第61話 天童の強さ!!
百鬼衆……それはただの妖怪たちで構成されたテロ組織なんかじゃなかった。天童の父親、先代の酒呑童子・夜叉王丸という鬼が作り上げた妖怪集団だった。しかも、天童は父に母を奪われ、兄弟に育ての父を奪われ、友も奪われ、姉も守れず死なせてしまった。天童の過去は俺なんかじゃフォロー出来ないぐらい悲しいものだった。
「ま、俺の場合、悲しみより憎しみだった……憎しみだけを糧に、復讐を心の拠り所に……それだけを目的に生きてきた……」
天童の体から力が抜けていく……その目には最早精気のかけらもない。まさに生ける屍だ……なんとも、こいつらしくない……
「なあ、良平……俺の気持ちが分かるか?」
「……?」
「人生最大の目的……それを達成しちまった俺は……どうしていいか分からなかった……する事がない……したい事が……何も望むものはなかった……そんな事許されないと、その資格さえないと思っていた……」
「天童……お前……」
「なまじ……人間の心なんか持ったばかりにこんな苦しい想いをするんだろう……どうして鬼として生きていけなかったのか……どうして人になんてなろうと……どうして俺は生きているんだろう……」
「そんな事言うなよ……そんなのお前らしく……」
「…………けどな、今はもう……そんなこた、関係ねええぇぇ!!」
しかし、
「俺が動かなきゃ泣いちまう奴がいるってんなら!!」
「にゃ?」
消えかけた火が一気に燃え上がったように、
「俺が戦わなきゃ傷つく奴がいるってんなら!!」
「天童……」
全身から妖気があふれ出し、その目が輝く……
「化け物と呼ばれようと、悪鬼と恐れられようとかまやしねえ!!」
「それでこそ……誠の鬼です、天童君」
絶望と憎悪に満ちた闇色じゃない……熱い闘志に燃える優しく強い赤色に!!
「売られた喧嘩を全部買って、死ぬまで戦い続けるのみだ!!だから、てめえのお誘いは拒否させてもらう!!ついでに、そんな負の遺産も相続拒否!!」
そうだ……そうだった……こいつはこういう奴なんだった……別に誰が頼んだわけでもないのに、勝手に嫌な役を買って出て……おまけに感謝はされない、謝礼ももらえない、見返りは求めない、正義を語る気なんか鼻からない。そんなつもりもないんだろうけど、やっぱりお前はかっこいいわ。
「ふ……それでこそ鬼……それでこそ夜叉王……酒呑童子!!なれば!!いざ、お手合わせ願いたい!!」
「よし、その喧嘩買ってやる!!」
勝負は始まりものの2,3秒で決着がついた。
二人はお互いに抜刀すると同時にかけだした。堺甚五郎が狙ったのは胴…刀は真一文字に振り切られる。しかし、天童の体には1mmも傷を負わせる事が出来なかった。それもそのはず、天童の奴は堺が切りかかった刀の上に飛び乗っていたのだ。
そして、刀の柄の部分で鬼の面を叩き割り、それと同時に堺の刀から飛び降り、後ろへぐらついている堺の体から伸ばされた両腕を切り落とした。それだけ勝負は決した。
だが、物の怪とまでなった武士の目は死んでいなかった。俺はまだやれる。そう言った気がした。その首が宙を舞い俺の足元に転がるまで……ものの2,3秒である。とんでもねえ世界だ……
「ぐ……」
「無念か、オッサン?」
「馬鹿を申すな、鬼の王よ。我が心中はまさにその真逆。大満足なのだよ……」
「あんたMなの?」
「ふふふ……そうではない。ただ、拙者は戦いたかった。真い強い猛者と。御伽噺の怪物と恐れられる……鬼と!!」
「お前まさか……」
「そのために死してなお成仏せず、信念を捻じ曲げてまで外道に手を貸し、悪事に手を染めた……ついでに、辻斬りをしていたなどと、うそぶいたな。しかし、その甲斐……十二分にあり!!これで思い残す事は……」
落ち武者……いや、武士・堺甚五郎の体は光になって消えていった。あのオッサン……ただ、本当は天童が百鬼衆に来ようがきまいが関係なかったんじゃ……ただ、一人の剣客として純粋に……最強の妖怪である天童修司と勝負がしたかったんだな……
「堺甚五郎……お前の名前、覚えとくぜ……」
天童は刀を鞘に納めると、堺甚五郎に敬意を評し経を読んでやった。俺や玉希ちゃんや先輩もどうように手をあわせ、オッサンの冥福を祈った。
「けどよ、天童。正直俺どうしようかと思ってたんだ」
「何が?」
「いや、お前の過去って先輩や玉希ちゃんと比べ物にならないほどヘビーじゃん?そんなのどうやってケアーしてやれば……」
「別にいらねえよ」
「へ?」
「いやいや、俺あいつらと違ってそんなにメンタル面もろくないし。こう見えても寺育ちで座禅とかやって鍛えてるから」
「あ、ああ……そうなんだ……」
「昔は昔、今は今って割り切ってるから」
ええ……なんか凄いサバサバしてる……
「え?でも商店街でみせたあの寂しげな表情とかは?」
「そりゃ、やっぱり俺も親子とかいいなって思う時はあるよ……でも、まあ今は組のみんなが家族かな?あ、ちなみにこの組って死んだ友達のところでね、本当はそいつが若頭やるはずだったんだけど、死んじゃったから俺が変わりにやってるの」
うん、ごめん。聞いてない。ていうか出来れば聞かせないで、そんなおっそろすぃ裏話。しかもにこやかスマイルで。
「え、じゃあ、何でもっと早く言わなかったの?企業秘密とかなんとか言ってごまかして……」
「それは……だって……そんな事知られたら……友達でいてもらえなくなると思ったから……」
………………………………メンタル面、弱いじゃん。