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第71話 都羽姫

 都羽姫が逃げたルートを、木々のざわめきや、空気の振動、風の流れから導き出した俺は、あいつと同じスピードで都羽姫を追いかけていた。


「く……!!」


 くそ……さすがに身軽な妖怪とは勝手が違うせいか、さっきからやたらと木の枝が俺の顔面や腕や足を切り裂いてきやがる。いい加減、意識が遠のいてきたぜ。だが、リバーサイド三途はもうこりごりだ。あのキノコもな。

 なんて、アホな事を考えている内に逃げ切ったとでも思ったのか、大木の枝で休憩を取っていた都羽姫に追いついた。


「あ……」

「ウソでしょ……」


 信じられないと言ったご様子だ。まあ、無理もない。あの、天童ならいざ知らず、ただの人間が自分と同じスピードで追っかけてきたんだからな。


「あんた、傷だらけじゃない!!どうしちゃったの!?」


 え?あれ?そっち?あの、俺の覚醒したスーパー能力……まあいい!!


「おやおや、随分優しいんだな……人の事ぶっ殺しておいて」

「あ、あれは事故だもん!!あんたが悪いんだもん!!」


 ぶん殴るよ?あんな殺意に満ちた事故、聞いた事ねえよ。


「ま、それよりもだ……」

「何よ!?やろうっての!?」

「いや、お前に聞きたい事がある」

「聞きたい……事?」

「お前は何者だ?なぜ世界を憎む?」

「……!!そ、そんなのあんたに関係ないでしょ!!」


 一瞬、動揺したな。やはり、こいつの正体には何かある。


「もう一度……丁寧に聞こうか?古代中国の怪物……四凶の一角、窮奇の末裔・都羽姫!!お前は一体何者でどうしてそんなに全てが憎いんだ?」

「…………」

「おや……?」


 こいつは少し予想外だ……絶対取り乱して、下手すりゃ切りかかってさえ来るかもと思ったのに……


「ふん……」


“カラン……”


 大鎌を捨てやがった……


「名前なんて……ない」

「へ?」

「あたしに名前なんてない」

「……都羽姫っていうのは?」

「自分で考えた。窮奇は“都”に住んでた。“羽”の生えた虎だった。あたしは……」

「お“姫”様になりたかった?」

「うん……」


 そんな事を言うとき、女の子ってのは普通、恥ずかしそうにするもんだぞ。どうしてお前はそんなに悲しそうな顔で言うんだよ?ま、名前がなくて自分で考えたって時点で予想はつくけど……


「親がいない……いつ、生まれたのか分からない。どうして、ここにいるのか。何のために存在するのか……あたしの存在理由は……どこにもなかった」

「百鬼衆に入るまでは、か?」

「…………それすらも分からないの。いつの間にかあたしは百鬼にいた」


 一瞬言いよどんだ。そしてこの緊張した表情……今のは半分ウソだな。だが、どこからがウソでどこからが……


「そこであたしは始めて自分の存在意義を見つけた。それが、こんなあたしを生み出した世界への復讐よ!!」

「お前はどこぞのクル○ゼ隊長か。はた迷惑もいいとこだぞ」

「はっきり言って八つ当たりかも知れないけど、あたしにはこれしかないのよ!!悪い!?」

「う〜ん……難しいな……」

「え……?」


 つまり、なんだ。こいつは自分が存在するために、自分以外の全てが自分にとって悪だということにして、悪事を働いてると……果たして本当にそうなのか?まあ、それはともかくとして……

 こういう時、大人だったら、「そういうのは叱ってもらいたいから」とかへんな理屈を言って、「甘ったれるんじゃない!」とか言って、ひっぱたくだろうけど、俺から言わせてもらえば、どこの世界にひっぱたいて欲しくて悪さする奴がいるんだよ。Mじゃあるまいし。

 そう言う事する奴ってのは自分を正当化するために……いや、本当にそれが正しいと思ってやってるんじゃないか?……周りの奴がそうしているから。みんながタバコを吸っているから自分も吸う。みんなで学校をサボるから俺もサボる。……俺のやってきた事はこいつに比べりゃスケールが小さいがニュアンスとしては似ているはずだ。


「なあ、都羽姫。もし、百鬼衆の奴らがいい人ばかりのボランティア団体だったら、お前どうしてた?」

「はぁ?そんなわけないでしょ!!」

「だから、もしもの話だよ。お前もいい人になったり……」

「…………そんなわけないじゃない。もし、そうだとしたらあたしはそんな所にいない」

「どうして?」

「あたしは四凶の窮奇。悪の味方なのよ」

「だったら、俺にも味方してくれよ」

「……は?」

「正義を語るアホは悪。綺麗事を並べて、正しい理屈を振りかざしても、人を傷つけたり殺したりするような奴も悪。そして人は大なり小なり人を傷つけてしまう生き物なんだ。だから、俺も悪だ」

「あんたのどこか悪なのよ!!めちゃくちゃいい奴じゃない!!あ……」


 あら……そんな風に思ってくれていたとは光栄だね。


「ち、ち、違うわよ!!そういうんじゃないのよ!?あ、あんたが友達のために怒ってあげたり、女の子かばってあげたり、それでいい奴だって思っただけで、個人的にどうこうとかは全っ然思ってないのよ!?か、勘違いしないでよね!!」

「…………」

「何見てんのよ、バカ!!」


 何だ、こいつ?分かりやす過ぎるぐらい、かわいすぎるぞ。


「よしよし」

「頭をなでなでするな〜!!」


 かぁいい。こうしていると、本当ただの女の子なのに……


「なあ、都羽姫。お前のやり場のない憎しみは全て俺に向けろ。行き場のない怒りも全て受け止めてやる」

「……!!」

「だから、百鬼なんてやめろ。お前のガラじゃねえ」

「……そ、そんなの無理だよ……」

「そこにしかお前の居場所がないってんなら、俺がてめえの居場所になってやる」

「へ……」

「俺たちと一緒に暮らそう?」

「そ、そんなの…………いいの?」

「ああ」


 確か、まだ空き部屋はあったはずだしな。


「そうでもしねえとお前、永遠にお姫様にゃなれねえぞ?」

「お姫様……にしてくれるの?」

「ああ」

「何でもあたしのいいなりになってくれるの?」

「ああ…………んんん!?」


 今なんかとてつもなく変な事、言わなかった!?しかも、俺も安請け合いしちゃわなかった!?


「じゃあ、まずあたしの靴にキスしなさい」

「…………」


 ぶっ……………………飛ばしてええええぇぇぇぇ!!!!何だよ、その命令!!お前お姫様、何だと思ってんの!?そんな命令すんの怪物の王女ぐらいだよ!?ひざまづいて聖なるあんよをお舐めってか!?


「早くなさい」

「は、はい……」


“ちゅ”


「ふ〜ん、本当にするなんてあんたプライドないの?」


 その前にお前には優しさと常識はないのか?


「お前がやれって言ったんだろうが……」

「じゃあ、あたしが死ねって言ったら死んでくれる?」

「ああ、いいよ。お前のためならいくらでも死んでやるよ」

「……!!」


 それぐらいでお前が更生してくるんなら安いもんだ。その後はピッコロキノコを我慢して食えばいいだけだしな。……ん?


「うっぅう……」

「おいおいおい、ちょっと待て!!何、急に泣いてんだよ!?」

「だって、そんなに……そんなに思ってくれるなんて思わなくて……嬉しくて……」

「お前……かわいい奴だな、本当」

「ん〜!!からかうな!!」

「ははは……」

「もぅ………………あ」


 でも、良かったこれでこの子も普通の女の子として…………あれ?俺は何か大事な事を忘れてないか?何かこいつに聞かなければ、それを解決しなければ、本当に終わった事にはならないのに!!何だ!?何だった!?思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ!!……あ、思い出した。あの時確か……


『この力を自分の意思で使うのは初めて……』


 それじゃ、あの力は今まで……


「か……も君……」

「……!!おい、どうした!?」


 俺があれこれと詮索している間になぜか都羽姫が急に苦しみだした。いったいどうしたってんだよ!?


「おい、都羽姫!!しっかりしろ!!」

「あたしの事……いい……から……やく、早く逃げ……」


 ぐったりと俺にもたれかかってきた都羽姫は、なぜか必死になってこの場を立ち去るように言ってくる。そして、俺も直感的にそれが正しいような気がした。気がしたんだけど、こんなに苦しんでいる女の子放っておいてどっかいけるほど器用でもなかった……それが次の瞬間、災いした。


「はい残念♪時間切れだ、小僧」

「な……!!」


 都羽姫の声が急に男のそれに変わり、華奢きゃしゃな右腕が信じられない握力で俺の首を絞めてきた。しかも、その指の一本一本を鋭い刃に変えて。


「ぐぅ……!!」


 めり込んでくる五本のナイフに、思わず悲鳴を上げそうになったが、目の前の怪物はそれすら許してくれなかった。

ふふ……なるほど。ようやく全て分かったよ。都羽姫がどうしてあれほどまでにこの世界を憎んでいたか……全てお前のせいなんだな……お前がこうして都羽姫の友達や仲間を殺したせいで!!あいつは自分がこの世に存在していけない存在だから!!そう、思いこんで!!正義に倒される悪になろうと必死になったんだろう!!そうだろう?


「四凶の……窮奇よ」

「大正解だよ、小僧。ご褒美に最高の死に方をさせてやる」


 窮奇の右目が赤く染まっていく……こりゃ最高にヤバイかもな……


「おい、窮奇……お前は西方の守護神・白虎になった神獣なんだろ……?だったら……」

「アホですか、君は?俺があんなくだらねえ事、いつまでもやってるわけねえだろ。適当にその辺から連れて来た替え玉おいて、さっさとおいとましたのよ。まあ、その替え玉がクソ真面目に仕事して神獣にまでなるとは予想できなかったが」

「こっちも……予想外だよ……話が違うじゃねえか。何が百鬼の呪術師に吹き込まれているだ。見当違いもいいとこじゃねえか……」

「あ?なんの話だ?まあいい、これでしまいよ」


 窮奇の右目が完全に完全に染まっていく。まず口からだった。口いっぱいに広がる液状の鉄分の味。吐血なんて初めてだ。まじで恐い……鼻からもさび付いた臭いがした。格好悪いだろうな……次におかしくなったのは視界だった。見るもの全てが赤色にそまっていく。血の涙?おいおい、ホラーだろ……?

 勘弁してくれ……何とかこの攻撃だけでもなかった事にしてくんない?無理だよな……そんな都合のいい事できるわけ……………………あったじゃん!!


「おねんねタイムだ、小僧!!」

「そう……だな……また、後で……」


 完全に赤く染まった右目を見てしまった俺は全身から噴出し、崩れ落ちるように木の枝から地面に落下した。奈落の下へ落ちていく気分だ。こんな事になったのもあいつのせいだし、あとはあの男に責任とってもらいましょう……


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