you dont cry Ⅹ
王都で謎の失踪事件が連続して起きた事により人々は不安に駆られた。普段は賑わっているであろう市場から人は消え、雲一つない晴れ晴れとした空の下を私以外の人物が見当たらないほど寂しい物へと変わってしまった住宅街。
わずかに住宅から聴こえるのは、堅く閉ざした扉の後ろで次の事件に会うのは自分だと思い怯えている住民達のすすり泣きをする音、襲われた時抵抗する為の道具や武器を持って待ち構えている者達の息をひそめる音。
異様な静寂は、ただ一人として外を出歩く私をさらに異様なモノへと変貌させるのだ。だが、疲れ切った私にはこの静寂と私以外の誰も居ない空間で異様だと感じた自分に安心した。視界は呪いによって赤く染まり、辺りには臓物とフリアイアとアレン・ギース戦士長、セレル・リーペイ騎士長の遺体が何体も転がって居るように見えている。
自分を異様な存在だと認識できている今、明らかに普通の人間が見る事のない景色を見ていて何も感じない自分への馴れは‥‥悲しみを通り越して無感情へと変わるに十分過ぎた。
感情を無くした私の視界の端に淡い紫色の小さな花を胸に抱いて立つ少女が見えた。赤毛の少女に良く似たその人物を私は良く知っている。
「‥‥呪いは君そのものを狂わせた。魔の者等という一族に伝わっている伝承は私達を苦しめ、君たちの仲間を作り出す養分となる。」
「始まりはいつだってそんな物よ。ウル、お前とてもうわかっているのだろう? 呪いとは業よ‥‥業は何代にも引き継がれ次第に呪いとなっていく。先代達が作り上げた古の誓いは私達は疎か貴様ら自分たちの首を絞める物となっていった。」
そんなことは分かっている、穢れた血の一族は‥‥元はただの辺境の土地に住んでいた小さな貴族だ。先代達が作り上げた誓いは最初こそ守られていたが二世‥‥三世となっていくうちに変わった。行き過ぎた衝動は誓いを壊し、代償を支払って作り上げられた神聖なる儀式を穢していった。
「君が先代を恨み続けて、私達の中から復讐をする為の人材を探し、魔へと堕として使役する。回りくどいやり方だが‥‥それゆえに他の者達には気づけない。」
「だがお主は気づいてしまった‥‥さすが本家エルダー卿の隠し子‥‥褒めておこう、だが私の予備の器を殺したのは頂けない‥‥さぞや胸が痛んだろうよ? まだ自覚もしておらずそこらに居る村娘と何ら大差はなかったからなぁ。」
赤毛の少女をこちらの世界へと連れ込むことは出来ない、他にやり方があったかもしれないが手っ取り早く私だけが血で汚れるにはそれしかなかった。今でも覚えている、君が乗り移る為に埋め込んでいた赤い宝石を引きずり出す時‥‥悲痛な悲鳴と痙攣し暴れる小さな身体を。
「君の器はもうないはずだ、いい加減にこの馬鹿げた呪いを終わらせよう、いくら呪った所で今の君に先代を殺す事は出来ないし、私が殺させたりしない。」
「確かに器はもうない、ならば私が出るしかないだろう? 不特定多数の人間の私怨を晴らし続けいくらその身を血と暗い魂で染めたお前とて私を殺す事は出来ない。ようやく我々の側に来たからこうやって話せている事を忘れるな若造。」
赤毛の少女の足元に、辺りを転がるフリアイア達や臓物から流れ出て来る血が集まり始める。
「こんなことは馬鹿げている‥‥」
「復讐の為ならばこの世界が血で染まろうとも構わん、お主のような若造に私の4000年の恨み‥‥分かる訳がない」
赤毛の少女に集まる血は、人の形を作り上げていく。人の形をした血は赤毛の少女抱きしめ溶け込んでいく。
「ようやく復讐の時‥‥4000年の長く苦痛の時間は今をもって終わりを告げる。」