第63話 進化する力
ついに姿を表した百鬼衆の一人、窮奇の都羽姫。その強さは尋常ならざるものであの天童でさえものの数秒で戦闘不能にされてしまった。そして、その凶刃がこちらを向こうとしている。ていうか、天童抜きでこんなバケモノどうやって……
「ねえ〜加茂良平君?」
「は、はい。なんでしょう?」
「あんた、あの鬼より強いんでしょう?」「いいえ、違います」
こいつの移動速度を上回る光の早さで全否定してやったぜ。当然だ!!俺が天童より強いわけねえだろ!!お前誰と勘違いしてんの!?もしかしてあの変態仮面!?だったらやめてね!?凄い不愉快だから!!
「ごまかそうとしたってダ・メ・よ♪あたし全部知っているんだから」
「お前が俺の何を知っているてんだ?好きな映画(AV)のジャンルか?」
「違えよ!!そんなの知りたくもねえよ!!つーか、知りたがる女いねえよ!!」
いや、いるよ。今、現在、俺の斜め後ろに。
「あたしが言ってんのはあんたの能力よ」
「……!!何の事かな?」
こいつ……俺があの魑魅魍魎と戦ったときの事を?
「相手の行動を完全に予測、回避、さらには反撃も……つまりは見切っていた。戦闘に関してはド素人のはずのあんたが。それも妖怪相手に」
「あ、ありゃただのまぐれだ」
「それだけじゃない。あんたは一昨日一匹の妖怪を消し去った……」
「!!ちょっと待て!!ありゃ、天童が仕留めたんだ!!俺は……」
「そう、確かに止めを刺したのはあそこで伸びている間抜けな鬼。でも、あの牛頭を神隠ししたのはあんたなんだよ」
「!?…………おい、訂正しろ」
頭にきた。もう、俺がブシュルワアアァァを神隠したとか言う、衝撃的事実なんかどうでもいいってぐらい頭に来た。
「本当の事よ。信じられないかも知れないけど、あんたは人間のくせに妖怪の……」
「そっちじゃねえ!!天童を間抜け呼ばわりした事を訂正しろってんだ!!」
「は、はぁ?何キレてんの?意味分かんないし」
「あいつは間抜けなんかじゃない!!」
「間抜けじゃなんだって言うのよ!!鬼のくせに人間の心なんか持っちゃってさ!!優しさに芽生えてその結果があの無様な姿じゃない!!」
「違う!!天童は人間の心を持った鬼じゃねえ!!正真正銘、本物の人間だ!!鬼の力を使えるだけのな」
「ば、バッカじゃないの!?あんた、それでまだあいつの友達気取っていたいの?」
何かがおかしい。都羽姫の様子が明らかにおかしかった。天童をも瞬殺するほどの強さを持ったこいつが、何かに怯えるようにうろたえ始めた。でも、俺は頭に血が上ってそんな事さえ気づかなかった。
「気取ってんじゃねえ。俺はあいつの友達だ!!だから、友達を馬鹿にするお前をゆるさねえ!!」
「へえ…………じゃあ、どうするの?」
「え?」
「あいつでも敵わなかったあたしをどうやって倒すんだって聞いてんだよ、このクソったれ!!」
「そ、それは……」
「言っとくけど、あいつの手助けなんか期待しちゃダメだよ?」
“パチン”
都羽姫が指を鳴らしたのと同時に無数のツタが触手のように天童の体にまとわりつき、ついには簀巻き状態にして、ただでさえ意識のない天童を身動きできなくしてしまった。
さらに、その光景に目が奪われた一瞬の隙に、
「う……」
“ドサ”
お菊さんも鎌の柄で腹を殴られ意識を失った。
「裏切り者のおばさんも当てにしちゃダメ。そっちの女の子たちは大した事出来ないだろうから別にいっかな♪」
「く……」「フー!!」
玉希ちゃんが歯軋りを、先輩が威嚇の声を上げたがこいつは全く動じない。
「ふふふ♪さ、どうするの?加茂……良・平・君?」
「さあて、どうしましょう?」
「どうにも出来ないんならさ…………死ねば!!」
来る。鎌を振り上げそれが俺の肩からわき腹を一刀両断するまで……その時間はわずかに0.0000014秒!?あまりに少なすぎる!!無理だ。何をどう見てもかわせるわけがねえ……、腰が抜けて立てねえ。奇跡でも起きない限り俺は死ぬ。
そう思ったとき。奇跡を無理やり起こした、とんでもない人がいた。
「やめてー!!」
先輩だった。あの、乱暴で天然で臆病で恐がりで寂しがりやで甘えん坊の……先輩が、俺のためにゴルフバッグを盾に、あの天童ですら瞬殺されてしまうほど恐ろしい妖怪・都羽姫に体当たりをぶちかましたのだ。
「きゃ!!」
女らしい悲鳴をあげて都羽姫は、5mほど宙を舞い天童の所までゴルフバッグごと吹っ飛んだ。先輩も俺の目の前でド派手にすっ転んだ。が、さすが元気いっぱいの力持ち。すぐに起き上がり、俺にいつもの笑顔を見せてくれた。
「えへへ……ミイナ頑張ったよ。えらい?」
「先ぱ……」
その笑顔に影が差し込む……
「てめえ……よくも邪魔しやがって……」
起き上がって15mの距離を一瞬で移動した都羽姫が手にしていたのは、よりにもよって天童の愛刀・鬼桜だった。あんなもので斬られたらひとたまりもない!!先輩、逃げて!!
「殺してやる……」
「にゃ……?」
ダメだ!!
そう思ったとき……ゆっくりと、スローモーションのように刀が振り上げられていくのが見えた。例のタイムリミットの時刻表示付で。
先輩が事態に気づいて回避行動に移るのが0.78秒……俺が先輩を無理やり引っ張って刀が届かない所まで移動させようとすれば0.93秒……けれど、刀が振り下ろされるのにかかる時間は0.043秒……何をどうしても間に合わない…………
間に合わない……じゃねえ!!何とかして間に合わせろよ、加茂良平!!先輩は……あの娘はそんな事できる娘じゃないのにやったんだぞ!!お前を助けるために、お前が恐くて恐くてまともに直視できないぐらい恐ろしい妖怪に体当たりかましたんだぞ!!なのにお前は守られてばかりでいいのか!?それでも男か!!
こうなりゃ、神でも!!仏でも!!悪魔でも!!妖怪でも天使でも何でもいい!!なんだったら、俺のこの命をくれてやる!!だから、あの娘を……ミイナを助けてくれ!!この……この……
コ ノ ク ル ッ タ ジ カ ン ヲ シ ュ ウ セ イ シ ロ !!
〈いいだろう……〉
「え……その声は……ぐ!!」
胸が……腹が……熱い……?あれ?俺、立ってる?さっきまで腰が抜けて立てなかったのに……?でも、あれ?頭がクラクラする……立ちくらみ?いや、貧血……ああ、そうか……貧血じゃなくて出血多量だ。俺、斬られたんだ……
斬られた?誰にだ?あれ……?
「う……ウソでしょ!?」
あれ……なんで目の前に都羽姫が?先輩は……?
「か、管理人さん……?」
後ろ……?そうか……俺、間に合ったんだ……良かっ……
「ふ、ふん……!!今のはまぐれよ!!そうに決まってるわ!!ていうか、そんな事しても無駄なのに、バッカじゃないの?」
何言ってんだ、都羽姫……?
「あんたら全員皆殺しって事は、もう決定事項なのよ!!まずは……妖狐族のお姫様から!!」
「……!!んな……事……さ……るか……」
「死んじゃいなさ……!!」
「させるかああぁぁ!!」
「……!!」
倒れそうになった体を右足が支えてくれていた。それだけじゃない。走っていた。もう、意識なんかほとんどないってのに……脳がそんな命令出したとは思えない。いや、不可能だろう普通?動けないほど出血多量で意識が朦朧としているってのに……
とんでもない速さで動きまわる妖怪を追い越し、玉希ちゃんの前で振り返りそいつを睨みつけるなんて。俺にしちゃ頑張った方なんだが、その代わり支払った代償がでかすぎた。
“グサ”
胸……このポイントはたぶん心臓がある辺りじゃねえかな?こりゃ、間違いなく逝ったな……
「りょう……へい……君?」
「ふ……や、やべ……超いだ……」
「いや……いや!!いやああぁぁ!!」
ああ、クソ……気の利いた台詞でも言えたらいいのに……女の子泣かせるなんて最低だな、俺……ていうか、ここで俺が死んじゃったら誰が二人を……ああ、クソ……俺にも何か力が……あれば良かったのに……
…………
………………
……………………ん?
「まぶ……しい?」
目を開くと飛び込んできたのは幻想的なまでにピンク色の空だった。そして見た事もないような甘い香りがする色とりどりの綺麗な花たち。心が落ち着くようなせせらぎの音。暖かい。ここは……三途の川?
「よう、少年。また会ってしまったな」
「……その声はまさか!!」
聞き覚えのある声に振り返るとそこにいたのは……