第9話 妖怪講座2時限目
天童のことを誤解してた俺はかなりへこんだ。あいつが気づいてたのかどうかは分からないが、俺としてはものすごく自分が嫌になる。あんな良い奴を人殺しのクレイジー野郎だなんて……クレイジーは俺だよチクショー!
烏丸さんはそんな俺の肩に手を置きにっこりと微笑んでくれた。
「まあ、彼の誤解がとけたからそれでいいじゃないか」
「はい……」
「よし、じゃあ次はミイナちゃんの番だね。彼女にひどく当たられただろう?」
「……!!」
何で知ってるんだ?いや、これは知っているというよりお見通しと言う顔だな。どういうことだ?
「ええ、美樹ちゃんに優しくて美人だって聞いてただけにかなりショックでした」
「ははは……悪く思わないでね?彼女は畜生系の妖怪でもかなり特殊なタイプなんだ」
「チクショウ系?」
なんだそりゃ?妖怪にも系統とかあんのか?ていうか特殊なのは十分知ってるよ。だってCP9だもん。素手でコンクリと俺のハートをぼこぼこにへこませたもん。まあ、さすがの烏丸さんでもその辺りの事は知らないだろう。ていうか知らないでいてほしい……
取り合えずそのチクショウ系というのがなんなのか聞いてみよう。
「なんです?その、チクショウ系って?」
「うん、妖怪を為す理由は大きく分けて3っつある」
はい、やってきました、お勉強ターイム。受験には全く関係ないし日常生活でも糞の役にも立たないまさに無駄トリビアだが、一応、舞台設定みたいなものだから目を通しておいて欲しい。けど、読みたくない、面倒くさい、という方は飛ばしてくれてもOKだ。例によって、俺が後でかいつまんで説明するから。それじゃ、はりきっていきましょう。
――よく分かる妖怪講座・パート2――
妖怪がこの世に誕生する理由は大きく分けて3つある。この理由から妖怪を3つの系統に分けることが出来るんだ。
1つ目は人間とそれ以外の種族が交わり生まれてきた子供。これが精霊系。天童君のような鬼や神と呼ばれるものは大体がこれにあたる。有名どころでいくと妖狐族と人間のハーフ、陰陽師・安部晴明もそうだ。こいつらはもうほとんどがとんでもない力を持っていてね。天変地異を起こすことなんて朝飯前だろう。これは戦士とか勇者というよりはっきり言ってラスボスとか裏ボスの域だね。ただね、残念なことに女の子はめったに生まれないんだ。だから、あんまり興味ない。
2つ目は人間が自然の力を取り込み妖怪化したもの。これが超人系。ぼくら天狗や雪女とかがこれに当たるね。たいした力は無いけどちょっとした超常現象ぐらいならおこせるね。まあ、簡単に言えばレベルの低い賢者みたいな妖怪だと思ってもらえばいいさ。
ちなみに3丁目のスノーランドっていうスナックのママさんも雪女だよ。白雪っていうのが源氏名で本名は緑ちゃんっていうんだ。いや、まだ24歳なのにもうしっかりとママさんできてるんだから凄いよね。胸とかお尻さわってもあんまり怒んないし、優しくしてくれるし、いい子だよ。人間のキャバ嬢もあのくらいクオリティ高かったらいいのにな。あの子達が高いのはプライドと要求してくるブランド品のお値段だけだもん。
あと、ついでに言っておくけど天狗族は最悪だよ。何が最悪って頭がおかしいんだよ。掟だかしきたりだか知らないけどさ、修行と称して子供を滝つぼに落としたり、素手で熊と喧嘩させたり、猛毒きのこ食べさせたり、一ヶ月絶食させたり……しかもそれで何が出来るようになったと思う?人よりちょっと運動神経がよくなって軽い超能力が使えるようになっただけだよ。女にもろくな奴いないしさ。1丁目のクラブ・八部衆にカルラって言う名前の天狗族の子がいるんだけどね。この子は凶悪だわ。何せ僕がちょっとチュウしたら本気で怒って僕のこと殺そうとしたからね。ホステス失格だよ。あんなの。
3つ目は自然に生きる生き物が長い年月を経て人語を解し人間に近づき妖怪化した畜生系。有名なところでは狐や狸のような人を化かすものや鎌イタチのようにちょっとしたいたずらをしかけるものとかがそうだね。これはもうピンきりでね。例えるのが難しいな……まあ十人十色って言葉があるように色んな奴がいるのさ。
身近なところで例えると4丁目にCAT&DOGていうキャバクラがあるんだけどね。ここにはたくさんいるんだよ。畜生系の妖怪。まずは妖狐のユリちゃん。この子はちょっとS入ってるんだけどね……いいんだよ、それが。それに、一人称単数が「僕」っていうのもなんかかわいいしね。二番手は犬神のジュリーちゃん。いいよ、この子は。犬の妖怪だけあってなんでもゆうこと聞いてくれちゃうもん。彼女は尽くすタイプだよ。最後にミイナちゃんと同じ猫又のサクラちゃん。店の中じゃ冷たいんだけどね。実は結構甘えん坊なんだよ。いわゆるツンデレって奴なのかな?どういうことかというとね……いや、これ君にはまだ早いからだめだな。
というように妖怪は大きく分けて3つの系統があり、それぞれの系統の中でも色々な一族がいるんだ。分かったかな?
――以上、ダメ妖怪による無駄話のコーナーでした――
うーんと……烏丸さんの話を訂正し無駄な部分をカットすると、先輩は猫が長生きして人間に近づき妖怪化したということなんだが……それはちょっとおかしいぞ。
「あの……烏丸さん。ミイナは一体何歳で妖怪化したんですか?」
「……!!君鋭いね……」
「まあ、無類の猫好きですから……」
「なるほど。お察しの通り猫又という妖怪も他の畜生系の妖怪と同様に長生きした猫がなるものだ。まあばらつきはあるけど大体10歳ぐらいが平均で……遅いものだと30歳ぐらいかな?」
「ええ!?」
まあ猫好きではない方には俺が一体何をお察しなのか、そして何をそんなに驚いているのか、分からないと思うのでご説明しておこう。
猫と人間の歳のとりかたは全然違う。猫年齢10歳というと人間で言えばもう50過ぎの中高年にあたる。そして猫年齢30歳といえば人間の……何歳になるんだ?そんな長生きした猫いねえだろ!?っていうぐらいすごい歳だ。
30歳の猫なんてのは絶対ありえないとして先輩は一体何歳だ?10歳ぐらいの猫ならけっこうざらにいるけど、それが人間になったってんならどうしてあんなに若々しいんだ?もっとおばさんのはずだぞ。
「烏丸さん。もう一度聞きます。ミイナは一体何歳の時に猫又になったんですか?」
「生後約10ヶ月だよ」
人間で言えば大体14歳ぐらいか……美樹ちゃんの情報とも合致するな。けど、かなり早いな……ていうか早すぎる……あ!
「もしかしてそれが特殊な理由ですか?」
「いや……まあそれもそうなんだけど問題は彼女が人間の姿をしているということだ」
「それがどうかしたんですか?」
「本来、猫又という妖怪はアニメに出てくるような、喋るだけの尻尾が二つに分かれた二足歩行の猫なんだ。まれに神通力と呼ばれる超能力を持った猫又が人間に化けることはあるが……それでも尻尾があったり耳が猫だったりと完璧には化けれない」
俺はむしろその不完全な姿の方が良かったな……
「でもあの子の姿は完全に人間の女の子でしたよ」
「それなんだよ。あれでは猫又というより化け猫に近いかな」
「どう違うんですか?」
「猫又は言ってしまえばただ長生きしただけの喋る猫で、そのほとんどは人畜無害だ。だが化け猫は違う。猫又がさらに長い年月を経てその姿を変えたり、強い思いが猫を化け猫にしたりと発生原因はまちまちだが共通する特徴が二つある。一つは完璧な人間の姿にばけられるということ。もう一つは人間に強い憎しみを持っているということだ」
「……!!あの子が?どうして!?」
「前に飼われていた飼い主にひどい捨てられ方をしたんだ。殴られ蹴られ叩かれて「出てけ化け物!!」と言われて追い出されて……それで彼女は妖怪になってしまったんだ」
猫が飼い主に捨てられるなんて話はざらにあるけどそれはちょっと……
「ひどい話だろ?おかげで今でもそのことを根に持っているのか、僕ら妖怪には優しいのに人間を見るとつらくあたるんだ。前の管理人さんなんて顔を合わせるたびに化け猫モードになってたからね。きっといまだに人間が許せないんだね」
……何かおかしい。烏丸さんはウソをついているようにも見えない。でも何か間違ってるような気がするのはなぜだ?もしかしてあれか……前の管理人さんが藤崎さんだから……だとしたら……
「どうかしたのかい?」
「いえ、あの子の人間嫌いは案外簡単に直せそうだなって思いまして」
「ほう……今度の管理人さんは実に頼もしいね。それではお手並み拝見といこうか」
「ええ、任せてください」
俺の考えが正しければ先輩は人間を憎んでなんかいないはずだ。きっとね……
まあ、それはさておきだ……
「烏丸さん、一つ言っておきたいことが……」
「なんだい?」
「お前仕事しろよ!」
「え?え?何を急に言い出すんだ?」
「前回突っ込むの忘れたから今言っておくけど、何天童に任せて自分はパチンコしたりキャバクラ行ったりしてんだよ!仕事は!?」
「ちゃんとしてるさ。大学の助教授の仕事は……」
「妖怪警察の方だよ!」
「大丈夫、天童君がいるから」
「おめえは本当いらねえな!!大体なんだよ今回の妖怪講座!無駄になげえんだよ!!」
「いや、ああゆうまじめな部分は結構みんな飛ばしたと思うから……」
「どこがまじめな話!?最初と最後だけじゃん!!真ん中丸々キャバクラ食べ歩きマップじゃん!!風俗情報誌じゃん!!」
「君にも分かるように説明したつもりなんだがね……」
「分かるわけねえだろ!!俺はまだ15なんだよ!!酒も飲めないし、そういうお店にも行けないの!!あんたと一緒にしないでくれる!?凄い不愉快だから!!」
んだよ、こいつは!!何でわやかな顔して頭の中はエロいことしか考えてないんだよ!!何?ギャップ?ギャップのつもり?だったらいらないからね!!そんなの!!
「まあ、話を戻すけど……」
なんだよ急に真剣な顔になって。そんな顔しても、もう俺の中にこびりついたエロ妖怪というあんたのイメージは消えないよ。
「ミイナちゃんのこと本当に頼むよ」
「え……?」
「このままじゃ彼女一生暗い闇の中で1人寂しくすごすことになる。そんなの悲しいだろ?だから、彼女を闇の中からひきづり出してやって欲しい」
なんだよ……エロ妖怪のくせして結構いいこと言うじゃ……
「そして、彼女を立派なキャバ嬢に……」
「するかボケ!!」
やっぱ、こいつだめだわ……チョイ悪どころか最悪オヤジだ……