第73話 さあ、どうする?
体の感覚が戻ってきた……手足が動く……目も見える……俺、生きてる?そうだ!!都羽姫に憑依した窮奇のように、俺の体にご先祖を憑依させて戦わせるという俺のナイスアイデアはどうなったんだ?上手くいったのか?窮奇は!?都羽姫はどうなったんだ!?……んげ!!
「あ、ああ……」
体の後ろ半分が大木にめり込んでいる都羽姫ちゃんが、まるでジェイソンとフレディを足して2をかけたようなバケモノでも見つけてしまったように怯えている。そしてその視線の先には……
「ぐぅううあああああ!!」
恐らく窮奇であろう、足に翼の生えた虎がなぜか体の下半分を失い大木に串刺しにされている。さらにその上……
「おらおら!!どうした子猫ちゃん!?」
天童が窮奇の体を串刺しにしている刀を足で踏みつけぐりぐりしている……あれは相当痛いはずだ……てか、あいつ本当に敵には容赦ないんだな……
「てっめ、クソガキ!!ふざけやがってぶっ殺して……」
「悪ぃが、遊びはこの辺でお終いだ。あばよ……」
そう言って天童は刀の柄の部分を両手で握り締めると、刀を引き抜かず、腕力に任せてそのまま上に動かした。同時に怪物の悲鳴が獣の咆哮のように木霊した。そして10cmほど動いた所で刀が止まる。窮奇が最後の力で刀を持つ天童の手を止めたのだ。
「お、おい、ガキ……取引といこう……」
「お前を見逃す代わりに、何かしてくれるっていう取引か?そりゃいい。是非しよう。それじゃ、俺の条件を言うぜ」
「ああ、なんだって聞く……」
「じゃ死ね」
次の瞬間、ブシュルワアアァァを葬ったとき同じように窮奇の体は真っ二つに裂け、それと同時に黒い炎に包まれ消え去った。古代中国の災いを呼び、争いを好む、伝説の怪物、四凶の窮奇……あっけない最後だ……
「ご先祖様……」
窮奇が死んだ事で色んな意味で自由になった都羽姫が、黒ずみと化した自分の先祖を複雑な表情で見下ろした。こいつにとってたった一人の肉親と言えば、そうだったかもしれない奴を俺たちは……
「あの、都羽姫……その……悪かっ……」
「ありがとう……良兄」
「え?ありがとう?てか、りょう……にい!?」
「うん、だってあたしを救ってくれたんだもの……これで……これで、あたしはもう誰も傷つけずに済むんだよね?」
「うん、あの感傷に浸ってるところ凄い悪いんだけど、俺が気になってんのはそっちじゃなくてその良兄て呼び方のほうなんだけど……」
「だってこれから一緒の家に暮らすんだし、あたしはまだあんたより未熟だし……だから、あんたの事、兄と思って良兄って呼ぶ事にしたの」
「えええぇぇぇ……」
「なによ、その顔!!こんな美少女が妹になってあげようってのに不満なの!?」
えっと、そうじゃなくて……そんな一緒の家とかに住まれると俺の命に関わるような問題が起きそうな気がするんです……もう、占術なんか使わなくても、女のバトルリターンズとかされそうな気がするんです……ま、いいか……
「そうだな……お前の言う通りだ。こんなかわいい妹が出来るんなら何も不満は……」
「分かればいいのよ、分かればね」
「…………その性格だけは直せないのか?」
「何よ!!あたしはお姫様なの!!だから、これでいいの!!」
「はいはい、分かりました……」
ツンデレって凄いかわいいジャンルに思えるかもしれないけど、実際に相手にすると凄い疲れます……
“ポンポン”
「何だよ、天童……」
「DV猫娘といい、ストーカー女狐といい、そいつといい、あんたって本当、変な女に好かれるよな」
「てめえ、人事だと思って楽しんでないか?まあ、こんだけ女性キャラ出てきてんのに誰にも好かれない誰かさんよりマシかな」
「………………………………死にたい」
「ごめん、ごめん、ごめん、言い過ぎた、悪かった!!」
なんでこいつはあんなに強いのに、心はこんなに弱いの!?
「そんな事より……」
「玉希ちゃん!?いつからそこにいたの!?」
いつの間にか玉希ちゃんが先輩を従え、俺の後ろに立って居た。それも、何か焦っているような険しい表情で……
「そんな事より、ここに夜行の幹部が向かっています!!」
「え……?それがどうかしたの?」
「分からないんですか!?都羽姫ちゃんは彼らからしてみれば指名手配犯なんですよ!?たとえ、窮奇に操られて罪を犯してきたと説明した所で、彼らは聞く耳など持ちません!!このままでは……彼女は殺されてしまいます!!」
「そんな……そんなのってあるかよ!!せっかく自由になれたんだぞ!!やっと、窮奇の束縛から解放されたんだぞ!?これからは普通の女の子として暮らしていけるってのに…………」
「良平君……」
「逃がそう……」
「無理です……忘れたのですか?ここは異界。人工的に作られた世界だということを。例えこの場から離れても、この異界ごと消されてしまえば……」
「なんとか……なんとかならねえのか……?」
「夜行の幹部が動いたとなれば、例え妖狐族の次期頭首たる私の力を持ってしても……もう…………」
「ちっくしょおおぉぉ!!」
拳が、右手の拳が砕け散らんばかりに地面を殴りつけた。痛みすら感じない。ただ、ひたすら悔しさがこみ上げて来る。そんな時……
“シュボ……”
100円のライターがタバコに火をつける音が聞こえた。
「おい、良平。ひょっとして、俺の事、忘れてない?」
「天童……?」
「そんなもん夜行の幹部をぶっ殺せば済む話だろ?」
「なるほど!!」
いいアイデアだ!!と、思ったが、その案は0.2秒で棄却された。
「なるほど!!じゃない!!分かってるんですか!?夜行の幹部と言えば、町一つ滅ぼすのも造作もないぐらい大妖怪!!あなたたちでは故郷の村を出たLv1の勇者が、布の服とひのきの棒でラスボスに立ち向かうような物!!勝ち目はありません!!」
それは玉希ちゃんの言うとおりだ……絶対勝ち目なんてなさそうだ……
「いや、L5まで発症すりゃぶちギレパワーで何とかなるんじゃね?」
「だから、そういう問題じゃないって言ってんでしょ!!大体あなた八部衆のくせに夜行の恐ろしさを知らないんですか!?」
「うるせえな。知るかよ、そんなもん。俺は烏丸さんに指令を聞いて、ムカつくアホを殺してきただけだ。上の奴の顔も名前も知らねえよ」
なんて、アバウトな死刑執行人なんだ……
それはともかくとして……どうすれば……このままじゃ都羽姫は本当に……
「ねえねえ、管理人さん」
「何です、先輩?」
「玉希ちゃんの出番は?」
玉希ちゃんの……出番?