壊れた左目
トレラさんに町の近くまで乗せてもらい、お礼を言うとトレラさんはどこかに飛び立っていってしまいました。
「さて、もう日が暮れるし町で何か買って帰りましょ」
「そうですね、ブレイさんたちも帰ってきていますかねー」
私たちは町で買い物をして家に帰り、普段通り過ごして寝ようとしたとき。急に左目に激痛が走りました。
「うっっ…うぅ!」
瞼が痛いのではなく眼球が痛いので押さえるしかなく、うずくまって必死に歯を食いしばってうずくまるしかありません。
「ミラ!?どうしたの!?」
「うっっ!!あぁあ!」
リオルに左目が痛むことを伝えようとしますが、あまりの激痛で話すことすらままなりません。
「左目を押さえてる…ちょっと待ってなさい!エリー呼んでくる!!」
リオルは大急ぎで部屋を出ていき、玄関のドアを勢いよく「バタン」と閉めて明かりのなくなった町を走り出しました。
「この時間だと教会はもう開いてない…エリーの家は確か…」
エリーさんとノヴァさんが住んでいる家は管理がしやすいようにと教会の隣にあります。
ですがお二人共就寝時間が早いのでリオルは不安に駆られながら走っていると人にぶつかってしまい、後ろにのけぞってしまいました。
「キャア!ごめんなさい、急いでて…」
「こちらこそすまない。だがリオル、この時間に外に出るときは走らない方がいいぞ」
「この声…暗くてよく見えないけどブレイ?」
「そうだ。慌てているようだがどうかしたのか?」
「そうなの!ミラが突然左目が痛いっていうからエリーに診てもらおうと思って…」
「左目…分かった。小生はミラのところに行って様子を見てくる」
「頼んだ!」
リオルはまた走り出し、エリーさんの家の前に着くと聞こえるように、力強くドアを何度も叩きました。
「うっせぇ!ってリオルじゃねぇか」
出てきたのは普段着のノヴァさん。
後ろには心配そうにエリーさんが見ています。
「はぁ…はぁ‥こんな遅くに悪いわね…!ゴホッ!」
「その様子だと走ってきたのか…呼吸整えてる暇はなさそうだな。簡単に話せ」
「ミラが…左目が痛いって…」
「なにかの病気か?…エリー!ミラのとこに行くぞ!」
「はい!リオルさん、ここで待っていてください!」
「ええ…ちょっとしたら戻るわ…」
ノヴァさんたちは急いでシスター服に着替え、ハルバードに乗って私の家まで飛んで行きました。
「頼んだわよ二人共…」
家に着いたノヴァさんたちは開いたままのドアから入り、寝室に行くと静かに横たわっている私とその横で座っているブレイさんが。
「早かったな…リオルのおかげか」
「てめぇ…まさか殺したんじゃねぇだろうな」
「そんなわけがないだろう。小生がリオルから話を聞いてここに来た時には気を失っていた。しばらくは起きないだろうが早く診てやってくれ」
「はい…ミラさん、失礼します」
エリーさんが左目の瞼を開くと、私の眼球は謎の文字でほぼ真っ黒に染められていました。
「ひっ…なんですか…これ…」
思わず瞼を離して後ずさるエリーさん。
「なんだ?充血しててびっくりしたのか?」
「いえ…ミラさんの目が文字で埋まっていて…」
「は?何言ってんだ…」
呆れながらノヴァさんも私の瞼を開き、ゆっくり閉じました。
「おい…マジじゃねぇか…ブレイ、てめぇは見たのか?」
「あぁ、そしてこやつが人間ではないことも分かった」
「え?それってどういう…」
「そのままの意味だ。こやつは人間ではない、人造人間だ」
ブレイさんがそう言うと場の空気は固まり、長い沈黙が訪れました。
するとリオルが帰宅し、急ぎ足で寝室へとやってきました。
「エリー!ミラの様子は―」
「リオルさん、心して聞いて欲しいことがあります」
エリーさんのその一言と横たわっている私の姿で絶望するリオル。
顔はどんどん青くなっていきます。
「ミラさんは…人間ではありません」
「知ってるわよ」
青くなっていた顔は一瞬で戻り、表情も普通に戻りました。
「死んでないってことは助かる余地はあるのよね、治せそう?」
「いや待て待て!知ってたってどういうことだ!?」
「今日知ったのよ。私たちの故郷に行った時に色々あってね、本人の口から話してくれたわ」
「そうなんですか…ですがリオルさん、申し訳ありませんが治せそうには…」
「そう…あ、そういえばあいつがミラに何か渡してたような…」
リオルはリビングに行き、私が机の上に置いていたメモを取りに行き、寝室に戻って折りたたまれたメモを開くとそこにはとある街へ行き方とこんな文章が書かれていました。
このメモを読んでいるということはアイン、君に何かがあったということだろう。
君がいつか僕に再会し、損傷した時にこの『ベッチオタウン』街を訪れて欲しい。
アハツェーンが完成して僕が拠点にする予定の場所だ、数年は滞在する予定だから訪れようと思った時に訪れてほしい。
君は僕の…
この先は破れてて読めなくなっていました。
「あの博士を頼るしかないのね…」
「色々と聞きてぇことはあるがそのメモを書いたやつだったらこいつの左目を何とかできるってことか」
「そういうこと。ブレイ、私は明日行くけどあんたはどうする?」
「無論だ。セーラにも言っておく」
ブレイさんは窓から去っていき、ノヴァさんも「分からねぇことばかりで俺は何もできねぇ。お前らに任せる」と言って帰ってしまいました。
「リオルさん…聞いたことがあるだけで行ったことはないのですが『ベッチオタウン』は付近に戦争地帯があり、『ベッチオタウン』も治安が悪いそうなので気をつけてください」
エリーさんは一礼をして部屋を出ていきました。
「私も寝るか…ミラにおやすみって言っても返ってこないのは寂しいな…」
翌日、セーラさんが家に訪れ、私の左目を見て私が人造人間だと信じたセーラさんは一緒に行くことを決意しました。
「それにしてもブレイ、あんたよくミラが人造人間って分かったわね」
「ああ、小生も人造人間だからな。博士は十体目という意味でツェーンと呼んでいたな」
「えぇ!?…でも今までの行動を思い返せば納得か」
「凄いですよね…肉体があって魂があって…作った人に会ってみたいです」
「今から会いにいくのよ。ブレイがミラを背負ってね」
「む。小生が背負うのか」
「当たり前でしょ、この三人の中でミラを背負えるなんてブレイしかいないわよ」
「ならば仕方ない…が、起こさなくていいのか?」
「起こして左目が痛くて背負えないなんてことになったら困るでしょ?だからいいの」
「分かった」とブレイさんは言うと私を背負い、リオルがロープで落ちないように固定をしました。
「これでいいわね。セーラ、今回戦えるのは私とセーラだけよ」
「はい…絶対に守りきってみせます…!」
こうしてリオル達は博士のいる街『ベッチオタウン』へと出発したのでした。




