baby don't cry Ⅳ
私の手は穢れている。今ここで‥‥また産まれた血の犠牲者を殺さないといけないのだ。
「そうか‥‥私怨を持つ私は魔の者達に巣食われているのだな? だから貴公が来た‥‥ということか。」
其方が今の地位まで昇り詰めた事、自分の事ではないのに‥‥誇りに思う。
「魔の者になれば見境無く襲うようになるのであれば仕方がない。なぁ貴公‥‥少しばかり昔話に付き合ってくれるか?」
あぁ、構わない、私もそうしたいと思って居たのだ。
「私の幼き頃、親の居ない腹を空かせ倒れていた私に名も知らぬ良い馬車に乗った高貴な貴族が金や‥‥水と食べ物‥‥衣服を与えてくれた。」
当時はまだ貧困の差が激しく、其方のような子は見渡せばどこにでもいる程少なくはなかった。あの日はとても寒かったな‥‥何人の子供が寒さで眠ってしまったのだろうな。
「何の関係もない私に施しをした貴族は私を馬車で山奥まで運んでくれた。そこで義理の両親までも与えてくれた。」
決して裕福ではなかっただろう、子が出来ずに切ない思いをし続けて居た山に住む夫婦へと其方を届けたのだ。
「私はその貴族に礼をする為、無我夢中で働き技を磨いた、だが‥‥貴族のその者は深々と帽子をかぶり顔が見えなかった‥‥」
血で汚れた顔など見せる訳にも行かない、見られたくなかったのだ、子供という無垢な存在に。
「私は必死で探した、その貴族の者を。だがみな口を揃えて言うのだ、そんな者は居ないと。」
誰にも知られてはならない、それが私だからだ。記憶に残ってはいけないのだ。
「貴公は‥‥私を助けてくれた謎の貴族の男に良く似ている気がするのだ。」
だが‥‥其方には残ってしまっているようだ。
「だからこんな話をしてしまった‥‥済まない、許してほしい。」
謝ることはない、構わぬよ‥‥
「私にはもう子も妻も居る、子は大きくなり私の後を継いで国を守り続けるだろう。そして私の妻を守り特別な女性と出会い家庭を作っていくだろう、孫の顔が見れないのが残念ではあるがな。」
すまない‥‥
「貴公は他の人間から見れば死を運ぶ死神だろう、だが今の私にそうは見えない、あの貴族の男と重なって見えているからかもしれないが‥‥貴公は死神なのではない。」
逞しく大きくなった其方からそう言われれば、少しだけ肩が軽くなった気がするぞ。
「貴公は‥‥私を人であるうちに天界へと送ってくれる神からの使いなのだな。」
そんな大それた者ではない‥‥私はただの穢れた血の一族だ。
「長々と済まない、では、頼むぞ‥‥その前に名を伺ってもよいか?」
「あぁ‥‥私はウル。」
「ウル‥‥そうか、知っていると思うがこちらも名乗ろう、私はマグダルド・アニューだ‥‥ふっ‥‥頼みがある」
あぁ‥‥知って居るよ。小さな男の子‥‥今は王国最強の守り手となった男の子
「妻と子へ言伝を頼む、父はお前達をいつも見守っている‥‥と」
「あぁ、確かに伝える。」
さらばだ‥‥私の最後の良心が救った小さな坊や。
必ず坊やをこんな風にしてしまった魔の者達は‥‥私が坊やへの手向けとして送ろう。
だからそれまで、坊や‥‥子と妻の者を見守っていてやってくれ。