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第82話 自己紹介しよっか

 俺は微笑みながらも涙を流す友姫の頭をそっとなでた。これぐらいしかしてやれない。窮奇にはああ言ったけど、今の俺にはどうしていいか……分かんねえ……だが、それは俺だけじゃなかった。

 天童はその場にしゃがみこむとタバコに火をつけ天を仰ぎ、玉希ちゃんは泣きじゃくる先輩を優しく抱き締め頭をなでていた。お菊さんは疲れきったように木に背中を預け、烏丸さんも涙で濡れたメガネを拭いていた。

 みんな……さっきの映像を見ていたんだ。そして、みんながみんな友姫にかける言葉を模索していた。そして、その言葉を最初に見つけたのは……


「そう言えばさ……」


 天童だった。


「まだ、ちゃんと自己紹介してなかったよな……」

「え……」

「俺の名は天童修司。種族は夜叉。悪さをする妖怪を懲らしめる天龍八部衆の一角、二代目・酒呑童子夜叉王丸様だ……」

「あの……」


 そんな事は言われなくても知っているのに……そんな顔をした友姫を尻目に天童は自己紹介を続けた。


「まあ、大した人生送っちゃいないけど、変わった事と言えばあれかな……?生まれたその日に実の父親が母親を殺した……」

「……!!」


 それはこいつが思い出したくもない辛い過去だった。思い出したくもないから、口にも出したくないから、俺にも話してくれなかった自分の過去を、天童は淡々と語り始めた。


「そんでもって、腹違いの兄弟が俺を育ててくれた義理の親父と初めて出来たダチを殺しやがった……だから、復讐した。そう、俺はこの手で自分の一族郎党皆殺しにしたのさ」

「修兄……」

「似たもの同士仲良くしようぜ?」

「うん……」


 友姫が笑顔で頷くと、天童は自嘲気味な笑みを浮かべてそっぽを向いた。たぶん「なにやってんだか……俺は」とか思ってんだろうな。まあ、仕方ねえよ。お前は女の子が辛そうにしてるのを放っておけるほど器用じゃないから。

 でも、そんな不器用な奴は天童だけじゃなかった。天童の思わぬ言葉に呆然としている友姫の肩を叩く先輩がいた。友姫が振り返ると、先輩はさっきまで泣いていたとは思えないほど満面の笑みを浮かべた。


「猫又の藤崎ミイナだよ♪」

「……?」

「ミイナはね、前は飼い猫だったの。ご主人様はすごいかわいい女の子で、ミイナずっとご主人様と一緒にいたいって思ったの。そしたら、ご主人様と同じ人間の女の子みたいな姿になれたの」

「そう……なんだ」


 嬉しそうに自分の幸せだった頃の過去を語る先輩を、友姫は「どうしてそんな話をあたしにするの……?」と言いたげな顔で見つめていた。それは、すぐに分かるさ。先輩のその後の話を聞けばな……


「でね、ミイナはある日、思ったの。大好きなご主人様に何かしてあげたい、って。それでね、プレゼントをあげたの。ミイナが頑張って探して、捕まえたプレゼント…………」

「……どうしたの?」

「ご主人様は悲鳴を上げてゴミ箱に捨てちゃった……それで…………ミイナの事もぶって…………でてけ、バケモノって…………そのプレゼントはねご主人様の嫌いな物だったの…………」

「ミイ姉……もういいよ。もう分かったから……」


 涙を流して抱き合う友姫と先輩は、生き別れの姉妹のようにも見えた。その姉妹の頭を玉希ちゃんが愛情に満ちた暖かい手で優しくなでた。


「私は坂本玉希。妖狐族の次期頭首となるものです。友姫ちゃん?お姫様に幻想に抱くのは自由ですが、実際にお姫様をやっている者から言わせてもらえば、大変な事もあるのですよ?」

「そうなの……?」

「ええ、周りの期待は裏切れないし、かといって周りに染められれば自分の色を見失うし……あなたが想像するように何をやっても許されると言うものではありません。むしろ、何をやっても許されない感じが多々ありました」

「そうなの……?」


 なあ、玉希ちゃん……その多々あった許されない物の中に、俺への詐欺未遂や、殺害未遂や、ドメステックヴァイオレンスは含まれなかったの?


「それに……」

「それに……?」

「そんな生活に色々ストレスがたまって、幼少の頃に母と別れた父を探し、見つけ、いざ会いに行って見れば、その人には新しい家族がいて、母とは遊びだっただの、消えろバケモノだの、ひどい事を言われる始末……」

「……!!」

「お姫様と言っても所詮は井の中の蛙の如し。妖狐族の外に出れば、実の父親から見てもただのバケモノなのですよ」

「玉姉……」


 天童にも先輩にも玉希ちゃんにも、なぜか徒然荘の住人には悲しい過去があった。いや、徒然荘の住人じゃない人にもだ。


「あたいもね……」


 そう、お菊さんにもだ。


「あたいも、江戸時代……まだ人間だった頃、旅籠に奉公にでて、そこの若旦那とそれは燃え上がるような恋をしたんだ。子供まで作ってね。けど……子供が出来た途端に見知らぬ連中に半殺しにされて川にポイ捨てさ。まあ、身分が違うから仕方がないっちゃ……し方がないんだろうけど……ね」

「お菊さん……」


 半殺しか……いや、たぶん本当に殺されたんだろう……そして、その時の怨念や執念やらで妖怪になったんだ。だから、お菊さんは……


「だからかね……その時、産んでやれなかった坊やの代わりじゃないんだけど、親に見離された子供、ひどい仕打ちを受けた子供、かわいそうな子供を見ると放っておけなくなっちまうんだ。そう……ちょうど、あんたみたいなね」

「お菊さん……」


 やっぱり……


「僕にも辛い過去があるんだ」

「え、オジサンにも……?」

「ああ……と言っても君ほどじゃないがね」


 烏丸さんにも天童達のような辛い過去が……?これは正直言っちゃ悪いけど、意外だ……


「僕もね……」

「うん……」

「しょっちゅう、お巡りさんに捕まるんだ。わいせつ物陳列罪でね♪」

「へ……」


 もういい。黙れ、烏丸へんたい。お前のは100%純粋な自業自得だ。みんなと一緒にするな。


「最後は俺の番か……」

「良兄……」

「俺は加茂良平。種族は人間。まあ、みんなと違って、これと言って大した過去はないんだ。マジでのほほんと暮らしていた、ただのつまらない人間なんだ……」

「それでもいいよ……」


 友姫は笑ってうなずいてくれた。けれど俺は、何だか逆に申し訳ない気持ちでいっぱいなった。別に不幸自慢をすりゃいいってもんじゃないけど、それでもこいつの悲しみを少しでも……そう思った時、助け舟を出してくれたのが天童だった。


「いや、良平は頑張ってるよ……」

「え、そうか?」

「ああ……この中で一番辛い思いをしているのに、それでも負けずに生きている!なかなか真似できねえさ」

「え?俺そんなに頑張った事あったっけ?」


 何かそこまで言われると逆に恥ずかしいっていうかなんて言うか……


「ああ……まず、高校落ちたのに生きている!!」

「て、おい。怒るよ、天童君?」

「そして、家を追い出されても生きている!!」

「殴るぞ、貴様……」

「さらにさらに、殺されても生きかえる!!」

「ぶっ殺されてえのか、てめえはよ!!何だ、その言い方!?高校落ちたのに生きてちゃ悪いの!?じゃ、何!?受験に失敗した人は全員死刑ですか!?家を追い出されたら、死刑ですか!?殺されたら……って、よく考えたら殺したの、てめえじゃねえか!!」

「いや、あれは事故だよ」

「ふざけるな、クソボケ!!あんな故意と敵意と殺意に満ちた事故、聞いた事ねえよ!!しかも、人のこと殺しておいて何、葬儀の段取りしてたんだよ、てめえは!!」

「やー……あれはもう無理かなー……って思ってつい」

「つい、じゃねえだろ!!お前ちゃっかり主人公の座、狙ってたじゃねえか!!」

「うん、今回は失敗に終わったけど、次回は頑張るから勘弁してくれ」

「頑張るな!!そんなもん頑張らなくていい!!頑張るのを勘弁してくれ!!」


 んだよ、こいつは!!なんでこんなに空気読めないの!?今はそういうギャグパートじゃないって分かってるでしょ!?


「ぷっ……あははは!!」

「友姫……?」

「ごめん、良兄。でも、二人ともあんまりにもおかしいからつい……」

「いや、いいんだ……お前が笑顔になってくれたらそれで……」


 そう、俺の犠牲なんか安いもんだ……

でも、やっぱ俺たちには湿っぽい話や堅苦しい話より、こういうグダグダな感じが性に合ってるな。うん、これでこそ徒然ファミリーだ。


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