第1章 第19話 昇格試験(後編)らしいです…
これで残すのは後一人となった。
No1は倒したし、もう終わりでもいい気がするけど……。
リュシドールより強い剣闘士がこの闘技場に居るとは思えない。唯一あるとすれば、控室にいた仮面の男くらいだろう。
あの控室に居た剣闘士の中で一番ヤバそうなのはあいつだった。
ラストが仮面の男なら最初から本気でやる必要がありそうだ。
「遂に最後の一人になってしまったぁ! この激闘の戦いも終わりを迎えるぞぉ! 最後の相手はこの男! 素性を知る者は一人もいない! 名前すらも分からない! 『仮面の男』だぁぁ!!」
「マジであいつかよ……。最初から魔装していくしかないか」
仮面の男は堂々と通路を歩き、舞台に上がる。
その立ち姿は先ほどのリュシドールとはまた違う、何か冷たい殺気が俺の体を撫でるようにぶつかる。
武器は剣一本。防具も何も着けていない。
魔装して勝てるだろうか……。
「それでは、始め!」
今まで無かったはずの実況の始めの合図と同時に俺は魔装をする。
体の魔素が魔力に変わり、体に纏う鎧を形作る。それは俺のイメージと同じ鎧へと変化する。
「いくぞ?」
男は返事をしない。
俺はそんな態度にイラつきながら、斬りかかる。
俺の剣は天を舞っていた。
「なっ!?」
「遅いな」
男が俺が目視できる速度を超えた速さの剣技で攻めてくる。
俺は魔法障壁を作り、受け止めようと試みるが数発受けると割れてしまう。
避ける事もできず、体を小さくし致命傷を避けるしかなかった。
「この程度か? 俺の知るSランクの猛者共はもっと強かったぞ」
「なんで……。サンより速く動ける人間がこの世に……」
「あーそうか。お前はサンの弟子になったんだったか」
「え?」
「話はこの戦いの後だ。お前が勝てば疑問に答えてやろう」
そう言って男は足下に転がる俺の剣を手に取り、俺に投げつける。
俺は魔装に流し込む魔素量を気絶ギリギリまで増やす。これで前よりさらに速くなった。
全力で地面を蹴って、男に斬りかかる。
俺の剣は天を舞うことなく、男の元に届く。
力押しで吹っ飛ばそうとするが、男はピクリとも動かない。
「速度で敵わないなら、力か。サンの教えは守れているようだな」
「お前は誰なんだよ! なんでサンの教えにまで詳しい!?」
男は俺の質問には答えずに、剣に込める力を強める。
負けじと俺も力を込めた。それでも少し押され気味になる。
「もう少しできるかと期待したがこの程度か」
「黙れぇぇぇ!!」
俺が横に薙ぎ払った剣を宙返りで避け、空中に居る状態でカウンターを返してくる。
俺はそれを剣の腹で受け止め、そのまま力任せに剣を振る。
俺が振った剣は虚しくも空を切り、男は何もなかったかのように着地する。
その後も俺の剣は男に当たることなく、無駄に体力だけを削られる結果となった。
「はぁ……はぁ……当たんねぇ……」
「お前は魔装の速度とパワーに頼りすぎだ。お前の力に魔装の力を足し算するのではない。お前に魔装の力を掛け算するんだ」
「掛け算? 何だよそれ」
「魔装を解いた状態で一度かかってこい。お前は魔装無しでも、それと同等の速度とパワーは出せるはずだ」
「分かった」
俺は魔装を一度解いてみる。体に満ちていた力が一瞬で無くなるのを感じる。
この状態でやり合える気がしないが、一応剣を構える。
そして、思いっ切り距離を詰め剣を振る。
男はそれを剣で受け止めたが、若干苦しそうな声を出した。
「やはりな」
「どういうことだよ」
「お前は魔装をしていた間に、魔装をした状態の速さとパワーが体に染みついてんだ。その魔装はまだ不完全だろ? おそらく出力を上げすぎるとお前自身がもたない」
「その通りだ」
「ならお前自身の限界値を上げてやればいい。お前は体に染みついた事に全く気付かずに魔装をしてセーブをかけていた。今ならさらに出力を上げられるはずだ」
「はぁぁぁ!! 魔装!!」
俺の体に鎧が纏われる。今までの魔装と何故かデザインが変わっていた。
青をベースに黒と白のラインが入った前よりカッコいいデザインになっていた。
「これは……」
「魔装改だな」
「安直な名前ですね」
「……。それは置いといてだな。早速試してみるか?」
「当たり前だ!」
俺は出力を上げ続ける。俺の魔装はそれに応えるかのように全身に力を満たしてくれる。
「いくぞ!」
「こい!」
俺は地面を蹴り、斬りかかる。
蹴った地面が軽いクレーターになっていた事はこの際言うまい。
俺と男の剣がぶつかり、火花を散らす。
男の剣がぽきりと折れた。
「あ、折れた」
「ご、ごめん。まさか折れるとは」
「いやいいぞ。これは俺の剣じゃない」
「え?」
そう言って男は観客席に向かって手を上げた。
観客席の方からは、一本剣が飛んでくる。
男はそれを受け取り、剣を抜く。
その剣は白く光り、見るだけでただの剣ではないことが分かる。
「その剣は?」
「この剣は魔剣 天満月だ」
「魔剣……」
男は剣を再度構える。
俺はそれを再開の合図と取った。
俺はもう一度全力で斬りかかる。ここまでは先ほどと同じだ。
先ほどと決定的に違ったのはここからだった。
俺は押し負けたのだ。進化した魔装を纏った状態の俺のパワーは剣を変えた程度であっさり負けた。
「少しだけ、SSランクの世界を見せてやろう」
「SSランク!?」
次の瞬間、俺の剣は宙を舞い、俺は地面に倒れていた。
俺には男の動きは全く見えず、しかも倒された事にすら気づかなかった。
「……っ! いつの間に!」
「これがSSランクの世界だ。サンも本気出せばこれくらいは造作もないぞ」
「そんな……」
「とりあえずお前の負けだ」
男は俺に抗議する間も与えず、実況に勝負がついた事を伝えた。
「長い激闘を制したのは『仮面の男』だぁぁぁぁ!!!」
闘技場内が歓声に包まれる。
今の勝負に興奮を覚えた者の声や、俺を労う声もある。
「まぁお前はよくやったよ。褒美だ、質問に答えてやろう」
「まずお前は何者だ?」
「それはここでは言えない。そうだ、サンの家に行こう」
「分かった」
俺は仮面の男と共に闘技場を後にし、サンの家に向かった。
昇格試験の結果は後日伝えられるらしい。最低でもAランクまで上がればいいが……。
「着いたぞ」
俺はサンの家の扉を叩く。
奥からドタバタ音がした後静かになった。
――寝てたな……あの人……。
「おぉ! ハルトか! 結果は……の前に何故お前がここにいるジャックとマルガレータ」
「え? 二人?」
俺が振り返ると仮面を取った男と、綺麗な女性が立っていた。
おそらく魔剣を観客席から投げたのもこの人だろう。
それより、いつから後ろに居たんだ? 全く気が付かなかった。
「いやぁまぁ色々あってね。それよりハルト君自己紹介がまだだったね。俺はSSランク冒険者パーティー『アステリズム』のリーダーのジャックだ」
「私は『アステリズム』の副リーダーのマルガレータよ」
「ちなみに俺も『アステリズム』の一員だ」
話を聞くと三人は昔からのパーティーらしい。
巷では人類の希望とまで言われているそうだ。
他にも三人団員が居たそうだが、一人は引退し、もう二人は行方不明らしい。
「二人には二つ名とかあるんですか?」
「あぁあるぞ。俺は『天才奇人』だったな。マルガレータは『聖母』だったか」
「天才奇人って……」
「何哀れんだ目をしてるんだ」
ジャックは俺の頭にチョップを入れた。
結構痛い。
「それより急にどうしたんだ? 何か用か?」
「あぁ、先日魔物の集団に国が一つ潰されたのは聞いたか?」
「確か、魔法の国マーリンだったか」
「あぁそうだ。その件についてなんだが、魔物を率いていたのが魔人と、白い羽根を背中に生やした見た事のない生物だったらしい」
「ハルト! それって!」
白い羽根を背中に生やして生物なんてこの世にあいつらしかいない。
俺が倒すべき相手達だ。
「あぁ、間違いない。ウラエラスの仲間だ」
俺は皆を見渡して頷いた。
戦闘シーンって書くの難しい。
なんか同じ事ずっと書いている気がする。
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