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第1章 第21話 久しぶりらしいです…


 魔物の咆哮と思わしき啼き声が聞こえてから、サンとジャックは忙しそうにしていた。

 あれ以来、ガルガンチュアの周りには魔物が居なくなったらしい。

 サンが言うには、身の危険を感じれば住処を離れるのが、全ての魔物に共通する習性らしい。

 このままじゃここら一帯の生態系が変わるとかで、あの手この手を尽くしていた。

 俺はできる事が無い為、一人で演習場で剣を振っていた。


 俺はあれから魔装の出力限界値をひたすら引き上げていた。

 修行中にまた新たに分かった事があった。

 魔装の練度が上がる度に使える魔法のレパートリーが増えていた。

 現在使える魔法は火系統が三つ、魔装改、隕石(メテオ)、そして何故か雷魔法が一つ使えるようになった。

 火系統で現在一番高火力なのは、新しい魔法の壊炎(ブレイクマグナ)だ。

 炎弾(フレイムボール)の完全上位互換で、かつ広範囲型の魔法だ。

 隕石(メテオ)は相変わらずのぶっ壊れ魔法だけど、使用禁止になってるから放置。

 そして雷魔法、こいつが凄かった。

 俺が覚えた雷魔法は雷帝剣(ライトニングブレード)だ。名前の通り、雷で形成された剣をそのまま装備するんだが、大きさを自由に変える事が可能だった。

 二刀流なんてカッコいい事までできる。少し嬉しいのはここだけの話だ。


「魔装! 雷帝剣(ライトニングブレード)!」


 今は二刀流で戦う修行をしている。

 魔装した事で身体能力が上がったおかげでできる芸当だった。 

 多分魔装無しならできない。普通に無理。

 ただ、この二つの魔法を併用して使うと、目眩がするようになった。

 

「ふっ! はっ! せい!」


 二刀流の剣技は想像より難しいものだった。

 そこに魔法まで加えたら、もう手が回らない。

 

「ふぅ……。魔素の消費が思ったより早いな。もって五分くらいか?」


 魔装と二刀流を同時使用は強力な分、リスクも伴う。

 常に剣の状態を維持し続けるのは、至難の業だった。

 魔素を常に消費し続ける魔装と雷帝剣(ライトニングブレード)は、他の魔法に比べて魔素の消費が多い。

 その為、この二つの同時使用は体への負担が大きかった。


「はぁ……はぁ……魔素が切れそうだな」


 俺は全ての魔法を解除する。

 どっと疲れが体にくる。魔素が枯渇しているらしい。

 深呼吸して、その場に座る。そのまま寝転んだら、空は曇り空でテンションが下がる。

 もうすぐ沢山の人が死ぬかもしれない戦いが始まる。

 相手は一つの国を潰せるほどの戦力を保持している。俺らは一人で三人分位の強さが必要になる。


「まぁ俺は魔装も雷帝剣(ライトニングブレード)もあるし、何とかなるか」


「余裕がある時こそ気を引き締めないと、足元をすくわれますよ?」


「まぁハルトだし、本当に何とかしそうだよね」


 声がする方へ顔を向ける。少し泣きそうになった。

 俺が一番大切に思う人達がそこに居る。守ると誓った人達がそこに居た。


「――エルン! ユミリナ!」


「久しぶりですね、ハルト君」


「ひ、久しぶり! ハルト!」


 久しぶりに聞いた二人の声は優しいものだった。

 相変わらず、綺麗な顔をした二人だ。しばらく会えなかった分、さらに綺麗に見える。 

 もはや女神だよ。美しい……。


「何気持ち悪い顔してるの? それより、ハルトはどれくらい強くなったの?」


「一回手合わせしてみるか? 手加減もするぞ?」


「手加減なんていらないよ! 私だって強くなったんだから!」


 そう言ってエルンは腰の剣を抜いた。

 俺もそれに合わせて剣を抜く。刃は落としてないが、寸止めすればいいだろう。

 

「いくよ!」


「おう! こい!」


 エルンが踏み込んで、斬りかかってくる。

 俺はそれをしゃがんで躱し、下から上に剣を滑らす。

 エルンはそれを見越してか、上体を反らしており俺の剣は空を斬る。


「まだまだ!」


 エルンはそう叫び、俺に向かって剣を投げる。

 俺はそれを体を捻って躱し、前を向く。が、そこにエルンの姿は無かった。

 

「戦闘中は敵から目を逸らすな。戦闘の基本だよ?」


 後ろからエルンが姿を現し、いつの間にか自分の剣を握った右手を横に薙ぎ払う。 

 俺は咄嗟に雷帝剣(ライトニングブレード)を生成し、その雷の剣で受ける。

 だが、体制的に不利な俺は勢いに負け、数メートルほど地面を転がった。


「いっつ……。凄い速度とパワーだな……」


「まだまだ本気じゃないよ? ハルトもまだ様子見って感じでしょ?」


「はは。ばれてらぁ」


「ここからは……」


「あぁ。お互いに本気でいこう」


 今度は俺から斬りかかる。先の速度とは段違いの速度でだ。

 修行の成果か分からないが、魔装無しでも目で追うことは不可能な速度での移動はできるようになった。

 魔装なんてして本気出したら、最近は音速を超えてしまう。

 音速とまではいかないが、それでも目で追えない速度で移動する俺に、平然と付いてくるエルンを見る限り、相当修行を積んだことが分かる。


 俺の剣を自分の剣で受け止めたまま、エルンは蹴りを繰り出す。

 蹴りをもろに腹に喰らった俺は、腹を抑えながら一歩後退る。

 エルンは蹴りを繰り出した足を戻すことなく、ドヤ顔をして俺の方を見ていた。


「どう? 私も成長したんだよ! ガルガンチュア聖騎士団の中では『赤髪の戦姫』って言われてるんだから!」


「エルンも二つ名持ちかよ……。馬鹿にされるのもあれだからな。じゃ俺の底力、見せてやるよ」


 俺は体中の魔素に魔装のイメージを加える。

 魔素が魔力に変わったタイミングで魔法を唱えた。

 俺の体に青を基調とし、黒のラインの入った鎧が体を包み込む。


「これが俺の奥の手、魔装だ」


「なにその魔法! また作ったの? ねぇ、私達自重してって言ったよね?」


「いや、この魔法はただの身体強化魔法だから! ちょっと体のリミッターが外れすぎるくらいで……」


「はぁ……。まぁいいわ、それじゃ再開するよ」


 次の瞬間エルンは姿を消し、ハルトの隙を伺う。


 とかいうのは俺にはバレバレだった。

 最早、魔装した俺にはエルンの動きは手に取るように分かる。

 魔装の身体強化は俺の想像より凄いものだ。某特撮ヒーローに是非勧めたい。悪の軍団なんて木っ端微塵になるよ!


「隙あり!」


 俺の後方から剣を振り下ろすエルン。

 その動きすら、目で余裕で追える俺はエルンの剣が届く前に前方に転がった。 

 避けられると思ってなかったのか、エルンが驚いた顔をしている。

 少し面白かった……。


「やっぱりその魔法唱えてから、おかしいくらい強いじゃない! なんでそう、常識とかけ離れた魔法を作るのよ!」


「いや、今まで思いつかなかった魔法使いがおかしいんだって! 魔装なんて鎧を装備しない魔法使いからしたら、喉から手が出るほど欲しい魔法だろ!」


「その発想力だけは世界一よね……。このままやっても私負けそうだし、次の一撃で終わりにしましょう」


「そうだな。手加減はしないぞ?」


「上等!! 加速(ブースト)!」 


「それ使えんのかよ!」


 エルンの速度がこれでもかってくらい跳ね上がる。

 凄い。ほんの数週間でここまで強くなるものなのか。

 俺の成長速度も異常ってよく言われるけど、エルンもそうだよな。

 ほんと……心強い仲間だ。失いたくない。

 ――――絶対に護りぬきたい。


「「はぁぁぁぁぁ!」」


 俺とエルンの剣が、叫びが、気迫が、気持ちが交差する。

 お互いがお互いを想い、守りたいと願う気持ちが、願いが交差する。


 剣が地面に転がる乾いた音が演習場に響く。

 それと同時にエルンが膝をついて、俺に寄り掛かる。

 俺はそれを優しく受け止めた。


「強いね、ハルトは」


「これでもまだまだだよ。もっと強くなりたいんだ」


「私達の為に?」


「なっ! そんな……訳じゃ……ないこともないけど……」


 俺は何だか恥ずかしくなって顔を逸らした。


「二人とも凄い強くなったんですね。後半は目で追うのが大変でしたよ」


 ユミリナがそう言いながら、俺達の元へ歩み寄る。


「魔装が無かったら、俺の負けだったかもな」


「でも、それ含めてハルトの実力だよ」


「そうですよ、ハルト君」


「そりゃどうも」


 そんな話をしている間、ユミリナはずっとそわそわしていた。

 なんだか気になる。


「ユミリナどうした? ずっとそわそわして」


「い、いえ……。ちょっとだけ私も手合わせしてみたいなぁなんて」


「何だそんな事か。いいぞ、ちょっとだけな?」


「はい!」


 そう言って俺とユミリナは、向かい合った。




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