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最終話 徒然荘の管理人

 異界から出て人間界に戻ると、春先のまだ冷たい風が桜の花びらを乗せて俺たちの前を通り過ぎた。やっと終わった。そう、思うとどっと疲れが出るけど、まだだ。学校の先生も口をすっぱくして言ってたからな。家に帰るまでが遠足です。あれと同じだ。徒然荘に戻るまでが本編だ。


 そんな事を考えながら神社の石段を降りていると、曇ったメガネを吹きながら烏丸さんが独り言のようにつぶやいた。


「それで、管理人を続けて君はどうする気なんだい?」

「百鬼と夜行……この二つの組織の目指している所は、結局どっちも人間と妖怪の共存なんでしょ?ただ、やり方と考え方が違うだけなんだ」

「ふむ。それで?」

「決まってます。二つの組織を一つに戻すんですよ」

「……!!ほほう……それはまた、大きく出たね」


 商店街に差し掛かった所で今度は天童がタバコに火をつけながら聞いてきた。その声は周りの雑踏にかき消されそうなほど小さく、だがはっきりと聞こえるほど鋭かった。


「だがよ、良平。それは生半可なことじゃないぜ?どうする気なんだ?」

「いや、簡単だよ。お前が百鬼衆の連中を全員ボコりゃいいだけだ。そうすりゃ、人間に危害をくわえる妖怪はいなくなる。自然と夜行の存在理由もなくなる」

「はは……簡単に言ってくれるぜ。だけど、それならもう百鬼夜行を再び作り直す必要なんて……」

「いや、ある」

「……?」

「人間に危害をくわえる妖怪はいなくなっても、その逆はどうか分からない。人間は自分より弱い者を見るとすぐに傷つけたがるし、自分と違うものを持つ者の存在を許せるほど寛容じゃない。それぐらい臆病なくせに残忍で、しかもそれが正しいと言い張る愚かな生き物だ」


 俺の頭の中には友姫と窮奇を追い詰めて殺そうとした鎌鼬の里の人間たちの姿が、CMの何回も何回も同じ映像として流れていた。天童はそれを読み取ったようにつぶやいた。


「みんながみんな……あんな奴らとは限らないさ」

「そうだな……人間の俺が人間の事を信じてやれなきゃ話になんねえか……」


 だけど、もし今ここで俺が「ここにいる二人は人間じゃなくて妖怪だ」と言って、それを信じたと仮定したら、この商店街で買い物をしている人たちやお店で働いてる人たちの中で一体何人がこの二人の存在を許してやるだろう……

 いや、人間は俺が思っているより愚かじゃない……そう、信じるしかないんだよな。


「そんな事より、良平。問題は百鬼衆の妖怪どもだ。俺は何回かやりあった事あるから分かるんだけど、あいつらマジでやばいぞ?あんた、大丈夫なのか?」

「平気だよ。だって、お前はそんな奴らに負けるほど弱くないだろ?」

「えぇ……全部、俺任せで、しかも勝つ事前提かよ……」

「なんだよ?不服なの?」

「いや、最高だ。俺は誰かに指図されるのは嫌いだが、あんたの下なら一生ついていってもいいって気がするよ」

「そうかい。なら、頼りにさせて……」


 ん?待てよ?こいつ確か妖怪警察の仕事の他にもYAKUZAなアルバイトをしていたけど、まさか上とか下とかそっち関係の事じゃ……


「任せとけ、良平!仕事は俺が教えてやるよ。まず、新入りは薬の売買からだな」


 って、やっぱりそっち方面!?ていうか、新人にドラッグの売買なんてさせるの!?結構ハードル高いな、おい!!お願いだから俺をそっちのアナザーワールドに引き込まないでくれよ!!


「あ……」


 そんな話をしているとあっという間に徒然荘に到着し、俺の帰りを待ちきれない女の子にばったり出くわした。大きな瞳に大粒の涙を浮かべたこの子は、俺が管理人をやめたらどうする気だったんだ?まさかそれでもずっとここで待っていたんじゃないだろうな……?


「管理人さん!!」


 でも、先輩らしいと言えば、らしいか……


「すいません、遅くなりまし……」

「〜〜〜!!」

「先輩?」


 先輩は声にならない声で泣いて、俺に抱きついて、上目遣いで見つめてきた。分かってる。この仕草をする時は何をして欲しいのか、俺は知ってる。先輩の一番、好きな事。

 俺は彼女をそっと抱き締め、一つ分小さなその頭を優しくなでて上げた。先輩は猫のように嬉しそうな鳴き声で泣いた。全く、かわいい人だ。


「良兄……本当に良かったの?」


 そんな俺を友姫が心配そうに見つめてきた。俺は兄として恥ずかしくないよう、そして心配をかけないよう、これ以上ないぐらいりりしい顔で微笑んで見せた。


「心配ない。たとえ、百鬼衆の奴らが襲ってきても、こっちは金棒ならぬ妖刀装備した鬼がいるし、俺だってちょっと頑張れば少しぐらいの戦力にはなる。少なくともお前達を守れるぐらいの、な」

「あ、うん……ありがと……でも」


 あれ?かなり、決まったと思ったのに意外に友姫の顔は冴えないというか、嫌じゃないんだけどというか、そういった感じの微妙な反応だ。


「あたしが言いたいのは……それもあるけど、あの……」

「……?」


 微妙な顔の友姫の視線の先には……


“ビュオオン!!”


 恐ろしい速度で金属バットを素振りする、ピンク色の着物を着た金髪の美少女がいた。


「私よりも先にミイナちゃんにハグをした良平君!!この鋼のムチの攻撃力を試したいので、後で私の部屋に着てくれますか!?てか、来い!!」


 いいいぃぃぃ…………やあああぁぁぁ…………

 おいおいおいおい!!ふざけんなよ!!なんだよこれ!?生徒指導室にご指名されるより絶望的だよ!?だって、あんなものでぶっ叩かれたら1500秒どころか15秒で惨劇確定だよ!!ていうか、それムチじゃねえよ!!どうみてもメタルキングの棒だよ!!


「離れて、離れて、先輩!!玉希ちゃんが凄い怖い顔でこっち睨んでるから!!」

「にゃ〜(訳:や〜、もっとベタベタ、いちゃいちゃする〜)」


 嬉しいけれども!!あんた俺に死んで欲しいの!?すぐそこに百鬼衆の鬼より恐ろしい鬼嫁がメタルキングの棒で素振りしてんだよ!!勘弁して欲しいんだよ!!


「全く……」


 そんな状況を見かねたお菊さんが、子ネコをあしらうように先輩の首根っこを掴んで俺から剥ぎ取ってくれた。


「お菊さん……」

「これからはよろしくね、管理人ちゃん・・・

「はい……ん?ちゃん!?」

「あんたはまだまだ子供だから管理人ちゃんだよ」

「そう……なのかな?」

「そうさ。そして、あたいの事はお母さんだと思って甘えてくれていいからね?」

「お母さ……」


 母親・・のいない・・・・俺にとっては何だか嬉しいような恥ずかしいような……え?第1話や回想にシーンに出てきた女の人?さあ?知らないよ?単なる放送事故じゃないの?


“ツンツン”


 いつの間にか鬼桜から出てきた美樹ちゃんが一枚のメモを渡してきたそのメモには立った一言だけ俺へのメッセージが書かれていた。なんとも子供らしい純粋で素朴でそれでいて味わい深い……すまん、少々親バカが入ってしまった。とにかく俺は美樹ちゃんの頭をなでながらみんなに言うようにその返事をすることにした。


「ふ……ただいま」

「「「「「「おかえり!!」」」」」」


 ふふ……やっぱ、帰るべき家と迎えてくれる家族がいるってのは悪くないもんだ。だから、たとえどんな強敵や災難がやってこようと、俺はこれからも徒然荘の管理人を続けて見せる。ずっと、みんなといるために……そして、人間と妖怪が平和に暮らせるために……


 と、主人公らしく締めたいところなんだけど、本音を言えば管理人をやめなかった理由は別にある。それは……


「おにいいぃぃちゃああぁぁん!!」

「うわ、オッシー!?どうした!?」


 我が家のちびっ子エンジェルがダッシュ&3回転半ひねり抱っこというウルトラCの技で俺の胸に飛び込んできた。


「あのね、みんなが変な事いうの!お兄ちゃんが管理人をやめるって……そんな事ないよね!?」

「ああ……やめないとも。俺はずっと管理人さんだよ。だって、俺には使命があるからな」

「使命?」

「ふふ……なあ、オッシー?今夜の晩ご飯は何がいい?」


 返答など分かりきった質問だが、一応ね?そしてその返事はやっぱり……


「オムライス!!」


 そう、俺は今日のMVPに大好物を作らなきゃいけないんだ。でも、その大好物を食べている時の幸せそうな顔を見れるなら、たとえ命をかけたっていいと思えてしまう。だから、俺は徒然荘の管理人をやめる事はないだろう。人間と妖怪のために……という大それた理由ではなく、単にこいつの……いや、こいつらの笑顔をもっとたくさん見たいから。


――おしまい――


「オッス!!送り犬、改め、遅れ犬のポチ様だ!!なんかあいつの投げた骨っ子探してたら、最終回に間に合わなかった……俺様本編じゃ一回しか出番なかったような気が……けどよ!!番外編じゃ俺や兄弟クロの出番もあるから楽しみにしてな!!て〜な、訳で次回の喜奇快怪DC版は……」


『番外編・犬と狐とポジションと……』


「楽しみにして待ってな!!」


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