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第70話 正義と悪

 都羽姫の両目に隠された力は見るもの全てを殺してしまうよいう、甲賀忍法帳バジリスク顔負けのヤバイ代物だった。しかし、全く見ず知らずの変質者のおかげで俺たちはその赤い瞳を見ずにすんだが、代わりに都羽姫はとてつもなく汚い物を見せられてしまった。


 無論、命の恩人とはいえ少女の心を傷つけた変態は生かしておかない。即、処刑した。


「ふん!そんなのしても許さないんだから!!そいつだってあんたの仲間でしょ!!」

「違う!!烏丸さんは俺たちの仲間じゃない!!単なる金づるだ!!信じてくれ!!」


 何か足元で「そりゃないでしょ……」って声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろ。


「うるさい、バカ!!口答えするな!!とにかく、あんた達も同罪なの!!みんな死んじゃえばいいの!!」


 耳まで真っ赤に染めて怒鳴りちらす都羽姫ちゃん。なぜだろう……こいつ、回を重ねるごとにかわいくなってないか……?

 なんてくだらない事を考えていると後ろから肩を叩く奴がいた。


「どけ、良平。こいつの相手は俺がする……」

「天童……あの……」

「心配すんな。俺がいる限る誰も死なせねえ!!」

「…………」

「どうした?」

「ううん、なんでもない……」


 ただちょっと君が気絶している間に三途の川でご先祖様に会って、ピッコロのキノコで生き返っただけだから……


「それに、あいつを救いたいんだろう?……じゃ、俺に任せてくれよ?」


 こいつ、何か考えがあるのか……?


「よし、分かった。なら、頼む」

「おう、任せとけ」


 そう言って天童は刀を拾うと、くわえていたタバコを吐き捨てた。口から白い煙がゆったりと吐き出される。そして、全身から力を抜いている。どうやら、戦うようでないみたいだ。なら、話し合いで……


“ビュン”


 へ?何だ今の音は?え?あれ?鬼桜が刃が都羽姫のほほをかすめ……!!

 俺の横にいたはずの天童が、瞬きをする暇もなく、10mは離れていた都羽姫の正面に立っていた。感覚を研ぎ澄ませていた俺にさえ気づかれず……あ、ありえない……もう、高速移動とか瞬間移動とかそう言うレベルじゃない。完全にワープだよ。だが、これは……


「へ……?」


 都羽姫は何が起こったのか理解できていない。自分が今どういう状況に陥っているのか。


「おい、チキンガール。何、ボケッとしてんの?殺すよ?」

「……!!だ、誰がチキンガールよ!!何よ!!ちょっと、素早く動いたからっていい気になるんじゃ……」

「消えろ……」


 相手にするのもバカバカしい。そういった感じで天童は刀を鞘に納めてしまった。だが、それはあながち間違ってはいないと思う……


「なによそれ!!どういう意味!?人をコケにするのもいい加減にしなさいよ!!」

「お前と俺じゃ格が違い過ぎる。おまけに、お前はその力量の差さえ分からずにいる。そんな奴……斬る価値もねえな」

「何よそれ……意味分かんないわよ!!説明しなさいよ!!」

「だったら言ってやろう。お前の得物は何だ?その鎌か?俺を気絶させた体術か?違うな……お前の一番の武器はスピード。その、スピードすら俺に圧倒されてお前どうやってやりあう気?死んじゃうよ?」

「ぐ……で、でも!!それが、あんたの仕事なんでしょ!?悪い妖怪を問答無用でぶっ殺す!!それが夜行の天竜八部衆様なんでしょ!?」

「人聞きの悪い事言ってくれるなよ。俺は誰かが「悪」と決めつけたからそいつを殺すなんて、そんな物騒な仕事はしねえよ。たとえ、どんなに偉い奴の指図でもな」

「へ……」


 ふ……さすが、天童修司よ。鬼に横道はないとはまさにこのことだな。お前こそ鬼の中の……


「その代わり気にいらねえ奴は人間だろうが、妖怪だろうが、ぶっ殺すけどな」


 鬼は鬼でも殺人鬼!!極悪だ!!最悪通り越して極悪だよ、この野郎!!


「何それ……バッカみたい……」

「あぁ!?」

「あんたは正義の味方であたしは悪の妖怪!!それなら戦えるのに……あんたまで悪みたいな事、言い出したら……」

「あのな、お嬢ちゃん……」


 天童が何かを言おうとしたとき、都羽姫は全身につむじ風をまとい、文字通り飛ぶようにかけていった。カマイタチというだけある……あれ?でも、あいつは……いや、そんなことより……


「ち!!まだ、話は終わってねえってのによ!!」

「後は任せろ、天童。俺が追う」

「追うって言ったってあのスピードだぜ?出来んのか?」

「まあな。それよりお前、さっき何て言おうとしたんだ?」

「ああ、それか……」


 天童はどっと疲れが出た仕事終わりのサラリーマンのように、その場に腰を下ろすと、また一本、新しいタバコを取り出してそれに火をつけた。ゆらゆらと上る紫煙。ぐらぐらと揺れる思考。


「……!?」


ありとあらゆる感覚が敏感になっているせいか、こいつの思考までうっすらとではあるが、見えてきた。だが、そんなにわか読心術をマスターする前に天童が、口を開いた。


「あいつは少し前の俺だ……」

「…………どう言う意味だ?」


 本当は聞かなくてもなんとなく理解していたが、一応聞いてみた。


「さっきも言ったろ?俺は一族への憎しみを糧に、父親へ復讐するためだけに生きてきたって……」

「あいつも何かへの憎しみと誰かへの復讐を目的に生きているっていうのか……?」

「少し…………違う」


 天童の顔が少し曇った。あるいは辛さをかみ殺すようなしぐさだった。


「“何か”とか“誰か”とかそういう具体的な標的がいないんだ。あいつは……だから、全てが憎いんだろう。この世界全て、そこに生きるもの全てが……そんなのキリがねえし、いつまでたっても気が休まる事はない。はっきり言って地獄だな」


 ご先祖様と同じような事を言いやがる……オッサンはその理由を、誰かに、自分は窮奇の末裔で悪の妖怪でいなければならない、と吹き込まれていると言ったが……果たして、本当にそうなのか?俺にはどうしてもそうは思えない……何かが……ご先祖様も俺も見落としている何かがあるような気がして……


「なあ、天童。あいつはどうしてそこまで世界を……?」

「さあな。そこまではわからねえよ。俺はカウンセラーじゃねえからな」

「そっか……」

「って事で後はプロに任せるぜ」


そう言って天童は俺の肩を叩いた。いつもならこの手を振り払って「ふざけんな!!俺にそんな事出来るわけねえだろ!!」って言うところだけど、今は違う……あの子を助けたい!!

 俺が力強く頷くと、天童は険しいを顔を少し緩めてくれた。


「良平……あいつに言っといてくれ」

「何をだ?」

「正義なんてものはこの世にない。自ら正義を語るアホは間違いなく悪だ。そして、どんな綺麗事をならべ、さも正しいような理屈を振りかざしても、人を傷つけたり殺したりするような奴も悪だ。だが、この世に生きるものは、大なり、小なり、意識的にしろ、無意識にしろ、他人を傷つけちまう。つまり、この世に生きる奴はみ〜んな悪だってな……俺がいい例だ」

「ふふ、確かに……分かった、伝えとくよ」


 待っていろ、都羽姫。俺がお前を救ってやる。


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