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第66話 霊界偏・その3

「ご先祖様、俺たちの下らない過ちって何だ?あいつの正体に関係しているのか?」

「ああ、モロに関係しておる。これを見よ」


 そう言ってご先祖様は地面に釣竿で字を書いた。それは……


“窮奇”


「カマイタチ?」

「それだ」

「どれだよ?」

「その読みかたがすでに間違えておる。これはカマイタチではなくキュウキと読むのじゃ」

窮奇きゅうき?」


 聞いた事のない妖怪だ。そんな妖怪いるのか?


「カマイタチと字が同じってことは親戚か何かか?」

「いや、全くの別物じゃ。窮奇とは四凶しきょうと呼ばれる大陸妖怪の一つだ」

「四凶?大陸妖怪?」

「ふむ、大陸妖怪とは中国大陸に生息する妖怪の事じゃ。そして、四凶とは古代中国は尭帝の時代、西の都に暮らしていた恐ろしい四匹の魔物を指す」

「四匹の……魔物?」

「うむ。すなわち、半牛半人の饕餮とうてつ、巨大な犬の姿をした渾沌こんとん、半虎半人の檮杌、そして四肢に翼を持つ虎、窮奇だ」


 四肢に翼……そう言えばあいつのブーツとブレスレットには翼のレリーフが……


「じゃあ、あいつは虎の魔物なのか?」

「ふむ、四凶はそのどれもが凶悪な怪物で戦乱を好み、暴虐の限りを尽くしたとされておる」

「されている?本当は違うの?」

「ああ、一説では都で暮らしていた四凶は、その凶悪さゆえ都を追放され、西から魑魅魍魎が入ってこないよう守護の役割を命ぜられたとも言われている」

「……そんな危ない連中がちゃんと言う事聞くとは思えないけど、西の守りは大丈夫だったのか?」

「ああ、お前の言うとおり、四凶はさっさと守護の役目をすっぽかし、どこかへ消えてしまった。たった一匹を除いてな」

「一匹を除いて……?」

「そいつだけは他の奴とは違った。たとえ四肢の翼をもがれようとも、たとえ体中の毛が疲労で白く染まろうとも、西の都を守りぬいた」


四肢の翼をもがれ……体の毛が白く……西の守り神……それって、間違いなく窮奇のことだよな?じゃあ、その虎の姿をした窮奇って妖怪はまさか……


「窮奇……後に白虎と呼ばれる神獣だ」

「やっぱり……じゃあ、都羽姫が世界を憎む理由ってのは、ちゃんと役目を果たしたのにバケモノ扱いされた先祖の……」

「それはないだろう。なぜなら、後世には白虎は西方の守り神と崇められた。つまり、先祖のことで怨む理由はない」

「なら、どうしてあいつは……」

「おそらくはそう仕込まれたのだろう。お前は四凶の一角、窮奇の末裔である。窮奇とは争い好み、喧嘩をしている者達がいれば正しい事を言っている方を殺して食べる……そんな凶悪な妖怪だ。と、インプットされているのだろう。さしずめ、百鬼の呪術師とかにな」

「なんだよ、それ……じゃあ、あいつは……あいつ自身は悪い奴じゃないのか?」

「悪い奴なら最初の攻撃で鬼の小僧は首をはねられていただろう。片車輪もお前たちも、な。あいつは誰も殺したくはないのだろう」

「じゃあ、あいつ本当はいい子なのか……それを裏でどこぞのボケが操って悪人にしたてあげて、それで危険だから夜行のアホが天童使って殺そうってか……?ははは……なんだか俺まで世界を呪いたくなってきたよ」


 クマの大きな手が俺の頭をわしゃわしゃとかき回すように撫でた。乱暴な肉球が「気持ちは分かる。だが、落ち着け」と言っているような気がして俺はうなずいた。


「さて、あの子が何者で、何ゆえこの世を憎むか、分かったところで次のステップと行こうか」

「次のステップ……?」

「どうすればよいか、だ。このまま蘇っても今のお前ではすぐにまたここに戻ってくる事になる。だから、奴に殺されないよう、己の力を理解し、使いこなす必要がある」

「え……でも、あいつは誰も殺せないような優しい奴なんじゃ……」

「最初はどんなに優しい者でも、一人殺してしまえばそんなブレーキは利かなくなる。皮肉な事にお前を殺してしまった事であの少女の精神は崩壊しかけている」

「マジかよ……俺どんだけ情けないんだ」

「そう思うんだったらあの子も救ってやれ。猫又の少女や妖狐族の姫君、酒呑童子の末裔のように」


 そんな事……言われなくても分かってるさ。


「で、どうすりゃいいんだ?」

「ふむ、まずお前の力の仕組みについて説明しよう。良平よ、ネズミのように動き回る象がいればどう思う?」

「ネズミのスピードで動く象か……そりゃ恐ろしいわな」

「では、逆に象のスピードで動くネズミはどうだ?」

「そんなゆったりと動くネズミなら……かわいいかもな」

「では、あの窮奇をそのようにしてしまえ」


 してしまえって、簡単に言うけどどうすりゃいいんだよ。全然、力の仕組みの説明になってないじゃん。


「良平よ、先ほど言った事を覚えているか?」

「人が対峙できる数は一体が限界っていうあれか?」

「そうだ。そして、我ら一族はその一体までなら時間を自由に操れる」

「な……!?それ、マジかよ」

「大マジだ。遅くするも、速くするも、止めるも、動かすも……さらには、その時間をコピーし自分の時間に上書きする事も可能だ」

「ええっと……それってつまり?」

「お前が窮奇のように動き回り、窮奇をお前ほどの速さでしか動けないようにする事も出来る。というか、してやった」


 そうか、俺があいつを上回るスピードで動いて、先輩や玉希ちゃんを助ける事ができたのはそのおかげだったのか……でも……


「力の仕組みについては分かったけど、使えるのか?発動条件だって未だに不明なんだけど……」

「それについてはもう心配いらぬ。なぜなら、この力が使える条件は対象となる者を恐れぬ事、そして誰かを助けてやりたいと強く願うこと……つまり、もう満たしておるのだ」

「じゃあ、どうやって使うんだ?」

「精神を集中し、心を鎮め、時を見よ……」

「時……あの頭の横や武器の横に出てくる数字か?」

「そうだ。そして、念じればよい。止まれ、動け、遅くなれ、早くなれ……とな。簡単だろう?」

「話で聞くだけならな……」


 ためしにやってみるか……確か、精神を集中し、心を鎮め、時を見る……

 まず、深く息を吸い込んだ。それをゆっくりと体中から余計な雑念と一緒に吐き出した。頭がクリアになる。なんというか、とても心地いい……

 川のせせらぎも、花の匂いも、頬を撫でる暖かい風も……周りの自然が俺の体の中に入り込んでくる。だが、支配されると言う感じはしない。体を共有する。そんな気分だ。

 クマの頭の横に数字が見えた。時間だ。俺の体の横にも同様のものが見える。なるほど、これが“時を見る”って奴か……


「どうだ?できたか?」

「あ、ああ……なんか今までで一番しっくりきたというか、100%の力を引き出せたと言うか、そんな感じがする……」

「ふむ、そこまで出来れば上等。あとは占術せんじゅつを用いてあの少女を救い、とらわれた子供達も助け出せ」

「せん……じゅつ?」

「占うすべ……つまり、占い師の力だ」

「ちょっと待て。いきなりそんな事言われても出来るかよ。俺、占いの知識なんてねえよ」

「占いは知識や技術ではない。まして、不可思議な力など一切必要ない。努力さえすれば誰でもできる」

「本当かよ……」

「ああ。占いとは、相手の一挙手一投足から情報を読み取る洞察力と、瞬時にそれを過去のデータに照らし合わせ、次にどう動くか予測する処理能力。つまり、プロファイリングだ」


 おいおい……プロファイリングなんて俺やった事ねえし、どうやっていいかも分かんねえよ。なに無茶ぶりしようとしてんの。


「なにを言う。お前はしてきたではないか」

「え?俺が!?そんなのいつしたってんだよ!?」

「カラス天狗の話を聞き、己の持つ猫の知識と照らし合わせ、あの子の傷を知ってやった。そしてそれを癒した」

「あ……」

「同じように、鬼の少年の話を聞き、実際の奴の表情の一つ一つから、その胸の内を悟ってやった」

「あれは……」

「妖狐族の姫君の時はどうだ?あの時など大した情報などなかった。僅かな情報ピースを元に、足りない部分を己の推測で埋めた。あれらも立派な占術じゃ」

「あんなの占いっていうのか?どっちかっていうとカウンセリングのような気が……」

「同じようなものだ。さらに、百鬼の根城を突き止めた庭先でのあれ……」

「あれはあんたが力を貸してくれたから……」

「そんな事はしていない。言ったはずだ。お前の中にくすぶっているものに火をつけただけだと」

「…………何なんだよ、そのくすぶっているものって?」

「占術の才能。そして、占術とは戦術。すなわち、戦う術であり、仙術。自然エネルギーを操る能力も指す」


 ええっと?まとめると、俺は大自然を自由に操って敵と戦いながら未来を予見する力が……


「あるわけないだろ。過大評価しすぎだ。お前に出切るのはせいぜい、自然の力を借り、不利な戦況をも覆し、相手の2手、3手、先を読むぐらいだ」


 いや、それって結構十分な気もするんだが……


「さて、私がお前に教えてやれる事はこれぐらいだ。お迎えも来たようだし。あとはそいつに任せるとしよう」

「え?そいつって誰の……!!」


 振り返った俺は度肝を抜いた。

 ボロボロの黒いローブ。魂を刈り取る巨大な鎌。むき出しの頭蓋骨は微笑みを浮かべているようでどこか不気味だ。名前なんて聞かなくても分かるこいつは……死神だ。


「おいおい、ご先祖様をこんな奴に任せたら俺……あれ?」


 ご先祖いねえ……って、これやばくね?


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