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第68話 反撃

 さて、ピッコロキノコのおかげで生き返ったはいいが、俺が死んでいる間にどうな事になったのか、まずはこの状況を分析していこう。

 息を深く吸い込み……雑念を全て吐き出せ……自然と体を一体に……心を鎮め、精神を集中する!!よし、いい感じだ。


 境内の中央の空間に玉希ちゃんと都羽姫が向かい合うような形で構えている。玉希ちゃんの後ろに先輩がいると言う事は、玉希ちゃんは先輩をかばいながら戦っていたのか。

 桜色の着物が所々さけ、そこから見える白い柔肌にも血が滲んでいる。だが、致命傷は一つもない。全部かすり傷……玉希ちゃんが都羽姫の攻撃をかわしたのか、あるいはご先祖様の言った通り都羽姫には人を殺す度胸なんかない……か。


 一方その都羽姫はというと……こちらは無傷か。それどころか息一つ乱してない。ただ、呆然と俺の顔を見ているだけだ。その顔に怒りも悔しさも感じられない。信じられないものを見る……というよりは、どこか安心したような顔……ん?なるほど……やっぱご先祖様の見解は正しいな。

 表情だけじゃない。全身の筋肉が僅かに緩んでいる。少なくとも戦いの真っ最中に居る奴のそれではない。それに、こいつは殺そうと思えば天童もお菊さんも殺せたはずだ。なのにそうしなかったのは……うん、やっぱりこいつは殺しをやるような奴じゃない。


 けど、妙だな。確か、玉希ちゃんは天童でも敵わないような強敵を倒すための助っ人のはず……それがどうして押されているんだ?待てよ……そうか。

 玉希ちゃんは都羽姫を倒せないんだ。それをしてしまうと、こいつによって閉じ込められた子供達が永遠に解放されない危険性があるからだ。だから、不用意に攻撃はできないでいるんだ。ま、他にも理由はありそうだけど。とにかく……


 決まりだな。


「さてと……」

「…………」


 まずは子供達を助け出す。


「やってくれたね、都羽姫ちゃん」

「…………」


 その後、天童をたたき起こし、この戦いを終わらせてみんなで帰る!


「君のおかげでお兄さん、三途の川見ちゃったよ」

「…………!!」


 それまで、ボーっと俺の顔に見とれていた都羽姫がハッと我に返った。


「な、何よ!!そんなの急に飛び出してくるあんたが悪いんでしょ!!あんたがあんな事しなきゃ……」

「誰も殺さずにすんだ?」

「……!!」

「おんや〜?まさか、百鬼衆の都羽姫ちゃんともあろうお方が、本当は殺人が恐いと?」

「そ、そんなわけないでしょ!!あんたたちなんかすぐにぶっ殺してやるんだから!!」


 よし、いいぞ。のってこい。


「ほぉ〜。それで、閉じ込められた子供達に俺の断末魔の悲鳴を聞かせてやると?」

「そうよ!!ガキどもの悲しむ姿が目に浮かぶわね!!」

「それってつまり、あっちの声は聞こえないけど、俺の声は向こうに聞こえるって事だな?」

「え……」

「試しにやってみるか。おーい、オッシー」

「は……?」


 何をしているのか理解できないって顔だな。まあ、見てな。


「あら?返事が聞こえねえな……?オッシーの奴ちゃんと聞いてるのか?」

「あんた、何やってんの?あたしの話聞いてなかったの?」

「聞いてたよ。子供達の声は聞こえないけど、子供達には俺たちの声が聞こえる……だろ?」

「そうよ!!だからいくら呼びかけたって返事なんて……」

「それはつまり、お前の作り出した異界の壁が子供達の声を消す効果があるって事だよな?」

「え、ええ、そうよ……」

「じゃあ、子供の声じゃない声はどうなんだ?音は?例えば……“烏丸さんのような悪い人が近づいた時に真ん中のボタンを押すと、大きな音が出ていい子を悪い人から遠ざけてくれる便利な道具”の音……なんてのは?」

「はぁ?なにそれ?」

「そうだな……例えばの話……」


 俺はそこであえて言葉を切り、静寂を作り出した。そして数秒と立たない内にその静寂が壊される。


“ピピー、ピピー、ガスがもれていませてんか?ピピー、ピピー、ガスがもれていませんか?”


 この偽者丸出しの防犯ブザーの音によって……


「な、何よ……何なのよ、このふざけた音は!?」

「だから、悪い大人からかわいい子供達を助けてくれる素敵グッズだって」

「ふ、ふん!!でも、こんな小さな音じゃ、異界の入り口がどこにあるかなんて……」

「さ、先輩。出番です!!」


 先輩は「うにゃ!!」と元気良く頷くと、耳を澄まし目を閉じた。そして、もの2,3秒で天然の超性能ソナーはその効果をいかんなく発揮し、先輩は目を開くと同時に鳥居の上を指差した。やれやれ、あんな所に作ってやがったのか。


「ば、場所が分かったってあんたたちの中に空を飛べる奴なんて……」

「おい、烏丸へんたい。どうせ、もう脱獄してきたんだろ?働けよ」

「な……!!」


 「やれやれ……」と、疲れた声が聞こえたかと思うと、太陽を覆い隠さんばかりの巨大な漆黒の翼が空を染めた。


「管理人さん……大人をそんな風に言うもんじゃない……よ!!」


 そしてどこから取り出したのか、両刃の剣で空中を一刀両断にすると、その空間がガラス細工のように粉々に砕け散って……そして……そしてようやく……


「お兄ちゃん!!」

「オッシー!!」


 会えた……

 空から降りてくる小さな天使を、両手で受け止めると俺はそれを力いっぱい抱きしめた。だが、まだ終わったわけじゃない。こいつらをここにいさせちゃダメだ。


「オッシー。ここは危ないから、すぐに神隠しの力でみんなを連れて逃げるんだ」

「お兄ちゃん。僕オムライスがいい!!」

「うん、晩御飯の話はあとでいいかな?」


 ダダをこねるちびっ子妖怪と子供達は、烏丸さんの誘導で安全な所に避難してもらい、俺は再び都羽姫に様子を伺った。

 全身から力が抜けている……だが、戦意を喪失したというわけじゃないみたいだ。


「何よそれ……何よこれ……ざけな……でよ……ふざけないでよ……ふざけんじゃないわよ!!」


 どうやら、俺に出し抜かれた事が相当頭にきてるらしいな。だが、それでいい。それぐらい冷静さを失ってくれた方がこっちとしてもやりやすい。ここはダメ押しでもう少しからかうか。


「どうしたのかな、都羽姫ちゃん?」

「うるせえよ、人間が!!」

「恐い、恐い……」


 都羽姫と一定の距離を保ったまま、弧を描くように動いた。俺の目的がばれないように。


「そんな恐い声だしたら、せっかくのかわいい顔が台無しだよ?」

「るさい!!」

「年いくつ?俺より年下っぽいな?年上には敬語使えよ」

「黙れええぇぇ……」


 よし、ここだ。背後にご神木。前には怒り狂い、今にも飛びかかって来そうな都羽姫。足元にゴルフバッグ……


「殺してやる!!」

「悪いが…………そいつは断る!!」


 中には……


「……!?何よそれ?」

「RPG−7。いわゆる、対戦車ロケットランチャーかな」


 テストに出ないけど覚えてろ、って言ったろ?


「あ、それポチっとな」

「ちょ、ふざ……」


 都羽姫ちゃんが何か抗議をしようとしたが、その声は爆音にかき消され……


「あじな真似してくれるじゃない!!人間の分際で!!」


 なかったか……すげえな、おい……爆発を上回るスピードで回避しやがったよ。ま、俺の本当の・・・目的はそっちじゃないから、別に外れても全然いいんだけどね。


「いやー……さすが、百鬼衆。俺じゃ敵わないかもな。て事で、戦闘のプロフェッショナルさん、お願いしまーす」

「は?あんた、何言ってんの……?」


 どうやら知らないみたいだな。ロケットランチャーなんてものぶっ放すと、後方噴射……バックフラストっていう、ツタぐらい・・・・・簡単・・に焼き払う・・・・・とんでもない炎が上がる事を。


「……!!」


 どうやら気がついたみたいだな。爆発の煙の中にタバコの煙・・・・・が混じっているのに。そして……


「おい、良平……もうちょっとマシな目覚ましはなかったのか?」

「お前は溶鉱炉にぶっこんでも大丈夫なんだろ?」

「違えねえ……ま、ライター代わりにもなったし、よしとすっかな」


 眠れる獅子ならぬ、イカレタ鬼が目を覚ました事に。


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