表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

第1章 第22話 止められない魔法らしいです…


 俺とユミリナが向かい合ったまま、五分が経過した。

 魔法を使う者同士の戦いは、基本的に腹の探り合いだ。 

 お互いの手の内は知られないように戦う。これが基本だ。

 使う魔法が知られれば、簡単に抵抗(レジスト)されてしまう。

 いかに相手に魔法を使わざるを得ない状況を作るかが勝負の分かれ目だ。

 

 先に動いたのはユミリナだった。

 

 俺目掛けて、突きを繰り出す。


 俺はそれを体を捻って躱して、カウンターの蹴りを繰り出した。


 ユミリナは自分の死角に、魔法障壁を発現させておくことで、俺の蹴りを受け止めていた。 

  

 俺は足を収め、距離を取る。


 このまま殴り合いをしても埒が明かない。

 それはお互いが今の一連の流れで理解していた。

 俺は体中の魔素に魔法のイメージを組み込む。

 ユミリナも同じように魔法の準備をしているようだ。手の辺りに魔力の塊が形成されつつあった。


 次は俺から仕掛ける。先に作っておいた火弾(ファイアーボール)をあえてユミリナに当てず、地面で爆発させる。


 ユミリナの足元でもうもうと土煙が立った。


 俺はそこに目掛けて炎弾(フレイムボール)を乱発する。

 不規則に飛ぶ炎弾(フレイムボール)が、ほんの数秒前までユミリナが立っていた場所へと着弾する。


 爆風が舞い上がり、辺りには削れた地面の残骸が散らかる。

 少し、いやだいぶ、やりすぎた……?


 そんな考えをしていた俺の気持ちを嘲笑うかのように、爆風が一瞬で吹き飛んだ。

 そこには、ユミリナを中心に竜巻が起こる。


「ハルト君! そんなに高威力の魔法を放ったら、また地形を変えてしまいますよ?」


「ちゃんとそこは調節しとるわい!」


「ふふっ、それならいいんです!」


 そう言って、エルンはいくつかの水の塊を俺に向けて放つ。

 それは段々と速度を増し、俺に届くまでには目で追うのがやっとくらいの速度になっていた。 


 俺は超高温にまでした炎弾(フレイムボール)で、俺に飛んできた水の塊を蒸発させる。  


 水蒸気となった水が俺の視界を悪くする。 

 俺は咄嗟に後ろへと跳ね、距離を取る。

 

 すると空から俺目掛けて、寸分違わず拳大の岩が飛んでくる。

 この状況下でユミリナは俺を確実に認識する術を持っているらしい。

 俺は水蒸気が晴れるのを待つしかなかった。

 その間もユミリナの攻撃は続く。


「っく! 魔装!」


 俺は魔装を体に纏い、空へと思いっ切り飛ぶ。

 空からユミリナの方へと体を向けた俺は、こちらを見て嫌そうな顔をするユミリナと目が合った。


「魔装はずるいですよ! それじゃ勝ち目が無くなります!」


「お前さっきと言ってること変わってるぞ……」


 俺はとりあえず魔装を解いた。 

 体中の力が少し抜ける。


 気がつくと、辺りの水蒸気は晴れて、いつもの世界が広がる。

 ユミリナは嫌そうな顔から、余裕の表情に変わっていた。

 そのまま両手に魔力の塊を作っていた。


「はぁぁ! 複合魔法水刀風龍(アクアトルネード)!!」


 そう唱えたユミリナの目の前に、水で形成された巨大な竜巻が生成される。

 それは周りの地面を削りながら、俺の方へと向かってくる。 

 試しに炎弾(フレイムボール)を放つが、いとも簡単にかき消される。


「なんて威力だよ……。これ、止められる気がしないんだけど……」


「私が今使える最高火力の魔法です! ハルト君にこれが止められますか!?」


「はぁ……。止めてやるよ! はぁぁ! 魔装!」


 俺の体に再度鎧が纏われる。


「魔法障壁ぃぃぃぃ!!!」


 俺は何重にもした魔法障壁で真正面から迎え撃つ。

 一枚、また一枚と俺の魔法障壁が破られていく。

 残り数枚しかない魔法障壁を両手で抑えながら、竜巻を押し返そうと前へ、前へと進む。

 

「ふんぎぎぎぎ!!!」


 俺は歯を食いしばって、粘って粘って抑え込む。

 が、俺の魔法障壁は後一枚になっていた。

 このままじゃ抑え込めない。


「くっそ! はぁぁぁぁ!」


 叫んだ俺の前に巨大な魔法障壁が現れる。

 それは巨大な水の竜巻を吹き飛ばし、何もなかったかのように、辺りは静寂になる。


「な! 私の水刀風龍(アクアトルネード)が!?」


「な、なんだ?」


「お前らは俺の家を潰す気か! 加減を知れ! 加減を!」


 怒号が響いた。 

 恐る恐る声のする方へ顔を向けると、そこには般若の顔をしたサンが居た。


「何をしていたかは大体想像できるが、ここまでの魔法を使うなら、街の外でやれ!」


「「ごめんなさい……」」


「分かればいい。それより、明日には魔物の軍勢がガルガンチュアから確認できる距離まで接近する。お前らガルガンチュアの主都に行って装備を新調してこい」


「あの、俺達お金が……」


「これを使え」


 そう言ってサンは袋を投げた。

 俺はそれを受け取った。おっも……。


「その中には白金貨が五十枚入っている。それだけあれば十分だろう」


「「「ありがとうございます!」」」


 

 という訳で、俺達はガルガンチュアの主都へ向かう。

 この国は主に三つの地域に分かれている。

 一つは国の一番外側を円状に広がる冒険者区画。

 ここにはギルドや、宿、質は良くはないが武器防具屋、冒険者にはほぼ必須な回復薬などを売る雑貨屋など、冒険者には欠かせない施設がそこら中にある区画だ。

 ちなみにサンの家もこの区画にある。


 二つ目は聖騎士や、貴族が住まう区画。

 ここはほぼ住宅地のような場所だ。

 主都をぐるりと囲って守るかのように広がる区画でもある。

 まぁ聖騎士はほぼ主都にある城に滞在する為、聖騎士達の家族が住む区画化しているらしい。

 

 三つめは主都でもある王族区画。

 外側にある二つの区画に守られるように君臨するこの主都は、今まで攻め込まれたことは無いらしい。

 ここには国の重要な施設が多くある。

 王族が居るであろう城は勿論、聖騎士や宮廷魔術師の演習場、国で一番質の良い武器防具屋などもここにある。

 この主都に入れるのは、一部の人間だけらしい。

 何故かサンやジャックは入れるようだ。二人のおかげで俺らは簡単に入ることができた。

 そんな場所であるから、中に居るのは金持ちか、有名人、又は国の重要人物ばかりである。

 まぁ何が言いたいかと言うと、そんな人間が買い物をする場所なわけで、物価が馬鹿みたいに高い。

 サンに金を貰わなかったら何も買えないのだ。


「相変わらず、ここに来ると金銭感覚が狂いそうです……」


「ほんとだよ……」


「二人はここに来たことがあるのか?」


「はい。私達はサンさんに連れられて、この区画で聖騎士や宮廷魔術師と修行してました」


「なるほど」


 ユミリナ達はこの区画で買い物できるように、サンからお金を渡されていたらしい。

 おかげで生活には困らなかったんだとか。

 そのうえ俺まで養うとか……。凄い奴だ。


「ハルト君はその剣変えちゃうんですか?」


「いや、剣は天日のままにしようと思うんだ。防具だけちょこっとね」


「私は全部変えたいかなぁ。流石にBランクの時のままの装備はね……」


「私も杖を買い替えたいですね。服ももう少し動きやすいのも欲しいですし」


「あ! 私も!」


 そんな雑談をしていたら武器屋に着いた。

 流石主都と言うべきなのだろう。外観から冒険者区画の店と違った。

 入口の扉には『少しの間だけ再開します!』と書かれた紙が貼ってあった。

 中に入っても品揃えが雲泥の差だった。


「これは凄いな。どれも凄そうな武器ばっかだ」


「少し悩みますねこれは」


「わぁぁ! どれも名剣ばかりだよ! 凄い……!」


 ユミリナが頭を抱え、エルンは嬉々とした目で壁に掛かった剣を眺めていた。


 この店には防具まで置いてあった。品数は多いわけではないが、籠手やプレートアーマーなどの冒険者御用達の防具が沢山置いてあった。


「どれがいいんだろ……」


「お悩みですか?」

「私達が見繕ってあげるわよ!」


 店の奥から声がした。

 そして、奥から腕を組んだ男と女が出てきて、俺に向けて微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ