!」


 俺の体に爆発的な力が流れる。

 髪が腰まで伸び、色が赤に変わる。背中には見覚えのある翼が生えた。

 俺は今この一瞬だけ神になった。


「俺は俺自身に呪いをかける! 全てを救い、邪神を倒すまで無限のループの中に身を置け!」


 そして、俺は呪いの呪文を口にする。


「――――――――――――」


 世界が消えた。


 全てを巻き戻しながら。


 



「これが俺が体験した未来だ」


 未来の俺がそう言って話を終えた。


「邪神には負けたのか」


「あいつは異次元の強さだ。あの不完全な神より強い。今の俺でも勝てない」


「そんな……」


 俺は言葉が出なかった。

 未来の俺が勝てないと断言した。82歳まで経験を積んだ俺が。


「その呪いはどんな呪いなんだ?」


「呪いの発動条件はエルンとユミリナの死亡。これがトリガーになる。

 そして発動すれば過去に戻る。約20年前にな」


「そんなに昔に!?」


「あぁ。だが、この呪いは不完全だ。

 何故20年前に戻るのかも不明。しかも、過去に飛ぶ度に何らかの枷を背負う」


「枷?」


 未来の俺は、俺に右手を見せた。

 その手には、魔法陣らしき物が浮かび上がっていた。


「これは?」


「これが呪いの紋だ。過去の戻るときにこいつが光る。光ると枷が追加される。

 今の俺の枷は三つだ。

 一つは過去に飛んでも年齢はそのまま。

 次は魔素の回復が遅くなった。

 最後に、記憶が無くなった。地球に居た頃の記憶はもうほとんど残ってない」


「それは……」


「そしてこの呪いは俺に限界が訪れた時に、次の神田川春翔へと引き継がれる。今回はそれがお前だった」


「じゃあ俺は過去に?」


「あぁそうだ。そしてもう時間がない。後のことは俺の手記に記してある。任してもいいか? お前に」


「いつか、邪神は倒せるのか?」


 未来の俺は首を縦に振る。

 その顔は、だんだん歳を取っていき、お爺ちゃんになっていく。


「もう……限界らしい。最後に……聞く……。エルンを、ユミリナを救ってやってくれないか……? 俺達の約束を叶えてくれ……」


「分かった。任せろ、ジャック」


「ふっ、これが……手記だ。絶対読めよ、ハルト。後は……任せた……」


 そう言って、ジャックは息を引き取った。 

 髪は白に染まり、顔は皺だらけ、顔のあちこちに傷跡がある。

 これが本来の姿なのだろう。

 

「呪いでもなんでもかかってこい! 未来の俺達の約束、絶対叶えてやる!」 


 俺は、時間の波に飲み込まれる。

 


 


 


次回より第2章スタートです。


今後の更新頻度や、活動について活動報告に上げるので、ご確認ください。

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