ヒーローは遅れてやってきます
戦争というのは理由もなくやっている訳では無いのに、途中からなんで戦争やってるのか分からなくなったという戦争があるのは好きです
私達三人は門の近くまでやって来ました。
門に警備はおらず、ウェルカムな感じはしますが…
「罠…ですかね」
「篭城戦だったらね。だけど今はそうじゃないから大丈夫でしょ」
「そうであってもなくても攻め込むまでだ。ミラ、頼んだぞ」
「ええ、硬化時間は十分ですので気をつけてください」
「承知した、なら今小生にかけておけ」
ブレイさんは治療用の包帯で弓を自分の腕を巻き付け、まるで自分の国のために特攻して死ぬ気満々の兵士の顔をしていました。
「随分と面白い準備ね、死ぬ気?」
「死なないためにミラがいるのだろう、作戦はほとんど覚えていないがな!『ボマーアーツ』!」
「あんた今なんて言った!?」
ブレイさんが門を思いっきり殴ると門が吹き飛び、その先にいた十数人のルメラカ軍の兵士も吹き飛んでいきました。
「ちょっといきなり過ぎません!?『アーマー』!」
私が防御魔法をかけるとブレイさんは飛び出していってしまいました。
もんのかにいた兵士はほとんどが武器を持っておらず、ある者は叩き切られ、ある者は頭を地面や壁に叩きつけられたりと、見る限りでは戦争というよりも虐殺が行われていました。
「リオル!こいつやるから水でもかけて聞き出しておけ!」
ブレイさんは頭突きをされて気絶している兵士を一人をこっちに投げ、また戦闘を開始しました。
「あいつ…戦場育ちなのかしら…えーっと水…っとあった。おりゃ」
リオルは水分補給用の水を兵士の顔にかけると、兵士の意識が戻りました。
「ひぃっ!殺される!」
まぁ…あのブレイさんの後ですからこんな反応ですよね。そんなことを思いながらリオルの顔を見てみると、笑顔でナイフを構えていました。
「殺されるかは返答次第よ。嘘をついたら殺す。反抗しようとしたら殺す。逃げようとしたら殺す。沈黙が三秒以上続いたら殺す。遠回しな言い方をするなら殺す。いいわね」
「は、はい…」
「率直に聞くわ。ここにいる中で一番強いやつ、もしくは一番偉いやつは誰?」
「それは…ルメラカ国魔術軍三番隊隊長のフルーホ様です…」
「嘘ね。殺すわ」
「嘘じゃない!フルーホ様はここの国を潰せと命令されて来た!我々はフルーホ様の部隊だ!」
「へぇ…じゃあここにはもうそいつ以外は特別強いやつはいないってこと?」
「あぁ…ドータスカ様も今はこの国を潰したと思っている頃だろう…なぁ、ここまで話したんだからもういいよな?」
「途中から敬語じゃ無くなったのは気に食わないけど…いいわよ、行きなさい」
リオルは兵士を立たせて門の中に思いっきり押すと、兵士の身体はすぐにブレイさんの矢によって貫かれました。
「どうだった?何かあったか?」
また戻ってきたブレイさん。
一体どんな機動力をしているのですか…
「さっき倒したあのフルーホってやつが親玉らしいわ。…面倒ね」
「死体でも晒せば逃げ出すのだろうが…さっきの所まで少し距離があるな…」
「だぁれが死体になったんだってぇぇ!?」
突如ブレイさんの背後から鋭い何かで切りかかるまっ黒焦げの人。ブレイさんは弓で防ぎます。
「その声…フルーホか、随分とまぁ…変わったな」
全身が細く引き締まり、なにか薬でも打ったかのように筋肉がムッキムキになっていました。腕は刃のようなものになり、その姿は正しく『化け物』と呼ぶのに相応しいです。
「ヒャヒャヒャア!さっきはよくも殺してくれたねぇぇ!?おかげで一度しか使えない大事な大事な大事な大事な蘇生魔法を使うことになっちゃったじゃんかぁぁぁ!!」
フルーホは後ろに跳び、狂ったように斬撃を放ってきたので私とリオルは必死に避けました。
「危なっ!」
ブレイさんはというと、斬撃を弾きながらフルーホに接近していきます。
「今度こそその息の根を止めてくれる!」
「死ぬのはぁぁ!!お前だよぉぉ!!やれお前達!」
フルーホの合図とともに生き残っていた魔法兵士達が一斉に魔法を放ち始めました。
「ちっ…まだ生き残っていたか…防御魔法ももう少しで効果がなくなるか…ならば!」
ブレイさんは自分にあたる魔法を無視してフルーホに切りかかります。
「そこまでもぉぉぉ…想定内なんだよぉぉぉ!!」
フルーホは凄まじい早さでブレイさんの眼の前に迫り、弓を破壊し、ブレイさんの腹を膝で蹴り飛ばしました。
「ぐっ…ごはぁっ!」
壁に叩きつけられたブレイさんは血を吐き、意識を失ってしまいました。
「ブレイさん!」
「ブレイ!…よくも!」
リオルが矢を放ちましたが、フルーホはハエを叩き落とすように折ってしまいます。
「お前もぉぉぉ…死ねよぉぉぉ!!」
走ってこっちまでくるフルーホ。
何度も矢を放ちますが、全て弾かれてしまいます。
「ごめんね、博打行く約束…守れないや…」
突如小さな声で言うリオル。
「何を諦めているのですか…あっ」
私の手元には残り一本の矢。
再び弓を構えるリオル…私も構えます。
「あんた…逃げなさいよ、一緒に死ぬとかセーラが可哀想じゃない」
「無茶言わないでくださいよ、あんな化物に背中向けて死ぬなんて嫌じゃないですか」
フルーホが迫る中、私達は最後の一発を放ちましたが、気づいた時には…
「まずはお前からだよ」
リオルの腹に深々と刺さる刃。
「リオ…ル…」
瞬時に私も切られ、倒れていました。あったかいですね…血でしょうか…?まるでお風呂に入っているかのような…気のせいでしょうか、片目も真っ暗で…これが死ぬ直前というものなのですね…
「うぉらぁぁぁぁ!!!そいつらから離れろバケモンがぁ!」
何処からか飛んで現れ、大剣でフルーホを吹っ飛ばす人影…ノヴァさんでしょうか…
「ひどい怪我…お二人共今すぐに治します!」
この声は…エリーさんでしょうか…
「てめぇ…よくもうちの可愛い後輩をやってくれたな…塵一つこの世に残せると思うな
次話でやっと1章終わりという感じです!
お楽しみに〜