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第79話 友姫

 竜巻に巻き込まれて、その中心に取り残されたように、周りの景色がぐるぐると回転し、どこか別の場所に飛ばされていく。そして、やっと洗濯機の回転が収まるように、背景の超高速メリーゴーランドが終わると、俺はいつの間にか民家の中にいた。

 それも現代風の家ではない。まるで、日本昔話に出てくるようなアンティークな和室である。一応テレビとか電話もあるから、マジで日本昔話の世界に来たわけではなさそうだ。

 そしてなぜ俺は半透明なんだ…………ておいいぃぃ!!何さらっととんでもねえ事言っちゃてんのよ、俺は!!何!?まさか、また死んじゃったわけ!?おいおい、勘弁してよ……いや、待て。死んだにしてはおかしい。ここはどう見てもリバーサイド三途ではないし、カレンダーは1995年の六月だ…………


…………


………………


……………………


 マジっすか…………臨死体験の後はタイムスリップ!?何で!?全然意味分かんないだけど、マジで!!まさか、惨劇を止めるまでこの1995年から抜け出せないなんていわねえよな……?


「――――」


 ん?今隣の部屋から人の声がしたような……行ってみるか……

 ふすまをあけて隣の部屋に行こうとしたが、俺は自分の体が半透明なのを思い出し、そのままふすまに向かって歩いて行った。案の定、体はふすまを通り抜け、隣の和室に出られた。そして、その瞬間。体が凍りついた。


「よーちよち」

「おんぎゃーうんぎゃー」


 泣きやまない赤ん坊を抱きかかえる優しそうな女の人がいた。赤ん坊はたぶん、生まれたてだ。そして、この女の人は母親だ。


「なんだよ……女の子か」


 その二人を残念そうに見つめる男の人がいた。たぶん、父親だ。きっと男の子が欲しかったんだな。


「女の子だっていいじゃないですか!」

「それもそうだな。女の子でも元気な子なら……うん」


 と、ここまでは別にいい。これだけなら、生まれた赤ん坊を愛でる微笑ましい夫婦だ。しかし、この場にいるもう一人の登場人物が厄介だ。なぜこいつが……こんなアットホームな場面にいるんだ?


「ガキが一匹増えたのがそんなに嬉しいのか?」


 猫科の大型肉食獣。黄色と黒の縞模様。その四肢には天をかける巨大な翼。その名は窮奇。古代中国の怪物・四凶の一角。争いを好み、悪をこよなく愛し、平和を嫌い、善人を喰らう妖怪。それがなぜ……?


「ねえ、ご先祖様?そんな事、言わずに抱いてやって下さいよ」


 先祖?この女の人は窮奇の子孫だってのか?え……!!待てよ、じゃあその赤ん坊ってまさか……

 俺は恐る恐る、赤ん坊の顔を覗いた。予想通りだった。青い右目に赤い左目。そんな瞳を持つ少女を俺は一人しか知らない……そう、友姫だ。てか、あいつなんで生まれたてのはずなのに目開いてんだよ。


「断る。俺はガキが嫌いだ」

「そう言わずに」

「ん〜、もう……分かったよ」


 窮奇が困ったような顔で頷いき、長い尻尾で大事そうに赤子をくるむと自分の顔の前に持って行き…………


「お、おぉ……良く見るとかわいいじゃねえか……」


 にやけた。なんだよ……結構身内には優しいんだな。気色悪いぐらいに。


「そうだ。ご先祖さまが名前をつけて下さいよ。あ、女の子だから幸子とか雪子とか子をつけて下さいね?」

「じゃあ、運子」

「殺しますよ?」

「冗談に決まってんだろ。そうだな……」


 窮奇は愛くるしい友姫の顔を、我が子を愛でる母虎のようにべろりとなめ、つぶやいた。


「“友”達がたくさん出来て、お“姫”様みたいな女になれるように……友姫ってのはどうだ?」


 ま、マジか……?窮奇が友姫の名付け親だったなんて事だけで驚きなのに、俺が考えた名前と窮奇がつけた名前が同じだなんて……


「子、ついてない……けど、いいですね。友姫ちゃん。うん、素敵です」

「そうだろ?いいぞ、姫は。何やっても許されるからな」


 ああ……そうか……なるほど。こいつがここで余計な事、吹き込んだせいで友姫の中で姫のイメージが屈折したんだな。幼少期の育児って気をつけないといけないな。


「おい、ムコ殿」

「はい、なんでしょう?窮奇様」

「子育てはお前がしろ。この女にやらせたらお姫様通り越して女王様になっちまうからな」

「ハハハ……」


 父親は婿養子だったのか……てか、友姫のお母さんってそっち系な方なの?


「ご先祖様〜?」

「んだよ、メス豚」


“ドス、ドス、ドス、ドス、ドス”


 お母様の五本の指がナイフのように鋭く尖ったかと思うと、それは一瞬にして根元まで窮奇の頭にぶっ刺さった。あれの痛みを良く知る俺としては思わず首もとをさすってしまった。


「おいおーい、メス豚?子供の前でそういう行為は教育上大変よろしくないと思うぞ?」

「黙れよ、この野良猫?誰が野垂れ死に寸前のてめえを拾って養ってやってると思ってるんだ?」


 お前、野良猫だったんかいいいぃぃ!!て、ことはここでは居候か……ていうか、伝説の怪物じゃなかったの!?


「ムコ殿だ。拾ってくれたのも、キャットフードをくれるのも、散歩に連れて行ってくれるのも全部ムコ殿だ。お前は何もしてくれない」


 お前のご飯キャットフードなの!?伝説の怪物っぽく人を襲って食べるとかそんなんじゃないの!?しかもなんだよ散歩って!!お前それじゃ完全にただのペットじゃん!!猫科の大型太肉食獣じゃなくて、単なる馬鹿でかい猫じゃん!!


「しかも、たまに俺のキャットフードをディスカウントショップで売りさばく」

「あんなもん大した金にはなりません。ですから、前から言っているようにご先祖様がサーカスへ出稼ぎに行って頂いて……」

「お前、自分の先祖を何だと思ってるの?」

「金づる」

「分かった。もう、お前の事をメス豚なんて呼ばない。これからは鬼と呼ぶ」


 鬼は鬼でも鬼嫁!!もの凄い、節約術ですね!!同じ主婦として見習いたくはないけれどね!!

ん……


「な、なんだ!?」


 友姫の一家が(一部を除いて)幸せだった頃の映像を眺めていたその時、周りの景色がまたも一変し、今度は黒一色の世界に俺一人ぽつんと取り残された。いや、一人じゃない……


「さてと、だ……」


 窮奇もだった……


「これを見ているのがどんな奴かは知らねえが、そいつが俺を殺して都羽姫……いや、友姫を俺の呪縛から解放したって事だけは確かだろう」


 なるほど……この口ぶりから察するにこれはビデオレターのようなもので、こいつのしたい事は恐らく……


「さて、勘のいい奴なら俺が何をする気なのか察してくれていると思うが、今見た映像もこれから見せる全ても、それは俺が友姫から奪った記憶だ」


 やっぱり……


「まあ、言いたいことは色々あるが、まずは見てくれ。話はそれからだ」


 そして、またも景色が一変する。


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