第1章 第20話 それぞれの思惑らしいです…
魔法の国マーリンを潰した奴らには心当たりしかない。
絶対と言っていいだろう。
間違いなく神の一派だという事は分かる。
「ハルト、心当たりがあるのか? サンも何か知っているようだが……」
「うん。多分俺らが今戦っている相手だ」
「戦っている相手? どういう事だ。説明しろ」
俺はジャックにこの世界に起こっている危機について説明した。
ジャックは驚いたり、深刻そうな顔をしたりで忙しそうだった。
「なんだ? その神って奴らを皆殺しにすればいいのか?」
「邪神側の神は殺しても問題はないそうです。ただ、まだ敵の戦力が未知数です」
「なるほどな。早急にアステリズムのメンバーを集める必要があるな」
「行方不明の団員がいるんじゃないんですか?」
「まぁ行方不明といっても大体の居場所の見当は付く。マルガレータに向かってもらおう」
マルガレータはとても嫌そうな顔をしていた。
嫌そうな顔のまま溜め息をついて、「分かったわ」と了解していた。
「それより、今魔物の集団の進行方向に問題があるんだ」
「どういうことだ? お前がガルガンチュアに来て、しかも俺を尋ねてきた時点で察しはつくが」
サンはその問題とやらが分かったらしい。
俺はいつまでも分からず、ただ話を聞いておくしかできなかった。
「魔物達の進行方向から次の襲撃地を予測した」
そこでジャックは一呼吸置いた。
俺もここまで聞いて、やっとこれから何を言われるか察しがついた。
おそらく次の予想される襲撃地は……。
「次の襲撃地はここ。剣の王国ガルガンチュアだ」
「今から皆を集めて間に合うか? 他にも冒険者に有志を募る必要もあるぞ」
「あぁ。敵はあのマーリンを滅ぼすほどの軍勢だ。アステリズムのメンバーだけではおそらく間に合わない」
「じゃあ……。あぁお前の事だからもう集めているのか」
それを聞いたジャックは嬉しそうな、そんな表情で頷いた。
サンはさも当然のように頷いた後、笑っていた。
そこには信頼し合った仲間の姿があった。
「相変わらず俺の行動は筒抜けだな。言う通りもう有志は募ってある。後は馬鹿な仲間たちを集めるだけだ」
「まぁそれも勝手に集まるだろ。問題は敵に神がいることだな。ハルトは何か知っている事はあるのか?」
サンが俺に聞いてくる。
「さっき話した事が俺が知る全てだ。他には特に何も知らない」
「そうか……。前戦った奴は弱かったが、推定Aランク相当の強さはあった。Bより下のランクはおそらく瞬殺される」
「それなら俺らは神と思わしき奴を相手するか。それで問題ないか? ハルト」
「多分大丈夫だと思います」
ジャック達アステリズムのメンバーが神と思わしき奴らを相手にする方向で話はまとまった。
あの人間離れした強さを持つこの人達なら負ける事はないだろう。
「ハルト、お前は今回魔物の相手をしろ。お前に神はまだ荷が重い」
「なんでだよ! 俺は前よりもかなり強くなった! 今ならあいつらくらい簡単に殺れる!」
「ダメだ。今回は魔物以外に手を出すことは禁止する。これは師匠命令だ」
「分かった……」
俺はサンの意図が分からないまま渋々了解した。
――――この時気づけていればあんなことには繋がらなかったかもしれない。
俺は魔物の集団が到着するまで必死に修行した。
まだ俺は神と戦う事は諦めていない。
この修行で俺はサンに神と戦う事を認めてもらおうと必死だった。
「魔装!」
「その魔法もだいぶ安定してきたな」
サンの言う通り、魔装の出力が安定してきた。
ジャックとの試合以降、魔装が安定しなかった。
ジャック曰く新しい魔装が体に馴染んでないとかどうとか……。
「ジャックは俺の強化した魔装を使っても勝てなかった」
「あいつは勝つとか負けるとかの段階に居る人間じゃ勝てないよ。俺も未だに勝った事はない」
「サンでも勝てないのか。ジャックって一体何者なんだ?」
「あいつは人類最強の人間だ。俺はあいつと出会ってから今まで、あいつが膝を折られた所を見た事がない。二年前、ある国同士が戦争をした時、俺らは片方の国から依頼を受けて戦場に向かった事があるんだ」
「それは戦争として良いのか?」
「名目は援軍だったから問題はなかった。問題はその後だな。まずあの馬鹿は一人で万を超える大軍を、魔法一発で壊滅させやがった」
「魔法一発!?」
どんな魔法を使えば、万を超える軍を壊滅させられるんだ?
俺のメテオを使っても、一発は無理だ。絶対。
「魔法だけじゃない。あいつは全てにおいて、人類最強だ。あいつが何かで負ける様子は想像できない」
「うわぁ……」
「しかもあれで発言力も権力もあるからな。軍を壊滅させた後、まさかの援軍として向かった国の方の騎士団団長を断罪するとは……。思い出しただけで胃が痛い……」
「そんな事があったのか?」
ジャックさん……。あんた何してんだよ……。 っと心の中で言っておいた。
「まぁあの時は自分の軍を放棄して、馬鹿な事をした団長も悪いんだがな」
「なるほど……」
「話はこれで終わりだ。修行を再開するぞ。もうすぐお前の仲間も帰ってくるしな」
「え!? それは本当か!?」
俺は思わず食い気味に聞き返してしまった。
サンは若干引き気味に答える。
「あ、あぁ。もうあいつらの修行も終わった頃だろう。今回の襲撃に合わせて招集する予定だ」
「そうか……! あいつら強くなったかな」
「お前より強いんじゃないか?」
「え! サン! 早く再開するぞ!」
「ははは、分かりやすいやつだなぁ」
俺達は修行を再開した。
二人を守るのは俺だ。
誰よりも、何よりも強くなって見せる!
「これだけの魔物を従えるなんて流石っすね」
「上級神にもなればこれくらい当たり前だ。ですよね? ゼルドス様」
そこには推定十万を超える魔物の軍勢と、それを従える三体の神の姿があった。
魔物の中には、魔人もいる。それがただの魔物の集団ではないことなど火を見るよりも明らかだった。
そしてその軍勢の中でも一際存在感を放つその男は答える。
「この程度造作もない。我は五代目神界最高神になる神だぞ?」
「流石です。ゼルドス様」
そう答えるのは、左右で色の違う目を持つ中級神であるエレボススだ。
彼はゼルドスとは古くからの付き合いだ。彼の手腕によってゼルドスが上級神になったと言っても過言ではない。
それほどこの男は優秀なのだ。戦闘力さえあれば、上級神でもおかしくはない。
その残酷で容赦のない采配に敵う者はそういない。
「ガルガンチュアに人類の希望とか言われている人間もいるんすよね。楽しみだなぁ!」
顔を嬉々として話すのは、三人の神の中でも一番小柄な神、中級神タナトルムだ。
彼は神の中でも戦闘が狂うほど大好きだ。
常に自分を殺せる者を探している。
彼も戦闘力だけなら上級神になれるのだが、エレボススとは逆に、知能がなかった。
故に中級神のままなのだ。
「このままガルガンチュアに進軍だ。人類の希望などと言われておる輩が居るのは好都合。まとめて殺ってしまおう」
「ゼルドス様が直々に相手をなさるのですか?」
「えぇぇ! 俺は戦えないんすか?」
「安心しろ。タナトルムはあの忌まわしき転生者を殺るといい。存分に戦ってこい」
「では、このままガルガンチュアに進軍します」
そう返事したエレボススは魔物に何かを叫ぶ。と同時に、魔物が咆哮をあげる。
咆哮は、世界中に響き渡るほどだった。
辺りの動物は驚き、ショックで死ぬ。
手練れの冒険者は何か異変を感じ取る。
世界を放浪する二人の強者はその歩を早める。
自らの成長を確信し、愛する男の元へ向かう女は胸を躍らせる。
愛する者が守ろうとした物を守ると決めた女は覚悟を決める。
仲間を守るため、貪欲に強さを求める男は剣を振り続ける。
最終回前みたいな展開になりそうですが、まだまだ余裕で続きます。




