第1章 第15話 魔装!らしいです…
『よぉ、無様な戦いだったな』
俺はまたあの白い世界に来ていた。アポロ二ウスがやれやれといった感じで話している。姿は見えないけどね!
それより開口一番にディスんなよ。相手が神なら仕方のない戦いだったろ。
『まぁ……なんだ、あいつは中級神だったから今のお前じゃ負けて当たり前かもな』
うるさいな! 隕石を防がれた時点で勝ち目は無かったんだよ。
『あの魔法は威力はあるが、発動までが長すぎるし、燃費が悪い。もう使うな』
あの魔法使用禁止か……。確かに燃費の悪さは俺も感じていたけど。
改良しようにも実験していたら、辺り一帯更地になるしどうしようもなかったんだよな。
『お前は火系統の魔法を極めるといい。俺の加護のおかげでかなりの火力になるはずだ』
加護? そんなのあったの?
そのおかげで少しの魔素であの火力だったのね。
『お前が俺の転生者となった時点でお前には俺の加護がついている。まぁ元々お前の体は魔素が通りやすい体をしているようだ。剣士より、魔法使いの方が向いているぞお前』
えぇ……。今更サンさんに魔法使いになります、なんて言えないよ。魔法剣士でいくね? だめ?
『いや、別にダメではないが。それなら身体強化をするといい。体に常に魔力を行き渡らせている必要があるが、その代わり魔法の発動はスムーズに行えるぞ』
マジか! それは良い情報を聞いたな、今度試してみるよ。
『強くなれ。我が転生者よ』
その言葉と共に俺の意識は途絶えた…………。
俺が目を覚ますとそこはこの前のベッドの上だった。またサンさんに運ばれたようだ。
近くにサンさんが居ないか部屋の中を見渡したが居なかった。何処かに出かけているのかな?
「あ、そうだ。あれ試してみるか」
俺は全身に魔素を行き渡らせる。この状態ではただ全身に魔素があるだけだ。イメージを加えることで魔素は魔力に変わる。
そして魔力に変わった魔素が魔法になる。これはこの世界の常識なんだとか。
つまり、イメージが上手く魔素に伝われば伝わるほど、高威力の魔法になるそうだ。ユミリナ大先生はそうおっしゃっておりました! 勉強になるんじゃぁ~。
「身体強化のイメージってどんなのだ? 想像ができないぞこれ」
俺は頭の中でそれらしいものを記憶から引っ張り出そうと頑張ってみたものの、これといって思い浮かばなかった。なんとなく某特撮ヒーローが思い浮かぶが、流石に変身! とか言いたくない。恥ずかしいし……。
いや、変身とは言わなくても、体に何かを纏うのは良い案かもしれない。魔素でできた鎧みたいなのとか!これは心躍ってきたぞ!
俺は再度全身に魔素を行き渡らせる。そして軽鎧をイメージする、あくまで動きやすくだ。色は……青にして爽やかに攻めよう。
「魔装! おぉ、できた!」
俺の体にはイメージ通りに軽鎧が纏われていた。全身鎧ではなく、あくまで守るべきところだけだが。
だがこの魔装にはもう一つ重要なイメージが組み込まれているのだ!
そう! この魔装は纏うだけで身体能力が跳ね上がるのだ! 多分……。こればっかしは実験してみないと分からない。
だがおそらく成功しているだろう。魔装してから全身に力が溢れている。
「なんだ? その鎧は」
俺が魔装の具合を確認しているとサンさんが帰って来た。俺の魔装を見て不思議そうに眺めている。
まぁそりゃそうか……。魔装を解いて説明しようとすると、これまた驚かれた。
「な、なんだ? 鎧が……消えた? どうなってやがる?」
「これは、魔法の一種ですよ。俺は魔装って呼んでます。魔装を装備することで、防御面はもちろん、身体能力の上がるおまけつきです」
「聞いたことのない魔法だな。それは俺も使える魔法か?」
「正直に言うと分かりません。まだ実験段階ですし」
サンさんは少し考える素振りを見せた後、
「よし、その実験俺も付き合おう。相手が強いほうが実験になるだろう」
俺の方を向いて、もうそれはそれは期待に満ちた目で言った。
いや、確かに相手は強いほうがいい。だがそれには限度がある。サンさん並みに強い相手に通じるかどうかは別問題だ。
そんなことを考えていた俺はある大事なことを思い出した。
「そういえば! あいつはどうなったんですか?」
「あいつ?」
「あの神……って言っても分からないか……。あの白い羽根を生やした人型の魔物です! ウラエラスとか名乗っていた……」
「あぁあいつか。叩き斬ってやったぞ。あんな雑魚に手間取るようじゃまだまだだな」
そう言ってサンさんは首を横に振る。
ウラエラスは中級神だとアポロ二ウスは言っていた。サンさんの実力は最低限中級神以上という訳だ。かなりの実力者だと分かる。
こんな人に魔装の実験を付き合ってもらえたらと思うと、今からでも心が躍るぞこれ!
「さ、さいですか……。それより、魔装の話でしたよね! 実験はいつから始めますか?」
「今からだ!」
てことで、現在サン宅の庭にある演習場よりお伝えしております。
っと、冗談は置いておいて、普通に庭にド広い演習場がありました。驚きを隠せません。
流石SSランクだなぁと感心した今日この頃です。
魔装をばっちり決め込んだ俺と向かい合う形でサンさんは剣を構えている。お互い使う武器は刃を落とした武器だ。怪我でもしたらたまんないからね。
「それじゃあ行きますよ!」
サンさんは何も言わずに頷いた。
それを合図に剣を交える。なんと押し勝てました。すげぇ魔装!
「くっ……! なるほど、これが魔装か! この前より遥かに強いではないか」
「これだけじゃないですよ!」
俺は両手に魔素を集め魔力に変える。イメージは火弾の進化系、炎弾だ!
魔装をしたことで魔素の集まりに無駄がなかった。今までの魔法とは桁違いの威力の魔法が飛ぶ。
アポロ二ウスの言う事は正しかったようだ。
「魔法障壁!」
炎弾は全てサンさんの魔法障壁で防がれる。
「全部防ぐんですか……。流石だなぁ」
「今程度の威力では防げて当たり前だ」
「そうですか-! それならこれでどうですか?」
俺は剣で斬りかかる。その速度はこれまでと比べると、明らかに早くなっていた。
サンさんは軽々と受け流し俺の態勢を崩そうとする、俺はそれに抗う。そんな応酬を何回も繰り返す。
今までうっすらとしか見えなかったサンさんの剣筋がはっきりと見えるようにもなっていた。
何回も斬り合いを続ける間に俺はカウンターを決められるようになる。
「だんだんと体が慣れてきたのではないか?」
俺は頷く。するとサンさんは剣を鞘に納めた。
「もう終わりですか?」
「いや、今からが本気だ」
そう言うと、サンさんは目にもとまらぬ速さで剣を振りかぶった。それは巷では『神速の剣』と言われるものだ。
無論俺は見た事もない技だ。反応がコンマ数秒遅れた。
「まだまだだったな」
「改良が必要ですかね……」
俺の剣は地面に転がり、俺は尻もちをついた状態でサンさんと向かい合う。
魔装した状態でもサンクラスの敵相手だと、本気を出されると勝てない。それでは意味がない。
「だがその魔装だったか、凄い魔法だ。身体能力だけでなく、魔素の流れまで早くしている。驚異的だ」
「今までこんな魔法は無かったんですか?」
「俺は聞いたことがないな。この前の隕石といい、お前の発想力には驚かされる」
「どれもまだ改良の余地はありますけどね」
「それも含めて修行していこう。俺のことはサンでいい、無駄に畏まる必要もない」
「分かった。よろしく頼むサン」
「それでいい」
俺はこの日からサンの元で修行を開始することになる。ここでの経験を活かし、俺がSSランク冒険者になるのはまた別の話。




