第1章 第2話 クエストに行くらしいです…
「はい。これで登録は完了です。本日からカンダガワ・ハルト様は冒険者となります。ランクはDランクからのスタートとなります。クエストはあちらのボードから探されて、気になるクエストがあれば教えてください」
「はい。ありがとうございます」
「それでは、これからのハルト様の御活躍を期待しております」
これで俺は冒険者になる事ができた。クエストを受ける前に装備とかを整えなくちゃいけないよなぁ。流石に生身は自殺な気がするぞ……。
「なぁエルン、武器ってやっぱ揃えた方がいいよな?」
「何言ってるの? 当たり前じゃない。採取系のクエストでも安全ってわけじゃないのよ? 周りには魔物がいることだってあるんだから」
「やっばそうだよなぁ。うーーん……」
『お困りの用ですね。助けましょうか?』
「うわっ! びっくりした。毎度毎度驚かすなよ」
ポケットの中で例の石が光っている。なんだかんだで助けてくれるんだなこいつ。
「なぁ俺って向こうの世界じゃ料理くらいしかしてこなかったわけでさ、武器の使い方とかてんで分からないわけよ」
『はぁ……』
なんだよこいつ。溜息なんかつきやがって。しょうがないだろ。馬鹿にしやがって!
『すいません。馬鹿にしたわけではないのですよ?』
「ヒトノココロヲヨマナイデネ……」
『それはそうと、貴方武器とか揃えなくてもそこそこ生身で戦えますよ。多分そこら辺の冒険者よりは確実に強いかと。本気出せばSSランクも目指せますよ?』
「それはそこそこって言うんですかね……」
『まぁ全て私の親切心なので感謝してくださいね』
「へいへい。そりゃどーも」
にしても、俺は今そんなに強いのか。試してみたいな……。ん?? なんか周りの人の目が俺に刺さってるぞ? どうした?
「なぁハルト?」
「ん? どうしたエルン。てかそれより皆の目線が冷たいんだがなんでだ?」
「いや貴方さっきから誰と話してるの?」
「へ?」
『すいません。私の声は貴方にしか聞こえないって言い忘れてました』
最悪だ……じゃあなんだ? さっきから俺はただの光る石に向かって話しかけてるって周りの人からは認識されてるのか。うわぁ痛い人だ。ぜひ関わりたくないね! あ、俺のことか……
「と、とりあえず! クエスト何か受けようぜエルン」
「は、はぁ。分かったわよ。装備は後で揃えたらいいか……」
クエストボードを二人で眺めてみる。
ほうほう。それぞれのランクで受けられるクエストは変わってくるのか。Dランクは採取や小型魔獣の討伐が主な内容だな。まぁ手頃なやつでいいか……
「ねぇねぇ! ハルト! これなんてどう? クエストランクはCだけどDランク冒険者も受けれるわよ!」
「ん? なになに? ベビーリザードマンの討伐、素材採取か。ベビーリザードマンの皮を10枚程度か……ん〜まぁギリギリいけそうかな? 正直戦闘するのは初めてなんだけど……」
「大丈夫よ! 私がついてるし。じゃ早速受けましょ! すいませーん!」
「はーーい! ベビーリザードマンの討伐、素材採取クエストですね。はいクエスト受付が終わりました。頑張ってくださいね!」
とまぁてなわけで、ベビーリザードマンの討伐クエストを受けたわけですよ。なのになんだろね。
いざ出発前になると少しビビるんですけどね! まぁ異世界初の魔物と対面なわけで、怖いよね普通!
「結局武器はショートブレードにしたのね」
「ガントレットと少し悩んだんだけどね。やっぱ男の夢としては剣を使ってみたいわけで…」
「まぁ最初は剣の方がいいかもね」
生身でも戦えるって言ったって相手は得体のしれない生物だからな。備えあればなんとやらだ。
「それより、ベビーリザードマンって強いの?」
「はぁ? 貴方そんな事も知らないでクエスト受けたの? ベビーリザードマンはリザードマンの子供の個体よ。特に強くもないわ。まぁ大体の強さはゴブリンとかと大差ないわ。Dランクのハルトでも問題なく狩れると思うわよ」
「そっか。まぁ戦闘の練習にはちょうどいいか」
最悪エルンの手も借りるけどな。死にたくはないし……
「それじゃ行きましょ。きちんとはぐれないようについて来てね……って聞いてるのハルト?」
「ん? あぁ……ごめんごめん。聞いてたよちゃんと! うん!」
「本当に? まぁいいわ。えーっと、確かトレファスから西に行った所のキンディ大樹林ね。急げばすぐか。行くよハルト!」
「あいよー」
よし。俺にとっては初めてのクエストだ。気を引き締めて挑むぞ……!!
トレファスからキンディ大樹林までは1時間くらいで着いた。いやまじ疲れた。遠すぎだろこれは……!そうか向こうでは電車とか自転車とかあったからこのくらいの距離気にならなかったけど、徒歩だとこんなにきついのか……。
「何へたれてんのよ……。これからベビーリザードマンを狩るのよ? 体力もつの?」
「うるさいなぁ。俺はインドア派なんだよ。少し休ませてくれ」
「いんどあ……?なにそれ?まぁいいわ。そうね私も疲れたし少し休みましょう」
その言葉を聞いて俺は近くの木に寄りかかる。はぁ……水がこんなに美味しいのは初めてだよ……。
「ところで私貴方のこと名前くらいしか知らないんだけど貴方どこの出身なの?」
「ここからはとても遠い所だよ。多分歩いて行けるような距離じゃない事は確かだよ」
「ここから歩いて無理って事はルーパラ辺りかしら?」
「あ〜うん。多分その辺だよ」
「へぇ。私は産まれも育ちもトレファスだからあまり他の国に行った事ないんだよね……。クエストで少し遠征したりはするけど」
「そっか。そのうち他の国にも行ってみたいな。まとまった資金ができたら世界巡りでもしてみるか……」
「なにそれ楽しそう! 行くときは私にも声かけてよね! 一緒に行くわ!」
「うん。それもたのし……。ちょっと何か聞こえないか?」
辺りからは何かが草の上を歩く音と、荒い息遣いが聞こえる。エルンが辺りに注意を払う。俺も一応戦闘態勢に切り替える。
「多分魔物ね。じっくり相手の出方を伺う辺りゴブリンかしら」
「どうする? 戦うのか?」
「逃げるのも手だけど、貴方魔物と戦うのは初めてなんでしょ? 少しは経験を積んだ方がいいわ。私がサポートはするから少し肩慣らししておきましょう」
「了解」
俺たちが意見をまとめた直後にタイミングよく魔物の群れが目の前に飛び出して来た。確かゴブリンは数体の群れで狩りをするんだったな。俺たちの周りを手際よく囲うのもその習性か……。
「ハルト、相手は魔物。手加減はいらないわ。思いっきりやっちゃって!」
「やっちゃってってお前なぁ……。まぁいい。サポートは任せるぞ!」
「当たり前よ! 背中は任せなさい!」
その言葉を聞いて俺は遠慮なくゴブリンの群れに飛び込む。目の前のゴブリンに向けて俺はショートソードを叩き込む。
「グ、グガァ!?」
「お、案外あっさり倒れたな。まぁランク的にはDかせいぜいCなんだろうし、こんなもんか」
「ハルト! 油断しない! 数はざっと見て30体前後よ。いつも見る群れより数が多い気がするわ。近くに大頭がいるかも知れないわ。気をつけて!」
「了解!」
俺はまた近くのゴブリンをショートソードで斬ろうとしたら盾で塞がれた。そうか、こいつら知能はあるんだったか。
「くっ。にしても数が多いな」
着実に一体ずつ狩っていくが、それでもこの数だ。2人対30体じゃ少しきついな。
「っらぁ!! 貴方達なんて私の相手じゃないのよ!」
ははっ。そんな事無いかもしれない。もの凄い勢いでエルンがゴブリンを狩っていく。よくあんな短いナイフで狩れるよなぁ……。刃渡り十五センチもないだろ……。
エルンはゴブリンの腕を裂いて無力化し、すぐさま首をナイフで裂く。簡単な作業のようだが、動く相手にこれをやるとなるとそれなりの技術やセンスが必要だ。
それを平然とやってのけるエルンは流石Bランクと言ったところか。
「俺も負けてられないなっと!」
ふぅ。これで8体目か。エルンの周りにゃ15体くらいは転がってんな。いやぁ流石に経験の差かなぁ。勝てる気がしないぜ!
「っと……。危ないなぁ。ゴブリン相手でも油断はできないなやっぱ」
後ろから振りかぶられた棍棒をギリギリで躱して、カウンターの一閃をゴブリンの首にお見舞いしてやる。
「ハルト……来るわよ」
「……?来るって何が?」
「こいつらの親玉。大頭よ。」
森の奥から今までのゴブリンの2倍はあるだろう。巨大な体を動かしながら棍棒を肩に担いだゴブリンが出てきた。
「オマエらか?オレの群れヲ潰したヤツらは」
こいつ……! 喋れるのかよ! てかデカすぎだろ。近くで見るとさらに大きい。ベビーリザードマンの討伐に来たのにヤバいやつと出くわしたなこれは。それより、俺に攻撃仕掛けたおまえの仲間を怒れよな。
「ハルト、こいつはBランクのモンスターよ。まだ貴方には荷が重いわ。私がこいつを倒すからそこで見ときなさい」
エルンはそう言ってナイフを構え直した。