帰れない人
私が目を覚ますと見知らぬ天井がありました。
硬い床に寝かされていて、寝るときに来ている服を着させられているということは私は拉致されたのでしょうか。
しかし体を起こして周りを見るとセーラさんとブレイさんが壁に寄りかかって寝ていて、私のすぐ近くでは博士が何やら作っています。
リオルはどこにいるのでしょう…
「おっ、起きたみたいだね。左目の調子はどうだい?」
博士に言われ、見えないので閉じていた左目を久しぶりに開いてみると、眩しい光で数秒目が痛み、その後はっきりと見えるようになりました。
「極めて良好…ですね」
「それはよかった。その言葉を聞くのは研究所にいた時以来だから懐かしく感じるね」
「私も言っていて思いましたよ。それよりリオルはどこに?」
「ああ、あの子ならアハツェーンを連れてここのトップを殺しに出かけたよ。とはいってももう終わって帰ってくるけどね」
リオルが…アハツェーンを連れて…?
「ちょっと…何を言っているか分からないです」
「そうだね、じゃあ何故彼女がそんなことをしたのか話そうか。彼女はね、ミラ、君のために戦争を終わらせようとしてるんだよ」
「私のために?」
「うん。これは彼女にも話したんだけど君の身体はこれ以上戦うと近いうちに壊れる。間違いなくだ。一般市民がごとく普通に暮らしていれば問題なく暮らせるけど君の身体は今までの戦闘でボロボロになってるんだよ。回復魔法をかけてもらっていたんだろうけど君の場合は普通の人間ではないだろう?だから回復魔法をかけられても表面だけ回復していて内部は治せてなかったんだよ。だから彼女は僕達に内緒でこれ以上君を戦わせないためにアハツェーンを使って戦争を終わらせることにした。アハツェーンに発信機と盗聴器を付けてたからバレてるけどね」
なんということを…なんてバカなことをしようとしているのですかリオルは…!
世界を敵に回せばリオルどころかブリーズタウンの皆さんの命すら危ういのに何を考えているのですか…
立ち上がって外に出ようとするとドアが開き、私を見て驚いた顔のリオルと血まみれのアハツェーンが立っていました。
「ミラ、あんた左目と身体は大丈夫なの?」
「ええ、ご覧のとおりです」
リオルは建物の中に入って武器を下ろすと博士にアハツェーンが通り魔を殺して返り血を浴びたという嘘をついて壁に寄りかかって座りました。
私はリオルの隣に座り、吐いた嘘のことを聞こうとしますが「そんなことより」と言って私の左目のことで話を逸らしてしまいます。
「アハツェーンはいい子で何を言っているか分からないけどすごく頼れる」、「私に寄りかかって来て意外と可愛いところがある」とこちらを見ないで話しています。
一方アハツェーンは部屋の隅にある箱から布を取り出して外へ走っていってしまいました。
「リオル、博士から聞きましたよ」
「アハツェーンの衣装のこと?あの服可愛いわね、この町にあるものだったら帰りにー」
「違います!私の身体のこと、それにリオルがアハツェーンと共に戦争を終わらせようとしていることです!」
黙るリオル。しかしここで引いてはリオルを止められません。
「やめましょうよ、戦争を終わらせるなんて一人二人で出来るようなことではないんです。話し合って、和解があって、人と人が手を取り合うことで始めて戦争は終わるんです。リオルがやろうとしていることは憎しみや悲しみの連鎖を増やすだけなんですよ」
「それでも…それでも私はやるわよ!たとえ私がどれだけ憎まれようがなんと言われようが絶対にやり遂げる。もうミラに戦わせない」
「戦わせないだけならブリーズタウンで過ごしていればいいじゃないですか、そして緩やかに過ごしましょうよ、ね?帰りましょう?」
「ミラ、あんたは何も分かってない。ブリーズタウンが戦争に絶対に巻き込まれないって言い切れる?前にベルタルタを助けたけどまたいつあそこが陥落されてこっちに来るかなんて分からないじゃない!だったら根絶するしかないのよ!博士もそう思うでしょ!?」
突然振られた博士は「えっ僕?」と言ったあと「僕は人造人間が造ることができれば平和であろうがそうでなかろうが構わない」と言いました。
アハツェーンを使うことにも「是非とも連れて行ってやってくれ」とリオルを止めるどころか背中を押してしまいました。
私には…リオルを止めることはできないのでしょうか…
「明日の朝私はアハツェーンと一緒に各国に行って私がやろうと思ったことをやる。わかってると思うけどついて来ちゃダメよ。ミラ達にしばらく会えることがないだろうけど私が抜けても無茶しない程度に頑張るのよ」
「嫌ですよリオル…そんなこと言わないでください…」
「博士、私の話を聞いてたことは何も言わないし私も今更アハツェーンを利用することは謝らない。でも護衛的な役割してたアハツェーンを借りるお詫び…じゃないけどこれあげるわ」
リオルは背負ってきたであろう大きなカバンから大量のお金を取り出し、「これで研究に使って」と呟いて渡しました。
私の声はもうリオルには届かず、翌朝を迎えてしまいました。
私が寝ている間、ブレイさんとリオルで何かやりとりがあったようですが、私が起きた時にはもうリオルの姿はなく、開いているドアの前ではブレイさんがうつぶせで倒れていました。
リオルは…行ってしまったのですね。




