第1章 第24話 アステリズムの力らしいです…
更新遅くなり申し訳ないです!
もの凄い速度で魔物が肉塊へと変わっていく。
ロアナの拳が一撃で敵の心臓を貫く。
ドランさんのラリアットが魔物を一気にまとめて吹き飛ばす。
先程まで生命として活動していた生物が、瞬く間にただの肉の塊になっていく様を俺は見ていた。
「ハルト君! 後ろです!」
ユミリナの声が俺の耳に届く。
咄嗟に後ろを振り返った俺の目に映ったのは、腕を振り上げ、俺を今すぐに叩き潰さんとする魔物の姿だった。
魔法障壁を張ろうとしたが間に合わず、もろに魔物の一撃を喰らう。
体の節々が痛んだ。体を起こすだけで痛い。
「っつ……。いって……」
「大丈夫ですかハルト君!?」
ユミリナが辺りの魔物を蹴散らしながら、俺の方へ走ってくる。
あ、こけた。
「いたた……。ハルト君、今すぐマルガレータさんの所まで行きましょう!」
「その必要はないわ。ここに居るもの」
「うおっ!」
何もなかったはずの場所から、マルガレータが現れた。
ほんと、アステリズムの人達はなんでもありらしい。
「回復魔法をかけるわよ。少し違和感があるかもしえないけど、我慢してね」
「分かった」
「超回復」
そう唱えたマルガレータの周りにオレンジの光が現れた。
その光はマルガレータの周りをクルクルと何周かした後、俺の体に降り注ぐ。
その瞬間、俺の体の痛みは嘘のように無くなった。
「これで大丈夫よ。この戦いに君の力は必須よ。死なないようにね」
「あぁ」
そう言ってマルガレータは何処かに走って行ってしまった。
マルガレータが『聖母』と言われる由縁は、その回復力はさることながら、その他にも誰でも回復することからそう呼ばれていた。
回復魔法を施すものに、善人も悪人も関係ない。
彼女が言うには「人間皆生きる権利がある」のだとか。
「流石『聖母』だよな。回復魔法の効果が他の奴より段違いだ」
「魔法使いとして見習うべき点です」
俺達はそんな事を話しながら、魔物狩りを再開した。
「この程度か?」
その言葉はフレデリクから発せられた言葉だ。
それは目の前の神、エレボススに発せられた言葉だった・
エレボススは肩で息をするぐらい消耗はしていた。だが、まだその顔には余裕が伺える。
「ふふっ」
「何がおかしい?」
エレボススはこの状況下でも笑いを絶やさない。
彼の頭の中には、最終的に自分が勝つ未来が見えていた。
「お前は俺には勝てない」
「神である私達に負けは無いのです」
絶妙に噛み合わない会話をしながら、二人は睨み合う。
フレデリクは基本無口な男だった。
口を開くのは、自己紹介と戦闘中、それと心に焦りがある時。
「お前らは何故罪の無い人々を殺す?」
「我らの敬愛する邪神の為、そして我が盟友、ゼルドスが望む世界の為!」
「くだらん」
フレデリクは魔素を右手に集める。
『賢者』の二つ名を持つフレデリクの魔法は、人類で最も威力がある。
ジャックとはまた違ったベクトルの強さを秘めたその魔法は、賢者の名に相応しい。
決して、男の大事な勲章を守り続けた訳ではない。決して。
「そこまで魔素を集めて何をする気だ?」
「ある少年から託された魔法だ。制御が難しいがな」
そう言って、フレデリクは手を空に掲げて、魔力の塊を空に打ち上げる。
それは眩い光を放ちながら、辺りを照らし続ける。
その光は、近くで戦うサンやジャックだけでなく、ハルト達の元にまで届く。
ハルトはその光が何を意味するのか分かった。
「何をした? 空に魔力の塊を放ったのか? 何の魔法だ」
「少し黙れ。この魔法は制御するのに、莫大な集中力がいるんだ」
そう言ってフレデリクは黙る。
エレボススは何か不穏な空気を感じ取り、すぐさまフレデリクに向けて魔法を放ち続ける。
だが、その魔法がフレデリクに届くことは無い。フレデリクの魔法障壁は、並大抵の魔法では破ることなどできない。
「な、なんて強度だ……」
「ふっ。死ね。隕石」
天から降り注ぐ巨大な魔力の塊は、フレデリクの意思に則って、真っ直ぐと少しのズレも許さずエレボススの元へと向かう。
それは紛れもなくハルトの魔法、隕石だった。
威力や規模はハルトの倍はあるだろう。地上に近づくにつれ、地面は抉れ、砂埃が辺りを覆いつくす。
「この魔法は何だ!? これは人間が扱うような魔法の類いを超えている!」
「これは俺の友の弟子の魔法だ。威力は化け物だな。正直俺ではこの魔法は作れない」
「くそぉぉおお!! 多重魔法障壁!!」
エレボススの周りに何重にもなった魔法障壁が展開される。
だが、隕石に慈悲は無い。
一枚、また一枚と魔法障壁を破っていく。
「その程度では防げない。大人しく死ぬがいい」
「あぁぁぁぁぁ!」
最後の魔法障壁が破られる。
エレボススの体が、赤い魔力の塊に呑まれる。
辺りには断末魔と思われる声が響き渡った。
「もっと! もっとっすよ!」
「はっ! ふっ! はぁぁ!」
二本の剣が火花を散らしながら、ぶつかり合う。
この戦い、サンとタナトルムの戦いは拮抗状態だった。
『光速の剣士』の二つ名を持つサンの剣の速度に、勿論タナトルムは付いていけない。
一撃、二撃とサンの剣をその小柄な体に浴びる。
その度に、痛々しい音が響く。思わず耳を塞ぎたくなる音だ。
「ははっ! 楽しいなぁ! これこそ戦いだよね!」
「何故倒れない?」
サンの疑問は尤もだった。
タナトルムは既に何十発と、その体にサンの振る剣を喰らっている。
普通なら死んでいてもおかしくないほどだ。
「はは! 俺は昔から戦いに身を投げたっす! 故に俺の体は並大抵の攻撃じゃ痛みすら感じないっす」
「なるほど。では許容範囲を超えた攻撃を見せてやろう」
そう言ってサンは剣を鞘に納める。
そして、魔素にイメージを込める。
まさか自分の弟子の魔法を真似る日が来るとは……。数年前のサンならありえない話だろう。
「借りるぞハルト。魔装!」
サンの腕と足に魔力が集まる。
そこには赤い籠手と鉄靴が現れる。
それはまだ完成とは言い難い、未完成な魔装だった。
「はぁ……。完璧とは言えないか……。しかも、この魔法、魔素の消費が尋常じゃないな。早く決着をつけるか」
サンは改めて、ハルトの異常さを知る。
本来、常に発現させた状態の魔法は魔素の消費が激しい。
仮に宮廷魔術師クラスの魔法使いでも、魔装は一分も発現できないだろう。
それはサンも例外ではない。おそらく、もって五分程度だろう。
それをハルトは簡単に一時間位は発現した状態で保てる。これは異常な事だった。
「何すか? その防具は?」
「これは俺の誇りだ。あいつが考え、俺と共に磨き上げたもの」
サンは剣を抜いて、一歩踏み込む。
それは今までの速度を軽く超える。光速より先、それは未知の領域の速さだった。
サンの横に払った剣が、タナトルムの腹を抉る。
悶絶する声をあげながら、タナトルムは吹き飛ぶ。
地面に着地する前に後ろにサンは回り込む。
そのまま落ちてくるタナトルムを空へと打ち上げる。
サンは思いっ切り跳躍し、打ち上がったタナトルムよりも遥か上空へ舞い上がる。
「はぁぁぁぁあああああ!!」
天に掲げた剣を振り下ろし、タナトルムへと叩きつける。
速度、重力、ありとあらゆるパワーを乗せたその一撃により、タナトルムは地面へと、勢いを殺すことなく落下する。
「……ぐはっ!」
「まだ生きてるか。頑丈すぎるのも考え物だな」
「何故……何故っす……。何故そこまで……」
「お前らはガルガンチュアに攻め込もうとしただけでなく、俺の誇りを殺そうとした」
「誇りっすか……」
サンは無言でタナトルムを見つめた後、口を開く。
「俺は、ハルトに新たな人類の希望になってもらいたい。あいつならいずれ――――」
その言葉を聞いたタナトルムは目を見開き、そして静かに目を閉じた。
この後、サンの姿は目撃される事は無かった。
後3話ほどで第1章は終わります。
この物語の本番は第2章からです。
あと3話ほど長い長いエピローグにお付き合い下さい。




