草を刈るなら根から
眠りについた私は夢を見た。
ミラと私がいつものように過ごした夢。
狩りをして、賭け事をして負けて帰ってきたミラを怒る私を遠くで見ている夢を。
戦争なんか無くって皆と旅に行ってる夢も見た。
こんな日は…いつ来るのだろう。
「来ないよ。人間がいる限り」
頭の中に流れる声。聞いたことがある気がする。
聞いたことがある声だからだろうか、私は特に驚くことなく「何で?」と言ってみる。
「宗教、領土、復讐、人種、名誉、恐怖、利益、平和…理由なんて上げればキリがない。自分の国が強いと国民に示したいから戦争するという人間すらいる。人間が皆平和になることを望むなんて絵物語もいいところだよ」
そんなことない、だって数百年前人間は団結して魔王軍を退けた。
「団結?一時的に組んでその後間もなく戦争を始めたことが団結?バカバカしいにも程があるね。君は戦場のど真ん中で平和を叫ぶような人間なの?」
私はそこまでバカじゃない。
でもそうね、あんたの言うとおりかもしれない。私が生まれたところも戦争でなくなっちゃったし、大事な親友の片目も戦争のせいで使えなくなった。
何もかも戦争のせい…
「だったらどうする?戦争がなくなるように星にでも願う?国のトップに戦争をやめてくれって言う?兵士を皆殺しにしちゃう?」
そんなことできるわけが…できるか。
できないこともないよね。
「あはは、何かを考えついたようだね。じゃあ起きようか」
消えゆく声とともに私は眠りから覚め、足の間に座っていたアハツェーンは私の右隣に立って私を見つめていた。
「ぬー?」
良く眠れた?みたいなことを言ってそうな雰囲気。
私は「うん」と頷いて立ち上がり、何故か付いてくるアハツェーンと共に目を閉じて横たわっているミラの様子を見に行った。
既に治したのだろうか、博士は別の作業に移っていた。
ブレイとセーラはさっきの私と同じく壁に寄りかかって寝ている。
ミラは瞼を閉じているので目の様子は分からない。けど直感的に触らないほうがいい気がしたので触らない。
しばらく頬を指でつついてみたりつまんでみたりしたが反応はない。
「博士、ミラは大丈夫なの?」
「うん、大分苦労したけどね。アハツェーンみたいな新しい人造人間は片目が使えなくなったくらいで機能が停止することはないけど何せミラは第一号だ。正直何かあって二度と機能しないなんてことはいつあってもおかしくない。左目の修理が終わったあと色んな所の確認をしたけど…戦っていればいつまで持つかわからない」
「持つって…何が」
聞きたくないのに聞いてしまった。
分かってしまったのに。
「ミラの身体のことだよ。今まで腕に負担がかかるような物を持ったり激しい戦いをしたことはあっただろう?二度言うようで悪いけどミラは最初に作られた人造人間、人間に近づけすぎた失敗作なんだ。致命傷を受ければ二度と目覚めることはないし、心臓をやられたら死ぬ」
「じゃあ…全身を治してよ。それなら…」
「それはできない。人造人間はからくり人形じゃないんだ。左目の修理なんて言ったけど元々あった左目を外して新しいものをつけただけだからね。機械に詳しい人は機械の修理ができても人間の治療はできないだろう?」
私は「じゃあどうすれば治るの?」と言いたかったけどその言葉が出ない。
「もう治らない」と言われるのが怖いから。
博士が治せないのだったらもうどうしようもないんじゃないかって。
私は震える声でいつ目が覚めるかを尋ねると明日の朝には目覚めるとのこと。
もうミラには戦わせない。
何があっても戦わせない。
一人になんてなりたくない。
ならミラに危害を与えるような奴を殺せばいい。
作戦ならもう思いついてる。
私は視線をアハツェーンに向けると、アハツェーンは私の考えを汲み取るように邪悪な笑みを浮かべた。
「博士、ちょっと散歩に行ってくるわ」
「あ、うん。外はもう暗くなってるから気をつけてね」
武器を持ち、アハツェーンを連れて建物の外に出るとだいぶ空は暗くなっていたが街の所々に明かりが灯っている。
耳をすませば遠くからまだ戦争をしている音が聞こえる。
軽く舌打ちをして権力者のいそうな建物を探しているとあからさまに大きく、家の前に頑丈そうな男の見張りがいる派手な家を見つけた。
一度通りすぎて様子を見ようとしたけどその必要もなかった。
「おいお嬢ちゃん、こんなところで歩いてたらー」
「殺って」
「ぬ」
アハツェーンは小柄であるにもかかわらず男の顔まで跳んで顔をはたくと顔が数回転して男が倒れ、宙に浮いたままもうひとりの男の首に回し蹴りを叩き込んで倒した。
あとはこの家にいるやつを殺すだけ。
そうすればここの戦争は終わる。
私は…アハツェーンで戦争を終わらせる。
博士とトレラには悪いけどミラのためだから。
アハツェーンにドアを破壊させて先に入らせて私は外で待機。
色々なものが壊れる音。最初はリビングへのドアが壊れる音だった。
食事中だったのかな、お皿が割れる音も聞こえた。
中にいたのは三人くらいで女性の悲鳴が二つと男性の叫び声が一つ。
「助けて」「やめて」「化物が」そんな声が聞こえたけどアハツェーンの耳には入ってない。
やがて悲鳴も音もしなくなってアハツェーンが笑顔で外に出てきた。
アハツェーンの右手には顔面が潰れ、ナイフが頭に刺さってて血まみれで死んでいる男の死体。
その死体を下ろしたアハツェーンは私の方に頭を差し出して何かを待っている。
「ぬー」
頭を下げたまま横に振る。どうやら撫でて欲しいらしい。
私は「よくできました」と言って優しく撫でると満足したらしく顔を上げ、乾いた血がつ手で私の手を優しく握った。
「じゃあ、戻ろっか」
「ぬー!」




