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Jack the Ripper~犯罪者専門の犯罪者~  作者: マルキ
1章 ジャックの正体
6/13

犯人の自白

アーノルドはロンドン市警察署に無事にたどり着いた。

自分のデスクで資料を見ながらノーラの言っていた事を頭の中で整理していた。切り裂きジャックの娼婦殺人が5件、類似した犯行が51件。類似した犯行の犠牲者すべてが過去犯罪に関与した者や、一度逮捕されたが釈放された者、街のゴロツキだった。

また、娼婦殺人はホワイトチャペルに集中していて、犯行時刻は夜中の11時~朝の4時に集中している。それに比べ、類似した事件は犯行時刻、場所、殺害方法がすべてバラバラだ。

類似した事件がすべて本物のジャックの犯行で、娼婦殺人が模倣犯だとしたら納得がいった。

問題は模倣犯が誰かだ。

犯人は左利きで、近づいても被害者が警戒しない人物。医学知識があり、高度な外科手術が出来る人物。

しかし、ロンドン中の医師にはアリバイがある。

きっと、何か捜査対象から見逃しているはずだ。

アーノルドは考え込んだ。

そして、一つの考えが浮かんだ。

アーノルドはすぐに、ある資料に目を通しだした。

そこから5日間アーノルドは資料を見続けた。

ある時はメモを取り、食事とシャワーと睡眠以外はずっと資料を見続けていた。

そしてアーノルドは確信した。

今まで捜査対象から外れていた人物がわかったのだ。

アーノルドがオフィスの隅を見るとバース警部が巡査と話している。

アーノルドはバース警部の側へ行き囁く。

「すみませんが、ちょっと捜査を手伝っていただきたいのですが」

バースはアーノルドを見た。

「アーノルド警視。私もあなたと話したかったんだ」

バースは言った。

「では今日の夜、一緒に5人目の被害者の現場へ行きませんか?ほら、この前は襲われて見れなかったので」

アーノルドは自分の頭を指差し、笑いながら言った。

「わかった。ところで頭の傷は大丈夫なのか?」

バースは言った。

アーノルドは笑顔で答え、その場を離れた。







PM9:48

バースはロンドン市警察署の前でアーノルドを待っていた。

9時半にここで落ち合うはずが、まだアーノルドが現れない。

バースは苛立ちから近くにあった木箱を蹴り、煙草に日をつけた。

10時を回った頃アーノルドが現れた。

「すみません。少し離れた場所に用事を思いだしまして」

アーノルドは悪びれる様子もなく言った。

「私をこんなに待たせるとは・・・。この貸しは高くつくぞ!」

バースは不機嫌そうに顔を歪ませ、言った。

そのままアーノルドは不機嫌なバースを連れて馬車に乗り現場へと向かった。




「このところずっと資料を見続けていたが捜査に進展はあったのか?」

現場へ向かう道中、馬車の中でバースは言った。

「ええ、もう少しで犯人を逮捕出来そうですよ」

アーノルドは不適に笑いながら言った。

「ほう、では犯人は誰だ?」

バースは姿勢を前のめりにした。

「現場に行けばわかります。」

アーノルドがそう言うと、バースは黙ったまま彼を見つめた。

「ところで、頭の傷はもう大丈夫なのか?」

また背もたれに、もたれ掛かるとバースは言った。

「まだ痛みますが、なんとかね。ところで切り裂きジャックの事件の担当になって襲われた事はあります?」

アーノルドは言った。

「いや、私はないな。君は別の件で誰かの恨みでも買ったんじゃないか?」

バースは懐中時計を見ながら言った。

アーノルドは何も言わずバースを眺めた。





現場に到着するとアーノルドは早速被害者が倒れた場所を捜査し始めた。

幸い、現場は保存するよう指示していた為、血痕などは渇いているが残っている。

アーノルドは膝をつき、顔を近づけて地面、壁、血痕を観察する。

バースはそれを黙って見ている。

「やっぱりか・・・」

アーノルドは意味深に言った。

「何がやっぱりなんだ?」

バースは退屈そうにポケットに手を突っ込んだまま言った。

「あなたと落ち合う前に死体安置所に行ってきて、被害者をもう一度確認して来たんですけどね。被害者の膝に不自然な傷がありまして、ここの血痕を見てすべてわかりました。」

アーノルドは観察を止め、立ち上がりながら言った。

「何がわかったんだ?」

バースは不思議そうな顔をしている。

「ここの溝を見てください」

アーノルドは地面の割れたレンガの溝を指差した。

「溝に靴の皮がついている。強い力で(つまず)いたんです。つまり、彼女は犯人に追われ走っていた。そして、ここで躓いた。転んだ拍子に膝を怪我した。彼女の足首が青くなっていたので足首も痛めたのでしょう」

アーノルドは続ける。

「そして、この血痕を見てください。もし後ろから襲ったのであれば彼女の前方にもっと血が飛び散るはず。しかし、現場の血痕は飛び散っていない。恐らく壁のようなものがあったんです。つまり首を切られる時に犯人は彼女の前にいた。壁に付着している血の高さから、彼女は立った状態で殺された」

バースは黙って聞いている。

「犯人は一度彼女の目の前に立って彼女の手を取り立ち上がらせた。犯人から逃げている女性が警戒心もなく手を(ゆだ)ねた。他の被害者の中にも警戒心もなく犯人を部屋に招き入れている女性がいました。つまり安心を与えられる人物・・・。警察官です」

「警察官だと?!」

バースは叫んだ。

「はい。友人という事も考えられますが、被害者に共通する友人はいませんでした。犯人は左利き、医学知識があり、高度な外科手術が出来る。これに該当する人物はロンドン市警察とスコットランドヤード合わせて3人。調べるのに時間がかかりましたが[高度な外科手術が出来る]で大分絞れました。その内アリバイがないのは一人でした」

アーノルドはそう言って、バースを見つめる。

「あなたです。バース警部」

アーノルドは言った。

バースは黙ったままアーノルドを見ている。

「あなたの資料を見ました。父親は医者で裕福な家庭に生まれているが母親は無し。大学時代は医学部を専攻、卒業後は父親の病院に入った。しかし、父親が多額の借金をし病院は閉鎖。あなたはその後、警察官になった」

アーノルドは言った。

「それで?」

バースは言った。

「あなたはこの事件の担当に立候補したそうですね?他の警察官に邪魔をされたくなかったからでは?」

バースは何も言わずアーノルドを見つめたままだ。

「私は担当になってすぐ襲われた。襲った犯人は[アーノルド警視]と言っていた。[警部]ではなく[警視]と。街のゴロツキが[警視]なんて言葉を使わないでしょう。きっと、雇い主がそう言っていたのを聞いていたんです。という事は、雇い主は私の身分を知っているという事。つまり、事件を荒らされたくないあなたがゴロツキを雇い、私を襲わせた」

アーノルドは言った。

「面白い話だが憶測に過ぎないな。私が犯人である証拠はあるのか?」

バースはニヤけながら言った。

「証拠はありません。私の推測ですから」

アーノルドはあっさりとした態度で言った。

「がはははは!こりゃ傑作だ!証拠が無いのに私を犯人扱いか!」

アーノルドのあっさりとした態度と予想と反した返答にバースは大笑いした。

それを見ながらアーノルドも微笑んでいる。

「久しぶりに大笑いさせてもらったよ。ありがとう。お返しに君の今一番欲しいものをあげよう」

そしてバースは時計を一度確認し、話を続ける。

「君の言った推測は正解だ。犯人は私だよ」

アーノルドはそれを聞いても反応せず、バースの顔を見続けている。

「反応が悪いな。もっと驚けよ」

バースはアーノルドの反応の無さに不満そうだ。

「何故、切り裂きジャックの名前を?」

アーノルドは聞いた。

「ある日、俺の小遣い稼ぎに使ってるゴロツキが、その名前を出してきてね。これは使えると思ったんだよ」

バースは答えた。

「何故、娼婦ばかりを狙ったんです?」

アーノルドは聞いた。

「親父の借金の原因。それは、娼婦に脅されていたからだ」

バースは顔を強張らせながら続ける。

「私の母親は娼婦だ。父親と母親はお互い愛情などなく、ただの商売の関係だったのだろう。産まれたばかりの私を母親は親父の病院の前に置き、後で連絡してきた。[娼婦との子供だとバレたくなければ金をよこせ]とな。娼婦との間に子供が出来てしまっては世間体が悪い。親父は定期的に金を渡していた。そして、借金で病院を閉鎖した途端、その女は姿を消したんだ」

「それで、復讐のつもりで娼婦達を?」

アーノルドは聞いた。

「そうさ!親父がその後自殺し、だんだんと娼婦達が憎くなってきてな。最近急に殺したい衝動に襲われてね。最初は一人だけのつもりだったが娼婦の苦しむ顔を見るのが癖になって、気付いたら5人も殺しちゃってたよ。ははは!」

そう言っているバースの顔は興奮ぎみに目は見開き、口角は上がって、もはや理性という物は無い様だった。

「最後に質問。どうしてあなたは今、自分から自白したのです?」

アーノルドは言った。

「簡単だよ。今この場にはお前と私、2人だけしかいない。そして、君は死ぬからだ」

バースがそう言うと、アーノルドは後ろから巨大な何かがものすごい早さで向かってくるのを感じた。

次の瞬間、アーノルドは巨大な何者かに体当たりされ、壁に叩きつけられた。

その衝撃は、昔、馬に背中を蹴られた衝撃に似ていた。

アーノルドはそのまま地面に倒れ込む。

胸に激痛が襲った。恐らく、今の衝撃であばら骨が何本か折れたようだ。

アーノルドは自分に当たって来たものを確認する為、顔を上げた。

アーノルドは目を疑った。

バースの横に1人の人間?いや、怪物が立っている。

身長は2メートルを超えているだろ。全身は紫色をしていて、筋肉が膨張していて上半身の服は破けている。

腕はワインの酒樽くらいあり、足の太ももはそれ以上だ。目は赤く充血している。額には大きな傷があった。

「時計を気にしていたのはこの怪物を待っていたんですね?」

アーノルドは言った。

「君は本当に人を観察するのが好きだな」

バースは余裕に満ちた表情をしながら言った。

「その額の傷に見覚えがある。私を前に襲って逃げた人物ですね?」

アーノルドはその怪物を指差しながら言った。

「その通りだよ。よく覚えていたね。どうだい?見違えるようだろう?彼はデリック。特殊な薬を飲ませてね、この通り生物兵器になってくれたよ」

バースは笑いながら言った。

「こうなると思ってましたよ。まさか、こんな大変身していたとは思ってもみなかったですけどね」

アーノルドはそう言いながら苦しそうに立ち上がる。

「君と・・・」

「キャハハハハハハハハハハハ!!」

バースが何か言いかけた時、何処からか奇声が聞こえてきた。

バースは周りを見渡す。しかし、何も確認出来ない。

「私も友達を呼んであるんです。多分、その怪物と仲良くなれるんじゃないかな」

微笑みながらアーノルドは言った。

次の瞬間、アーノルドの横を素早い何者かが通り過ぎそのままデリックに飛び掛かった。

バースの帽子がその風圧で飛ぶ。

飛び掛かった者はデリックの首元や背中を刃物で2~3回切りつける。デリックは暴れ、手を大きく振り、払いのける。

払いのけられ大きく飛躍し、一度地面に着地した人物を見てバースは叫ぶ。

「切り裂きジャックか?!」

ウェーブがかった髪は首元まで伸び、額の真ん中で無造作に分かれていて、その隙間からは緑がかった瞳がバースを見ていた。

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