第69話 必殺奥義
頭脳プレーと占術パワーで都羽姫を出し抜いた俺は、子供達を助け出し、ついでに寝ていた天童をたたき起こす事に成功した。さあ、都羽姫ちゃん。年貢の納め時だぜ。
「いい気になるんじゃないわよ、人間!!」
「ほぉ、いきがるねえ」
「そんな奴、起こしたところでまた倒すだけよ。それに……」
“パチン”
都羽姫が何かの合図をするように指をならした。
「また、ぐるぐる巻きにしちゃえば……あれ?」
だが、何も起きない。
「え?あれ?何で?何で言う事聞かないのよ!!」
そんなに焦って何回指を鳴らそうとも、この空間に君の味方をしてくれる樹木はいないよ。そう、植物を操る妖怪は君だけじゃないんだ。
「なんで!?なんでよ!?」
「うふふ……妖狐族も植物を操るのは得意なんです」
「……!!あんた……」
まして、その妖狐族の姫君ぐらいになると、戦いながら周りの植物全てを完全に支配し、なおかつそんな事をしているのに悟られないようにするのは朝飯前だろう。だって……
「ごめんなさい。妖狐族はウソをつくのが得意なんです♪」
「ぐぐぅ……お前ええぇ……おまええぇぇ!!」
「ふん、吠えるなよ、小娘が」
都羽姫が玉希ちゃんに襲いかかるよりも一瞬早く、四方から触手のように伸びた木の枝が、都羽姫の両手両足にがっちりと絡みつき、まるでキリストのように宙に磔にされた。すごいな、玉希ちゃん。てか、一瞬キャラ壊れなかった?
「よくも、あたしのお気にの着物をずたずたにしてくれたわね!!この罪は貴様を百億回殺しても飽きたりないけど、今回は特別にSMプレイ100万時間で許してあげるわ!!」
や、あの、玉希さん?そんな100万時間とか付き合うと、こっちも持たないと思うんで、お願いだから気を鎮めてくれるかな?出来れば良平お家帰りたい?うん……
「待て、良平。ここは様子を見よう」
「何でだよ、天童。どうでもいいだろ、こんなイベント?」
「いや、SMプレイってどんなのか見てみたい」
黙れ、小僧。
「ふん、あたしの動きを封じたぐらいでいい気になるんじゃないわよ……」
「何!?」
「あたしの本当の能力は、鉄をも切り裂く大鎌でも、風よりも速いスピードでもない……この眼力よ!!」
眼力……そう言えばこいつの眼は片方は赤で、もう片方が青。あれは単なるキャラ設定じゃなくて何かの能力があるってのか?
「この青い瞳が赤く染まる時……その瞳に魅入られたものは全身から全ての血液を垂れ流し死ぬのよ!!」
「「「……!!」」」
何ぃ!?そんなのありかよ!?いや、待て待て。だったら、そんなもの見なければいいんだ。そ、目を閉じれば……てあれ!?目が閉じられない!?おまけになぜか都羽姫の顔を見ちまう!!まさか!?
「悪いけど……一旦この力を解放したら最後、周りに居る奴らはみ〜んなあたしの虜になっちゃうの。目を背ける事も閉じる事も許されないの」
「あの〜都羽姫ちゃん?おめめ閉じてくれるかな?」
「ごめんね〜お兄さん♪閉じたくても、あたしにも閉じる事出来ないの……この力」
やばい、やばいぞ……もう青い右目が3分の1ほど赤く染まってる。このままじゃ!!
「おい、都羽姫!!だったら解除とかはできないのか!?お前、本当は人殺しなんてしたくないんだろ?」
「そうね……この力を自分の意思で使うのは始めてだわ……その点でだけはお礼を言うわ。ここまであたしを追い詰めてくれてありがとう。おかげであたしもやっと一人前になれるわ」
「おい、ふざけんなよ……どこのどいつにかは知らねえけど、やりたくもない事やらされて一人前!?そんなふざけた話……」
「ごめんね……もう、おしゃべりもおしまいみたい」
クソ!!もう9割以上赤く……!!何だこれ全身の毛穴から赤い汗が……違う!!これ、血だ!!マジかよ、チクショー!!
「諦めるのはまだ早い!!」
「その声は烏丸さん!!」
「ようはその子の顔を見なければいいんだろう!?だったら、僕に任せろ!!」
「なんでもいいから早くしてく……え?あの……ちょ、やっぱやめ……」
「いくぞ、必殺奥義!!」
都羽姫の青い目がいよいよ赤く染まろうかというまさにその時、烏丸さんは空中に磔にされた都羽姫の顔面の前に立ちはだかり、俺たちが都羽姫の顔を見ないようにしてくれた。ただし……
「下半身露出!!」
「い……」
全裸で……
「嫌あああぁぁぁあああ!!」
あのさ……助けてくれるのはありがたいんだけど、もっと他に方法なかったの……
「あ〜ああ〜♪あ〜あ〜あ〜♪」
何でノリノリでダブルオーのBGMを口ずさんでだんだよ……気味悪いよ……
「いやああぁぁ!!本当に嫌ああぁぁ!!」
「ふぅー……ふぅー……神を信じるか?」
「何それ!?元ネタも分かんないし気持ち悪い!!」
ああ、それたぶんプレデターみたいなぬらりひょんの台詞だよ。でも今の状況はどう見てもただの変態だな……
「どっかいって!!これ使ってると目を閉じられないの!!」
「厄災と思って……ふぅー……ふぅー……諦めよ……」
「いぃやああぁ!!もう嫌!!お願いだからゆるじで、お願い!!もう、ゆる……ゆるじ……うぇええええぇぇん!!」
そりゃ、泣くよな……ていうか、いい加減にしろよ、あのオッサン。これじゃ、レイプものエロビデオじゃねえか!!最低だよ、あの親父!!というわけで、
「良平君、例のものを」
「はい、天童君。メタルキングの6番アイアンです」
「うむ……」
天童は6番アイアンを受け取ると、烏丸さんが空中浮遊しているところまで一気にジャンプしてさらに……
「修司・F・セイエイ……」
「え、ちょ……修司君?何をする気かな?」
「変態を破壊する!!」
「ギ……」
空中でフルスイングをするという離れ業をやってのけた。さすが、戦闘のプロだ。
「ギャアアアアァァァァァああアアァァああアアァァああアアァァ!!!!!!!」
ものの見事に股間のボールをインパクトされた烏丸さんは、へんな奇声を発しながら枯葉のようにひらひらと俺の前に落ちてきた。
「ちょ……管理人さん……何してくれてんの……」
「いや、すいません。ゴルフボールとゴールデンボールって語呂が似てるんで間違えちゃいました」
「いや、間違えないよ……普通?てか……君たちのピンチ救ったのに……なんで?」
「ああ、お前の考え方は正しいよ。ただ、やり方が間違っていたんだ。アディオス」
“パン、パン、パン”
乾いた銃声が三つ。烏丸さんはしばらくピクピクと痙攣していたが、やがて動かなくなった。さて、今はそんな事よりあの哀れな被害者の方だよ。
さすがに哀れに思ったのか、玉希ちゃんは都羽姫の束縛を解いて、地面に下ろしていた。一方、その都羽姫はまだ泣きじゃくり、その場にへたり込んで動けずにいた。
「さて、都羽姫よ。邪魔者がいなくなった所でおしゃべりの続きと……」
「ごめんなざい、ごめ、ご、ごめん……なざい……うぅ……」
「いや、あの都羽姫ちゃん?」
「も、もう、うぅじまぜん……あんな力づかいま……ぜ、えっぐ!うぅ……だから、お願いゆるじでぇぇ……」
「えっと……」
思った以上に傷、深ーい。何してくれてんだよ、あの変態は。仕方ねえ……ひとまずこの子が落ち着くまで待つとするか……