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第62話 KAMAITACHI

 さて、指名手配の百鬼衆を一人片付けたはいいが、まだ二人も残っているんだよな。そのうちの一人、片車輪のお菊……これまで動く事はおろか、一言も喋っていないが…………なぜだろう?さっきまでの強烈な威圧感がウソみたいに消えている……この人はひょっとして……


「さてと……」


 俺があれこれ考えているうちに片車輪のお菊が立ち上がる。でも、さっきの甚五郎のように脅威はない。なぜかは分からないが、この人は俺たちの味方になってくれそうな気がする。話せば……わかるかな?やってみよう!!


「あの……お菊さんですよね?」

「そうだよ、加茂良平」

「……!!」


 なんで俺の名前をフルネームで……!?オッシーから聞いたのか?いや、そんな事より……


「あの……えっと、出来れば戦うのはやめて、さらった子供達を返してくれませんか?」

「…………」

「あなたは頼めば子供を返してくれる優しい妖怪なんでしょ……?」

「………………」


 沈黙が恐い……


「悪いけど……百鬼には拾ってもらった恩義がある。子供を返すわけにはいかないよ。それにあんたらも始末するように言われてるしね……」


 やはりダメなのか……


「けどけど……あたいとした事がうっかり刀を忘れてきちまったよ。これじゃあんたらを始末出来ないねぇ〜」

「……!!」

「それに百鬼への義理は十分果たしたし……」


 お菊さんは鬼の面をかなぐり捨てた。その下から現れたのは30歳前後のとても優しそうな顔をした綺麗な女性だった。


「そろそろ裏切っても文句は言われんだろう」

「それじゃ!!」

「ああ、子供達の所へ案内するよ……」


 そう言って、お菊さんは握り締めた拳を振るった。すると、窓ガラスが粉々に砕け散るように、賽銭箱の空間が砕け散り、大きな黒い穴が出現した。これが異界への入り口なのか……


「ついてきな」


 お菊さんを先頭に俺たちはトンネルへと足を進めていく。やった……やっと、オッシーに会える……あいつの笑顔に……


 俺は正直負い目を感じていた……オッシーがさらわれたのは自分のせいだと思っていたからだ。俺は管理人になってからろくにオッシーの遊び相手をしてやれなかった……

 一日目は先輩の部屋を片付け、心のケアーをして、ブシュルワアァァに殺されかけて……二日目は変なアルバイトに拉致られて、マフィアのお姉さんに拉致られて、その正体である玉希ちゃんにボッコボコにされて、その後お悩み相談を聞いて……三日目は商店街に買い物……全然あいつの相手をしてやれなかった……まあ、半分ぐらい仕方がないと言えなくはないのだが……

 それでも、片車輪は親が目を話した隙に子供をさらう妖怪だと聞いたとき、ああ……俺のせいだ……と思ったんだ。そんな俺の心のうちを察したように、お菊さんが俺の頭を乱暴になでまわした。


「あの押入れ童子を連れてきたのは子供達が泣きわめくからだよ」

「へ……?」

「まあ、こんな得体のしれないおばさんが、それも鬼のお面なんてつけてさらっちまえば無理はないかもしれないけどね。けど、見ててあんまり可哀想なもんだからあの押入れ童子に頼んだのさ。別にあんたが悪いわけじゃないよ、坊や」

「お菊さん……」


 やっぱり、この人はいい妖怪なんだ。そう思ったとき。光が差し込み、トンネルの出口が見えた。良かった……これですべて解決する。全て終わる。ん……?


「おい、天童?どうして、そんなおっかない顔してんだ?」

「良平、和やかムードに水をさすようで悪いが、忘れたのか?百鬼衆がもう一人残っているって事を……」

「あ……」

「それにあのチビ助は俺でも敵わない妖怪がいると踏んだから、俺に何も言わなかったんだろ?このお菊は敵わないどころか協力的、あの甚五郎はあっさりとまではいかねえが倒せた。なら、チビ助が脅威と感じたのは残りの……」

「カマイタチ……」

「そう言う事だ……油断は禁物だぜ」


 そうだった……俺とした事がつい目の前にゴールが見えたと思って気を抜いていたぜ。まだ、終わってなんかいないんだ。


「あんれぇ?」


 トンネルを抜け、裏山神社と同じような景色の異界にたどり着くと、先頭を歩いていたお菊さんが鎌首をもたげた。


「みんなどこに行ったんだろうね?か、かくれんぼかい?」


 その声は明らかに動揺して、俺は嫌な予感がした。


「おーい、みんなー!!お家に帰してやるよー!!出ておいでー!!」


 結果から言えばその予感は残念な事に的中する。


「ざ〜んね〜ん♪おばさんが裏切る事ぐらい、とおっくにお見通しなんだよね〜」

「「「「!!!!」」」」


 少女の声はご神木と呼ばれる無駄にでかい一本の木の上から聞こえた。

 金髪混じりの黒いツインテール。赤と青い瞳のオッドアイ。黒いドレスのようなカーディガンに赤いチェックのフレアミニスカート。ニーソックスの先……羽飾りのついたごついブーツと、似たようなデザインの黒いグローブ。そして、その手に握り閉められた死神を彷彿ほうふつとさせる巨大な鎌。こいつが……


「始めまして〜♪窮奇の都羽姫ツバキで〜す♪よろしくね?」


 かわいらしい笑顔でそう言ってきたが、俺はなぜかこの同じ年ほどの女の子に凄まじいまでの恐怖を覚えた。殺される……なぜかは分からないが直感的にそう感じた。


「おい、てめえ……」


 恐怖で足が動かない俺の前に天童が出てくれた。


「ガキどもはどこだ?」

「ああ……あの子達はあたしが作った異界に閉じ込めちゃいました♪」

「他人の異界の中にさらに異界を……?なかなか器用な女だな」

「お褒めに預かりどうも」


 都羽姫と名乗る女が鎌を木の枝につき刺し、上流階級の少女のようにスカートを広げるしぐさをした。完全にこちらを見下している……


「ちなみに、おばさんの作った不良品の異界と違って、あたしのは完璧だからあの子達の声を拾おうとしても無駄。肉声は完全にシャットアウトする仕組みになっているから。あ、でもあなたたちの断末魔の悲鳴はちゃんと向こうに聞こえるように仕込んだから、その辺は安心していいよ?」

「んなこた、どうだっていいんだよ。悪いけどあいつら全員返してくんないかな?」

「悪いけど返さないよ。一応あたしたちの仲間になる予定の子だから。って言っても、ぶっちゃけあたしにはどうでもいい事なんだけど」

「何……じゃあ、何でガキどもを?」

「あたしはね……百鬼と夜行、この二つの集団が派手に喧嘩しているって聞いて、ただ応援してあげたくなっただけ……悪い方のね!!」


 鳥肌が治まらない。そのぐらい、その笑顔はあまりに邪悪で、かわいらしいという形容詞とは真逆のベクトルだった。ひねくれてるとかそんな次元の話じゃねえ。例えるなら純粋な漆黒だ。染まりようのない黒。そして、もう一つ……こいつはとんでもなく強い。おそらく天童よりも……


「だからさ……八部衆の天ちゃん♪あたしと殺しあお?」


 やめるんだ、天童……こいつは危険だ。ブシュルワアアァァとか甚五郎とかあんなのの比じゃねえ。こいつはやばすぎるんだ!!


「ちょっと待て。出来れば戦闘は避けたい。だから、交渉しよう」

「交渉……?ふん、まあいいわ。一応聞くだけ聞いてあげるそっちの条件は?」


 そうだ、天童。何が何でもこいつとの戦闘は避けてくれ。下手をすれば全滅する。ここはうまく……


「3秒以内に死ね。さもなきゃ殺す」


 忘れてた……こいつもそうなんだよ……基本どす黒い闇社会の住人なんだよ。もう、色んな意味で。そんなこいつがここまで露骨に喧嘩売られて買わないわけなかった……


「アッハッハ!!何それ!?超格好いいじゃん!!マジしびれちゃったよ、あたし!!」

「うるせえよ、この薬中イカレ女。とっととそこから降りてこい」

「うん!!それじゃ……いっくよ!!」

「な……!!」


 その光景は瞬きをしていたら何が起こったのか理解できなかったと思う。そのぐらい一瞬の出来事だった。

 都羽姫がご神木から飛び降り、鎌の柄で天童を転がし、わき腹を切り裂き、顔面を蹴りつけ、自分が元いた大木の根元まで吹っ飛ばすのにわずか1秒足らず……強いとか、速いとかいうレベルじゃねえ……


「う、ぐ……」

「へえ!!さすがは溶鉱炉にぶち込んでもくたばらない夜叉族ってことだけはあるね。今のでまだ生きてるんだから。感心、感心♪」

「て、めえ……」

「あ、でも女の子は死んじゃったんだよね?」

「調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

「吠えるなよ、雑魚が」


 蹴り。下から上へ。瞬間移動のように反応できない早さで天童のふところに飛び込んだ都羽姫がした攻撃はそんな単純なものだった。だが、あのスピードで動ける脚力で思い切りあごを蹴り上げられれば……


「く……そ……」


 さすがの天童でも意識を失い動けなくなった。俺はその時、気がついた。どうして、こいつだけ夜行やぎょう物の怪もののけ目録もくろくに名前が記されてなかったかを……実に簡単で幼稚だが、恐ろしいことにこいつの相手をして生きて帰ったものがいないからだ……こんなの……どうしろってんだ?


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