you dont cry Ⅴ
次の日、朝早く館の扉を叩く音がした。私は使用人達に時間外の仕事をさせるつもりはないので自身で対応することにしたのだ。
「何用かな?」
「‥‥初めまして、穢れた血の一族ウル様でよろしいでしょうか?」
私の事を誰かがそう呼ぶのは仕事の依頼があるときだけだ。つまり‥‥また一人の人間をこの世から消し去るのか私は。
「‥‥君の名を聞かせて頂こうか?」
「これはこれは‥‥先に名乗るのが礼儀だというのに申し訳ない‥‥無作法な家に生まれたものでね、私はレーベンニッヒ・アイン・デルターだ。」
デルターと言ったか‥‥遠いどこかで広い領地を持ちながらもそこに住む住民から一切の金を受け取らないとかいう訳の分からない貴族だったか?
「デルター卿、つかぬ事をお伺いしますがよろしいか?」
「構いませんよウル殿。」
立ったまま話すような話題でもないので、私の書斎に通した。
「ワインでも如何かな?生憎ワインしか私には出せる飲み物がないのだがね」
「嬉しいですねぇ、ここに来るまでの間一切酒を口にしていないんですよ、ではこれをお近づきの印に‥‥赤ワインを好んで飲まれるとのことでしたので‥‥」
良く調べている‥‥嫌味なほどに。
「さて口も湿って来た所で、貴公‥‥仕事の依頼でよろしいか?」
「えぇ、依頼は私の父の殺害で、報酬の方は金貨400枚と私の秘蔵のワイン樽を30樽ほど、貴方様の個人的な趣味に入る人間を数名‥‥それでどうでしょう?」
「ほぉ‥‥?どこまで調べたかは知らないが、最後の人間は要らないな、どうせ私の近くに居れば死んでしまうか狂ってしまう、それのどちらかだ‥‥」
デルタ―卿は恐らく多額の金を使って探らせたのだろうが、それは無意味だ。
「噂に違わぬお方だ‥‥我々人間の小さな願いを叶えてくれる人物とは誰も思わすまい‥‥」
「世事などは要らないよデルタ―卿、して‥‥父の暗殺、だったか?」
民から徴収をしないということは家の金か‥‥よからぬことで稼いだ金だろう、それか父親の財産で埋め合わせをするつもりだろうか、どうでもよいことだが。
「えぇ‥‥殺害した時の証拠として父の首を私の所へ持ってきて頂きたい、依頼はそれにて完了ということでよろしいでしょうか?」
「構わんが、息子である君に殺されるというのも何だか釈然としないだろうな、そなたの父親は。」
「ハハッ、情というものが貴方様にあるとは思いもしませんでしたよ、つまらぬ話になりますが‥‥父は私の母を殺し、妹を殺したのです。男である私以外は要らない‥‥そう言ってね。」
なるほど、後継ぎの長男さえ居れば金のかかる女子供は要らない、確かにそうだな。
「別に恨んではいませんがね、親が子を殺すなら、子が親を殺すのも仕方ないことです。」
「確かに‥‥その通りだデルタ―卿、さっそく仕事に取り掛かるとしようか、目的地を教えてくれたまえ。」
私の事を穢れた血の一族などと言った貴公とて、十分穢れているとは‥‥思わないかね?