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第80話 友姫・其の二

 辺りは夜だった。電灯もないような山奥の田舎の農村……そんな感じの場所だ。そして、その村の外れに位置する大木を背に血まみれの


「はぁ……はぁ……」


 窮奇がいた……窮奇と大木の間には何かに怯えるような友姫がいた。さっき見た映像から何年かたったのだろう。もう赤ちゃんじゃない。幼稚園児ぐらいの背丈にはなってる。


「ご先祖様……大丈夫……?」


 心配そうに窮奇の体に何かの塗り薬を塗る友姫……すると、塗った箇所の傷が一瞬にして治っていった。あれは妖怪の秘薬か何かなのか?

 この頃はまだ窮奇はそんなに嫌な奴じゃなかったのか……しかし、なぜ、傷だらけなんだ……?誰に、どうして、つけられたんだ……?


 頭の中をぐるぐるかけめげる謎は一向に解けない。分からない。泣きそうな友姫やそれを温かい顔で見守る窮奇を見ると、これは本当に過去の映像なのか?とさえ思えてくる。

それらの疑問が次の瞬間、一気に解決した。


“ドサ”


 窮奇と友姫の前に投げ捨てられるような形で放り出された二人の男女。それは間違いなく、変わり果てた友姫の両親だった。


「あ……ああ……」

「ち……!!」


 言葉を失う友姫と舌打ちをする窮奇の周りをぐるりと大勢の村人が取り囲んでいた。その手には死神のような大鎌……鎌?まさか、ここは……


「さぁて、と。カマイタチの里の皆さんよ。説明してくれないか?」


 やっぱり!ここはカマイタチの村だったんだ。


 昔、何かの本で読んで事がある。カマイタチという妖怪は親子三人で人間にいたずらをする妖怪だと。まず、母親が転ばし、父親が鎌で切り裂き、子供が薬を塗って傷を塞ぐ。それはまるで、ジェットストリームアタックのような早業で、斬られた人間は痛みも感じず、斬られた事すらも分からないのだという。


 さっき、友姫が窮奇の体に塗っていたのはカマイタチの子供が持つ、どんな傷も一瞬で治す塗り薬だ。つまり、友姫は窮奇の末裔であると同時に妖怪・鎌鼬カマイタチでもあるということか。しかし、なぜ鎌鼬の里のみんなは友姫達を……まさか……


「それは……」


 まるで、俺の疑問に答えるように、一人の老人が前に出て窮奇の問いかけに答えを返した。


「それは、説明せずともあなたが良く分かってらっしゃると思うが?窮奇殿よ……」

「おいおい、じいさんよ。俺より年下のくせしてもうボケたの?俺は分かんねえから説明しろっつてんだ……」

「はて……?何が分からぬと……?」

「なぜ、そいつらが死ななければならない!!なぜ、こんなガキんちょがてめえら全員に命を狙われなければならない!!こいつが一体何をした!!」


 言葉がでねえ……正直そんな気はしていたが……窮奇は友姫をかばって……その理由も見当はついてるけど、見たくも聞きたくもないけれど、俺はこれを見なきゃいけないんだよな……


「お答えしよう、窮奇殿。我らがその子の命を狙うは、その子の持つ恐るべき力が所以ゆえんなり。その子の持つ百殺眼びゃくさつがんの力……解き放たれれば、いずれこの里……いや、この浮世の全てに災いをもたらすであろう。そうなる前に……」

「おい、クソガキ・・・・。もう一度だけ言ってやるからよーく聞け。こいつが一体何をした?何にもしてねえよな?」

「そ、それは……」

「力がある?だから危ない?だから殺す?なるほどなぁ。だったら、てめえら全員今から飛行機乗ってアメリカ行って大統領にでも喧嘩売って来い。あの国は核弾頭っていう恐ろしい力を地球がぶっ壊れるぐらい大量にもってるからな。あ〜恐い恐い。俺にはとてもじゃないがそんな恐ろしい大国に喧嘩を売る真似はできねえが、この世界の行く末を案じて、力を持っていると言う理由だけで!!何の罪もない!!か弱い少女を!!村ぐるみで一家丸ごとぶっ殺そうという勇敢なお前たちになら!!……余裕だろ?」


 ふ……ふはは!!窮奇め、気持ちいいぐらい悪だな。いいぞ、もっと言ってやれ。


「もうよい、窮奇殿……」

「何がいいんだ?」

「そこをどいてくだされ。あなたまで巻き込むつもりはない」

「おい、こいつ今なんて言った?誰か通訳してくれよ。え?何?俺が恐いから自分でも勝てるちっこい女の子だけ殺させてくれ?なるほどね……」

「く……そこまで我らを侮辱するか……ならば仕方ない。そなたも……」

「なら、取引をしないか?」


 窮奇の顔が邪悪なまでに笑った。


「取引……ですと?」

「そうだ。この首、貴様らにくれてやる。だから、このガキは勘弁してくれ」

「…………」

「悪くない話だろ?四凶の一角を討ち取ったとなりゃてめえらカスイタチ……じゃなかった。妖怪たちの間で鎌鼬の評判もぐっとあがるぜ?少なくともよってたかって少女をなぶり殺したって話よりはプラスになるんじゃないか?」

「なるほど……よいでしょう、窮奇殿。その申し出、お引き受けいたす」

「恩にきるぜ」


 どこまで……どこまでムカつく連中なんだよ、こいつらは!!自分たちじゃ敵わない窮奇の相手はしたくない!!友姫に危ない力から両親ごと殺す!!そしていざ、窮奇が手出しはしないと言えばこれか……


「者共……かかれい!!」

「ふ……」


“ドスドスドス……”


 無慈悲にも闇色の刃が窮奇の血でその体を赤く染め上げていった。だが、体に無数の刃をつきたてられながらも、窮奇は凛と立っていた。それは怪物と呼ばれた妖怪には見えず、けれど神獣というには禍々しく、子を守る父親の背中のようだった。

 しかし、さすがの窮奇でも手加減なんて一切しない攻撃の嵐にとうとう倒れた。それでもその顔は満足そうだった。


「こ……これで友姫は……」

「さて、次は子供の番じゃな」

「……!!おい、てめえ……」

「悪く思うな、窮奇殿。これも世のため、人のため、そして全ての妖のためなのじゃ……」

「へ……何が世のため人のためだ……笑わせるな。正直に言えよ。自分達が恐いからだってな」

「……黙れ、窮奇よ」

「おーおー……死にかけになった途端に強気じゃねえか……だがよ……もし……こうなる事も俺は計算ずくだった……つったら」

「負け犬の遠吠えか?窮奇ともあろうものが見苦しい。しかし、怨まんでくれよ。我らは間違った事は何もしておらん」


 言うに事書いて……よくもまあぬけぬけとそんな事が……


「ああ……そうだなお前らは正しいよ……」


 窮奇?


「この世に災いをもたらすような……おっかねえ力があるなら、それを使わせないためには……力を持つ者を殺せばいい……そうすりゃ、世界は安全だ……たった一人か……この世の中全てか……天秤にかけりゃ、傾くのはそりゃ……この世界だろう……ああ……お前らは…………間違っちゃ………………」

「窮奇殿……?く……!!すまぬ!!」


 鎌鼬の連中が一斉に涙を流した。なぜ……今更?だって、お前らは悪い奴で嫌な奴で自分勝手な理由で友姫を殺そうとして、友姫の両親までてにかけ……


「せめて……友姫をこの世に産んだ自分たちに非があると思った、この二人の自殺だけでも止める事が出来れば……」


 じさ……つ?何言ってんだ、こいつ?友姫の両親を殺したのはお前たちじゃないのかよ!?


「だが……今更こんな事を言っても詮無きこと……さあ、友姫よ。こちらへ来い」

「…………ねえ」


 よせ!!行くな!!行ったらダメだ!!


「安心せよ。我らが一族の秘薬でお前には何の痛みも感じさせない……苦しい思いはさせぬ……」

「…………ちゃいねえ」

「ん……どうした?」


 あれ?友姫の様子が……まさか!!


「間違っちゃいねえって言ったんだよ、このクソガキが!!」

「その声は窮奇!!貴様、その子の体に……そうまでして生きながらえたいか!!怪物よ!!」

「ああ、死にたくはねえよ!!なにせまだ、話の途中だからな」

「なに!?」

「確かにお前らの考えは間違っちゃいねえと思う!!だが、俺は四凶の一角・窮奇!!災いをこよなく愛し、常に悪の味方をする伝説の怪物様よ!!だから!!あえて!!俺は!!てめえらとこの世界に仇なす!!」


 そうか……窮奇にとっては里のみんなよりは……いや、この世界の全てよりも、友姫の方が大切だったんだな……


「貴様……」

「さあて、お立会い!!お前らがビビリまくったこの力・・・……この世に災いをもたらすか!!否か!!てめえらの目でしっかりと見やがれ!!」

「まさか……」

「開眼しろ!!百・殺・眼!!」

「やめ……」


 一瞬。それは本当に一瞬の出来事だった。窮奇の手によって解き放たれた友姫の力・百殺眼。それは友姫の目から赤い閃光となって辺りを包み込み、鎌鼬の里のみんなを一瞬にして消し去ってしまった。


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